隠れた名盤・好盤  vol.9

  


 
 THE GIANT IS AWAKENED / HORACE TAPSCOTT
     


 
FLYING DUTCHMAN FDS 107
  

BLACK ARTHUR BLYTHE (as) HORACE TAPSCOTT (P) DAVID BRYANT (b)
WALTER SAVAGE (b) EVERETT BROWN (ds)

1969.4.1
 
 
フライング・ダッチマン」というとあまりにもガトーのイメージが強すぎるせいか、ついイカサマ・レーベルのように思い込み勝ちですが、さすが、インパルス時代、コルトレーンの名作をプロデュースしたボブ・シール、すくなくとも初期においては、なかなか骨のある作品を残している。その代表例が‘FLIGHT FOR FOUR’と本作。
 
時をほぼ同じくしてクリード・テイラーが設立CTIとこのフライング・ダッチマンは70年代初頭、ジャズシーンをリードしたレーベルとして忘れることはできない。しかし、両レーベルのアルバム造りのコンセプトは実に対照的で、ザックリ言えば、テイラーはかなりエスタブリッシュされたミュージシャンの隠れた才能をうまく引き出すという点に主眼を置く一方、シールは無名に近いニュー・タレントを掘り起こす、或いはスポットを当てることに力点を置いていて、真に興味深いものがあった。

ただ、両レーベルとも、シール、テイラーがプロデューサーよりも経営者としての顔が徐々に前面に出始めると共に、その存在感を急速に失っていくのにそれほどの時間を要しなかったのも厳然たる事実であった。
まぁ、世の中によくあることで、大会社の傘の下でアルバム製作だけに専念できる立場と設立間もない会社の経営者としてもその手腕を振るわなければならない立場では自ずと方向性の違いは出てくるのは必定。

況してや、わが国では悪名、悪評高いファラオ・サンダースの「カーマ」がわずか数年間で20万枚ものの売上を、また、あの「ビッチズ・ブリュー」が発売二ヵ月で7万枚も売れたのを横目でみれば、邪心が芽生えてもおかしくなく、決して咎められるものではありません。つまり、ジャズ・アルバムの市場性に認識を新たにしたわけです。

因みに、「ビッチズ・ブリュー」の空前のヒットによりマイルスは71年、CBSコロンビアと三年間で30万ドルという黒人ジャズ・ミュージシャンとしては破格の報酬で契約を更改している。
じゃぁ、ファラオはどうだって?サァー、どうなんでしょうか(笑)。
 
 
さて、このアルバムがリリースされた当時、よほどのジャズ通のファンでない限り、タプスコットの名は知らなかったのでは無いでしょうか。自分も後年になってS・クリスの‘Sonny's Dream’を聴いて「あれー」と思ったほどです。

セシル・テイラーにも通ずるパーカっシブで硬質のタプスコットのpを機軸に、ダブル・ベースとドラムス、そしてコルトレーン・ライクなブライスのスピリチュアルなasががっちりしたモダンジャズの枠組みの中で絡み合い、タプスコットの強烈な個性が前面に打ち出された快作です。
 
 
70年代以降のジャズはどうも、とお嘆きのジャズ・ファンが多いようですが、色眼鏡をはずしてじっくりと聴き直してみると、特に70年前後はいろんなスタイルのジャズが入り乱れて、実は大変おもしろいのです。

その好例が本作と‘FLIGHT FOR FOUR。未聴の方は騙されたと思って是非、この二枚をジャズ喫茶等でお聴きになって下さい。

 
 
 

(2008.10.9)




VOL.3 / CURTIS FULLER




BLUE NOTE  1583

ART FARMER (tp) CURTIS FULLER (tb) SONNY CLARK (p)  
GEORGE TUCKER (b) LOUIS HAYES (ds)

1957.12.1



フラーはBNに4枚のリーダー作を吹き込み、57年に録音した3枚は正規にリリースされたが、58年に録音した4枚目、‘TWO BONES’は「お蔵入り」となり、後年になって発表されている。


この4作のフロント・ラインの相手は1作目はモブレー(ts)、2作目はヒューストン(bs)、そして本作ではファーマー(tp)、4作目はハンプトン(tb)とライオンは味のある計らいをしている。pは1作目のティモンズの他は、全て、ソニ・クラが起用されているのも興味深い。
 
この頃のフラーはtbのニュースターとして、ハード・バップ人気レーベルのプレステッジ、ブルーノート、サボイに矢継ぎ早にリーダー作を吹き込み、そのお陰で、わが国では、あのJ.J.よりひょっとして人気があるやもしれません。

その中で、一番の人気作といえば、サボイの‘BLUES−ETTE’が無条件で挙げられますが、BNでの人気盤といえば、意表を突き、バラードから始まる1作目の‘THE OPENER’ではないでしょうか。

で、3作目の本作はどうかというと、これが意外に話題に上ることがない。2作目の‘BONE & BARI’の方がややもすると良く聴かれているのかもしれない。メンツは決して悪くない。じゃあ、どうしてだろう、と考えてみる。
もし、tpがモーガンだったらどうだろ?それとも当時絶好調のバードだったらどうだろか?


