ONE FLIGHT UP / DEXTER GORDON
BLUE NOTE 4176
DONALD BYRD (tp) DEXTER GORDON (ts) KENNY DREW (p)
NIELS‐HENNING ORSTED PEDERSEN (b) ART TAYLOR (ds)
1964.6.2 PARIS
少し前から、新規のアルバム更新の他に、previousとして以前のアルバムをupしている。この所、更新スピードが遅れ気味なので、苦肉の策というのが本音だが、自分なりに意味のある形を取っている(大汗)。
先回、upしたカウエルの作品の場合、まぁ、自己満足の域を脱していませんけれど、‘THE
RINGER/C・TOLLIVER’、‘WHY NOT/M BROWN’でそれとなく暗示している。で、今回は、‘DOIN'
ALLRIGHT’でモロに予告している通り、本作を選んで見ました。
弊HPを訪問して頂いている方々の中で、次回は「ひょっとしたらゴードンかな?」と推測された方が居られたかも知れませんが、「まさか、コレを」とお思いになったのではないでしょうか。それほどに本作はゴードンの作品中、異端にして、同時に冷遇されている。
だが、僕にとって、ゴードンと言えば、真っ先に本作を思い浮べるのです。
京都「しぁんくれーる」にせっせと通い始めた超初心者の頃、「これは!」と思ったレコードで、カヴァを手にする勇気が無く、遠くから眺めながらそのカヴァの特徴、楽器編成を頭の中にメモった作品がある。
アルバム・タイトルはもとより、ミュージシャンの名すら、殆ど知らない時期だったが、記憶に残っているものとして‘LEE
WAY/LEE MORGAN’、‘BYRD IN FLIGHT/DONALD BYRD’、そして本作の3枚がある。偶然とは言え、全てBNとは、今思えば不思議だが、これがBNの持つ魅力以外何物でもないだろう。
この廃屋と思しき古ぼけた建物をバックに大股開きの一人の男というややミス・マッチのカヴァと片面が異例の1曲、そしてts、tpによるクインテットという僅かながらの記憶を基にレコード探しが始まったが、何故かなかなかこのカヴァに巡り合わず、随分後になってなんかのジャズ雑誌でゴードンのレコードであることを初めて知ったほどである。
‘GO’とか‘OUR MAN IN PARIS’といった人気盤はかなり出回っていたが、本作は玉が思いのほか少なかったようです。
さて、アタックの強いペデルセンのbとテイラーのdsをバックに秘めやかにテーマを滑り出すtsとtp、もうこのイントロ部分だけで本作の魅力が十分に窺い知れますが、ゴードンの退廃的なソロが始まるやいなやこの18分にも及ぶA面のバードの長尺曲‘Tanya’のミステリアスな世界に全身、すっぽりと覆われる。本作が流れた「しぁんくれーる」でもそれまで浮ついていた店の空気が一変、皆の手足の微妙な動きさえ止まったかのようでした。また、全編に亘って同曲の持つミステリアスなムードを煽るようなテイラーの別人の如き挑発的なドラミングも聴きものです。
でもね、この一曲で終わらないのが本作の凄い所。B面の2曲、とりわけ1曲目のドリュー作‘Coppin'
The Haven’、‘Tanya’に勝るとも劣らぬ名演です。あの大らかで豪放なデックスにこんなシビアで緻密な側面が有ったのか、と驚きを隠せません。イャー、ほんと聴き惚れます。この演奏、好きだなぁー。ラストの‘Tarn
That Dream’、いつもと違ってやや辛口のバラード解釈がイイ。
ある本に「ゴードン・ファンが素直に楽しめるのは‘Tarn That Dream’かもしれない」とコメントされていました。確かに、その通りかもしれない。
けれど、‘Tanya’そして‘Coppin' The Haven’の演奏をもし異端視したならば、結局はゴードンの本当の力量を侮っているのではないか。
それとも、僕は初めから皆と違うゴードンの入口から入ったのだろうか?
おっと、忘れてはいけない聴きものがもう一つ。当時、まだ18才という天才ベーシスト、ペデルセンではなく、そろそろ怪しくなりかかり、作曲の勉強のため、渡仏していたtpのバードです。テイラー同様、別人の如き覇気のあるペットを聴かせてくれます。何よりも「音色」が良く、張りがある。
熱いハートは健在です。嘘だと思うなら聴いてごらん。驚く方も少なくないのでは。
この日、このスタジオで何が起こっていたのだろう?異郷の地でのびのびとレコードを吹き込むといった次元以上に、「自分達のやりたいジャズを演るんだ」という創造的思いが全員の体を支配していたのではないでしょうか。ここが本作の最大の聴き所です。
なお、本作の録音はゲルダーではなく、JACQUES JUBINという技師によって行われ、ゲルダーはカッティングだけ担当している。だから、聴き慣れたゲルダー・サウンドとは大きく異なっており、タイトで密度の濃い「音」になっている。
その「音」の違いと共に、他の作品と比べ、一番、演奏密度が濃く楽想も高いと僕は思います。
(2007.9.24)
BLUE NOTE 4031
HANK MOBLEY (ts) WYNTON KEKKY (p) PAUL CHAMBERS (b) ART BLAKEY (ds)
1960.2.7
先日、bassclefさんの「Wally Heiderというエンジニア」というトピックでシェップの‘Live In San Francisco’も彼の録音とのびっくり情報を提供して頂いたシュミットさんからメールをいただいた。その最後の一行にこれまた驚きのコメントが書かれていました。
あるジャズ喫茶のことである。以前より、このジャズ喫茶の思い出話をupしょうと考えていましたが、その名に99.999・・・%確信を持っていたが、記憶がやや曖昧になり始めた昨今、残りの0.000・・・%の「まさか」がずっと邪魔していた。
その名とは、なんと「SM・SPOT」(ギャハッハ・・・・、信じられます?)。
当時、付き合っていたG・Fと何度も出入りしていたので、すれ違った人達から好奇の目で見られていたかもしれませんね、否、間違いなく、こんな真昼間から・・・・・・(再び、ギャハッハ)。
さて、本作はモブレーの数ある作品中、最近、代表作として定評のある一枚だが、僕はずっと世評通りには聴いていませんでした。
だが、最近になって、本作の良さがやっと解りかけてきた。「中庸の美学」というより、「中庸」という言葉の本当の重み、凄さを感じ始めたのです。ケリー、チェンバース、ブレイキーといった一時代を築いた名手達の見事なバッキングがそれを証明している。
ところで、噂では、この良く知られているアルバム・カヴァはオリジナルではなく、2ndだという。1stカヴァは、ひょっとして、67
or 68年頃、初めて直輸入盤として本作がリリースされた時のモブレーの顔が大きくしかもややぼんやりと写ったものなのでしょうか?
