MUSE MR 5060
WALTER DAVIS JR.(p) SAM JONES (b) BILLY HART (ds)
1974.12.30
前回の‘DODO'S BACK’の後となれば、ビショップの‘SPEAK LOW’がくるのが、常識かもしれないが、そんな野暮な事はしない。同じビショップでも本作を取り上げるという暴挙?に出た。
どうだ、このむさ苦しいジャケット。どういうセンスなんでしょうかね。エサ箱でこのレコードを見つけても殆どの方が無視し、中には蛮勇の持ち主が裏をひっくり返し、トップの‘Invitation’に「おや?」と関心を見せても、まず、手を放すだろう。
だが、‘PRODUCED BY FERD NORSWORTHY’の文字に気付き、「ひょっとして・・・」とレジに持って行く方は相当なジャズ通ではないでしょうか。そお、‘FERD NORSWORTHY’と言えば、‘SPEAK LOW’をはじめ「幻の名盤」の宝庫として一時、騒がれた「JAZZ
TIME/JAZZ LINE」レーベルの創始者である。
本作は76年にリリース(アメリカ)され、リアル・タイムで手に入れたものですが、勿論、そんな関係を知っていたワケではなく、ただ単に好きな‘Invitation’に釣られただけです。
さて、本作に収録されているゴルソンの名作の一つに挙げられる‘Killer Joe’を、もし、ブラインド・ホールド・テストに出されたならば、果たして何人の方が「ビショップ」と答えられるでしょうか? まず、皆無に近いのではないでしょうか。既に変貌の兆しを見せる下の‘SUMMERTIME’をお聴きになっている方でも、なかなか答えられないはず。ましてや、‘SPEAK
LOW’やマクリーンのBN盤しか聴いていないならば、まず全滅であろう。「ビショップです」と言われたら、全員、腰を抜かすのでは。
この‘Killer Joe’にその後の変貌が顕著に表れているが、全篇に亘って録音のせいかもしれないが、C・コリアに似たキラキラとしたトーンで舞うように弾くビショップのピアノが本作の聴き所。まぁ、時代が時代なので、軽いなぁ、、と感ずる向きもあるやもしれませんが。
で、聴きものはやはり冒頭の‘Invitation’。8:34の長尺もの。さりげないイントロからして期待が膨らみ、ハートのややデリカシーに乏しいシンバル・ワークに乗りながら、グルヴィーな味を次々と弾きだすビショプのソロにいつの間にか手足のみならず身も心もスイングしている。タイトルになったオリジナル曲、エヴァンスのオハコ、‘Make
Someone Happy’など自分の語法でしっかりと表現しているし、他の曲でも大袈裟に言えば好き放題に演っている感じがします。
全体に、やや派手気味なプレイに好みが分かれるが、小さく纏らず思う存分自己を主張しているところを大いに支持したい。その点、下の‘JUST
IN TIME’は重心は下がっているものの、ちょっと辛口だが、面白みに欠ける。驚く事に、この‘JUST
IN TIME’のライナー・ノーツを書いているのがなんと、また‘FERD NORSWORTHY’なんです。この二人、なにやら赤い糸で結ばれているのでしょうか。
まぁ、本作の魅力はザックリ言ってキザぽさ、不良ぽさといってもいいでしょう。後は聴き手のセンスか?
果たして「暴挙か、否か」、一度、御自分の耳でお確かめ下され(大汗、タラタラ)。
ヤッパー、「迷盤」かな? でもこんなレコードを紹介するHPは弊サイトぐらいと思し召し、大目にみてください。
なお、「JAZZ TIME/JAZZ LINE」レーベルに関してはこちらを参照してください。
SUMMERTIME (Cotillion CLP 239)
1963. 10
JUST IN TIME (INTERPLAY IP 8605)
1988.9.10
(2006.6.1)
ATLANTIC 1376
CARMELL JONES (tp) HAROLD LAND (ts) FRANK STRAZZERI (p)
RED MITCHELL (b) LEON PETTIES (ds)
1961.10.14, 12.13
のっけからこんなことを言うと、身も蓋も無いけれど、このレコードはコ・リーダーを務めるミッチェルとランドを聴くよりもtpのカーメル・ジョーンズを聴く作品と言っても過言でないと思う。
昔から通の間では、B面の一曲目を聴くとその作品の全てが解るという説が実しやかに囁かれていた。本作は正にその説を裏付ける内容と言え、それがカーメルのオリジナル‘Somara’。何気ないpのイントロから一転、キビキビとしたバップ調のテーマから、コルトレーンの影響を受けたランドの引き締まったトーンによる筋肉質のソロ、そしてミッチェルのbをブリッジにして、右チャンネルから、満を侍したように飛び出すカーメルのtpがメチャ熱い!P・Jレーベルではあまり見せない姿だけに、イェー、イェーの連続。
続く、ちょっとオリエンタル・フレーバーを効かしたランドのオリジナル、‘Catacomb’、ここでもミッチェルのアルコの後、まるでブラウンが生き返ったような鮮やかなカーメルのソロ・ワーク、心の中で思わず「良いぞー、もっと行け!」と叫んでしまいます。ラストのストラッゼリ作‘Pari
Passu’では燃えるようなソロを展開するカーメル、火傷しそうです。B面はまるでCARMELL
JONES QUINTETですね。
それにしてもこのアルバムカヴァのひどさは呆れてしまう。バックの鉄筋コンクリートの残骸は何だろう?それに貼り付け人形のようなミッチェルとランドの二人。まぁ、それなりの意図はあるのだろが、度を越えている。
少なくとも裏事情を知らぬ日本人は、その内容を云々する前に、購買意欲を削がれるであろう。
でも、そんな外的要因に囚われる前に、騙されたと思って一度、本作を聴いてみてください。
カーメルの素晴らしいtpに驚かれるでしょう。出来れば‘Somara’からをお奨めします。
なお、内容はウエスト・コースト派ながら、イーストぽい好演奏です。
また、カーメルのtpをお気に召したらこちらにも寄り道してください。
(2006.12.12)
60年代の初め、西海岸にはカーメル・ジョーンズ(↑)の他にもう一人、優秀なトランペッターがいた。それが、本作のジョー・ゴードン。ただ、まだ新人の域であったカーメルと違ってゴードンは58年、ウエスト・コーストに移住するまで、既にイースト・コーストで、ブレイキー、モンク、シルバー達に交じって第一線で活躍、また、パーカーと共演した経歴も持っている。
コレクターズ・アイテムの一枚として知られるトランジション盤「バーズ・アイ・ヴュー/ D・バード」やシルバーのエピック盤「シルバーズ・ブルー」等でその名は知られているが、やはり「幻の名盤読本」に掲載された初リーダー作‘INTRODUCING
JOE GORGON’(Emarcy)が一般的には有名で、その「幻の名盤読本」では文句無く本作よりEmarcy盤の方が優れているとコメントされてるが、さぁ、果たしてどうだろう?