(2007.11.8)
BLUE NOTE BST 84048
DONALD BYRD (tp) HANK MOBLEY (ts) DUKE PEASON (p) DOUG WATKINS
(b)
LEX HUMPHRIES (ds)
1960.1.17 & 25
DONALD BYRD (tp) LACKIE McLEAN (as) DUKE PEASON (p) REGINALD
WORKMAN(b)
LEX HUMPHRIES (ds)
1960.7.10
ジャズを聴き始めた超初心者の頃、「これは!」と思った一枚。しかし、カヴァに「鳥」、そして、二管が入ったクィンテット位しか決め手として覚えていなかった。少しずつ知識が付き出し、バードのリーダー作と判ったが、同時に徐々に記憶も薄れ、さぁ、困った。‘FREE FORM’とどちらか、暫く迷った。
メンバーを見比べると、好みの域かもしれませんが、‘FREE FORM’に軍配が上がり、こちらを入手したが、うぅ〜ん、見事にハズレ!
その上、迷っている内に、何時しか輸入盤を見掛ける機会も無くなり、止む無く、国内盤で聴いている。まぁ、二枚とも買っておけば・・・・・・・、後の祭りです。
それはそれとして、バードの人気盤といえばVFUEGO’が真っ先に浮かびますが、本作はちょっと知れたジャズ喫茶の「裏人気盤」ではないでしょうか。その人気の基はモブレー、マクリーンの参加以上に曲の良さ。バードの2曲、ピアソンの3曲、中でもA-1の‘Ghana’(Byrd)、B-3の‘My
Girl Shirl’(PEASON)の二曲と思います。ハンフリーズのスティックが乱舞するトップの‘Ghana’なんか、曲想とともにジャズ喫茶受けするに、もぅ、充分過ぎです。それにモブレーのソロもイイですね。
ところで、初めて「しゃんくれーる」で聴いたのは、実はA面ではなく、B面だったのですが、その頃、バードは勿論、メンバー全員知らず、ただ、一曲目のtsのソロがメッチャ、カッコイイ事と、三曲目の小粋でシャレ感があるメロディが耳に残っていた。ヤッパー、「しゃんくれーる」は耳の肥えた兵達が集まっていたんですねぇ。
本作は、bだけ異なるリズムセクションにモブレーとマクリーンを入れ替えた二つのセッションから構成されたおり、1/25に録音された二曲、‘Ghana’とB-1のハンフリーズに捧げられた‘Lex’でのモブレーのソロが際立って良いのではないでしょうか。特に‘Lex’でのソロはどうでしょう!バードの後、右チャンネルからスーッと入り込んでくるモブレー、タイトで贅肉を削ぎ落とした筋肉質のトーン、抑揚を利かせたスムーズで無駄のないソロ・ワーク、おお、お見事!の一言ですよね。
記録としては他にもっと優れたソロが有ると思いますが、記憶としては、これに勝るものをすぐ思い出すのは容易ではありません。ちょっと大袈裟な表現を使うならば、モブレー、「畢生の名ソロ」と言って、過言ではありません。
一方、マクリーンは相変わらずぶっきら棒で憂いを含んだフレーズで聴き手を楽しませてくれていますが、ピアソンの名曲‘My Girl Shirl’では、僕だけかもしれませんが、「この手のスタイルの演奏は、もう、いいや」と言わんばかりの投げやり感さえ感じます。あの‘LET FREEDOM RING’の芽が既にここに・・・・・、とは、あまりのも荒唐無稽なんでしょうか?
では、リーダーのバードはどうでしょうか? あのナイーブさと背中合わせの脆弱さから成る好キャラクターがすっかり影を潜め、妙に大人びた、想定内のプレイに終始している。バードだけを聴いているならば、兎も角、失ったものの代わりに新しい意匠なり、感性を身に付けていない無防備なバードに、これ以上伸び代を期待できないもどかしさ、寂しさを覚えるのは果たして僕一人でしょうか?
いずれにしても、モブレーのこの一発!が有る限り、ずっと記憶に残る一枚には違いない。それじゃ、あまりにもバードが可哀そうですか。
なお、‘Lex’はこちらでも再演されています。
(2010.5.5)