ゴードンは1928年、ボストンに生まれ、あのC・ブラウンとD・B誌で新人王を争ったほどの実力者で、原文ライナーによると新人王に輝いた友人でもあるブラウンはゴードンに「本当は君が選ばれるべきだった」と語ったそうである。
CONTEMPORARY S 7597
JOE GORDON (tp) JIMMY WOODS (as) DICK WHITTINGTON (p)
JIMMY BOND (b) MILT TURNER (b)
1961.7. 11.12.18
(2007.1.5)
UNITED ARTISTS ULA 4047
tp : ART FARMER, LEE MORGAN, ERNIE ROYAL
tb : CURTIS FULLER, JIMMY CLEVELAND(*WAYNE ANDRE)
baritone horn : JAMES HAUGHTON
french horn : JURIUS WATKINS(*BOB NORTHERN)
tuba : DON BUTTERFIELD
bass : PERCY HEATH
ds : PHILLY JOE JONES(*ELVIN JONES)
なお *印は曲によって入れ替わる。
また、‘Moanin'’一曲のみBOBBY TIMMONS(p)が加わる。
arranged by BENNY GOLSON
1959. 5. 14
このレコードはsax類と1曲を除き、pも排したユニークな編成の中型コンボをゴルソンが全曲アレンジを施した作品。一応、フロント・カヴァでFARMERが大きく記載され、バックでもART
FARMER TENTETとクレジットされているけれど、ファーマーは全曲でソロを取っておらず、ゴルソンのアレンジ色が前面に出ている事もあり、内容の良さの割りには、ファーマーのリーダー作としてあまり評価されていないようだ。
ここで、収録曲を見てみよう。
* A面
1.Nica's Dream
2.Autumn Leaves
3.Moanin'
* B面
1.April In Paris
2.Five Spot After Dark
3.Stella By Starlight
4.Minor Vamp
つまり、収録曲の決定的名演奏が他のアルバムにあることが本作の存在を薄めているのに拍車をかけているのかしれない。しかし、本作のヴァージョンもなかなかどうして結構イケル。トップの‘Nica's
Dream’もいいが、次の‘Autumn Leaves’は‘SOMETHIN' ELSE’の「陰・静」に対し本ヴァージョンは「陽・動」。クリーヴランドのtb、ローヤルのtpが実にいい味を出しています。また、‘Five
Spot After Dark’はあの人気ヴァージョンの1週間前の録音で、中〜終盤にかけての巧妙なアレンジが光る。
だが、一番印象的なヴァージョンが意外?にもB面トップの‘April In Paris’。重々しいというか格調高いというか、パリの曇天を思わせるテーマ・アンサンブルの中、スパッと一条の光が差し込むようなファーマーのtpが聴きもの。短いソロ・パートながらも、うぅーん、インパクトが有るねぇ。「知られざる名ヴァージョン」と言っていいだろう。
もう一つ、思わぬ聴きものがあります。ラストの‘Minor Vamp’。出だしのフラーもいいが、最後に出てくるモーガンの「イョー、待ってました」と言わんばかりのソロ、言葉も出ません。恐れ入りやした。その後の押し寄せる津波のようなアレンジも効いている。
ただ、‘Moanin'’に参加したpのティモンズがどうしたことか、あまり冴えなく、‘Stella By Starlight’も何処となくアレンジに頼り過ぎた感もあり、ここが本作を全面的に強く推せない主因かも知れません。とは言うものの‘SLIDING EASY / CURTIS FULLER’と同様に「忘れられた名盤」としてレベルは保持していると思う。
なお、蛇足気味ながら付け加えておくと、このモノラル盤のtpの録音、抜群にイイです。ファーマー、ローヤル、そしてモーガンのペットの音の生々しさ、なんと表現したらいいのでしょうか?
(2007.6.10)