そんな事を考えながら聴いてみると、本作のキー・パーソンはpのクラークではなく、ずばりtpのファーマー。
たしかに、バードはともかく、モーガンのような「華」はないけれど、ここでのファーマー、いい仕事をしていますよ。マイルスに続くNo.2の座をドーハムと分け合っていた実力者です。モーガン、バードだったら、というのは、後から自分の耳に都合いい話だけであって、さすが、ライオン、見る目が違いますね。

そのファーマーの好演に肩を押されてか、フラーも、tb本来の魅力でもある中低域を活かしながら、自分の持ち味を存分に発揮している。

本作のもう一つの聴き所は6曲中、フラーが書き下ろした5曲とそのプログラミングがイイ。一曲たりとも似通った曲調、曲想が無く聴き手を飽きさせず、ラストをバラード‘It's Too Late Now’で締めくくるなんて、ライオンはフラーの魅力を十二分に引き出している。しかも、スタートは‘THE OPENER’とは逆に今度はアップ・テンポで始めている。

そんな中、個人的に好きなトラックはA-3、フラーのオリジナル、レージーな‘Jeanie’、ファーマーのtpが聴きもの。そしてB-1、これもフラーのオリジナル、‘Carvon’、タッカーのアルコとフラーのtb、低音域同士のインターモデュレーションが崇高な雰囲気さえ醸し出している。

派手さは無いものの、聴くほどにフラーのtb、ファーマーのtpの味が沁み渡ってくる好作品で常日頃、「日陰の名盤」と聴いている。


なお、このセッションのほぼ一ヵ月前、tpとリズム・セクションが全く同じメンツのC・ジョーダンの「クリフ・クラフト」が録音されており、これも「日陰の名盤」といえるでしょう。そして、一ヵ月後、年が明けた1月5日、ライオンは、今度はクラークを頭にtpにまたファーマーを起用したセッションを設け、これまた「日陰の名盤」であったが、日本(だけ?)では「天下の大名盤」となったのだ。




さて、巷の噂ではこの‘VOL.3’は3年間ほど塩漬けされ、61年になって初めて発表されたそうですが、‘Goldmine’では順当に58年にリリースされ、$120.00(NM)となっている。果たして、どちらが正しいのでしょうか。僕の持っているシュワンのカタログ(69年8月号)では、残念なことに、フラーのBN.盤はカタログ落ちしており、判断材料になっていない。

仮に、61年になってリリースされたとして話を進めてみよう。この頃、フラー、ファーマー、ゴルソンによる「ジャズテット」がジャズ・シーンで話題を集めていましたが、ライオンがそれを見越して敢えて本セッションを塩漬けしたとは、ちょっと考え難く、一作目、二作目の反響がいまいちのため、リリースを見送り、タイミングを計っていたと、解釈した方が無理がないであろう。もし、出来に不満があったとしたら、やや若さを露呈した感のあるヘイズのドラミングかな?
それに、「ジャズテット」が結成されず、また話題も集めていなかったら、本セッションは所謂「お蔵入り」になってしまったのだろうか?イャー、歴史っておもしろいですね。


それともう一つ、61年になっても「1583」のナンバーのままででリリースされたのでしょうか?そうすると、以前からやや疑問を感じているコルトレーンの‘BLUE TRAIN’のリリース時期の問題が浮上してきます。


いずれにしても、この問題はコレクターさん達にお任せした方が賢明のようですね。


なお、所有する本作は残念なことに国内盤です(涙)。僕の乏しい記憶では、本作のオリジナル盤は玉が極めて少ないです。
でも、なんとか、手に入れたい一枚です。もっともNMは手が届きませんが(笑)





(2008.11.16)


 

TOTAL ECLIPSE / BOBBY HUTCHERSON 


BLUE NOTE BST 84291

HAROLD LAND (ts,fl) BOBBY HUTCHERSON (vib) CHICK COREA (p) 
REGGIE JOHNSON (b) JOE CHAMBERS (ds)

1968. 7. 12



ボビハチのベスト1・アルバム選びってのは、簡単な方程式を解くようなもので、あまり妙味がない。‘HAPPENINIGS’と言うのが巷でのセオリーのようですが、捻くれ者の僕はチョット違う。‘HAPPENINGS’を嫡子とすれば、僕が推す「お蔵入り」され、後年リリースされた‘OBLIQUIE’はさしずめ庶子のようなもので、世間では認知されていない。いつの世でも庶子は弱い立場なんですねぇ(笑))

それはそれとして、じゃぁ、2番手、3番手は?って言うと、これが結構、面白い。最近になってようやく認知され始めた?73年の‘LIVE AT MONTREUX’を除けば、BN時代、それも60年代というのが衆目の一致するところではないでしょうか。でも、票が割れる。

お蔵入り音源を入れると、話がややこしくなるので、今回はその当時、リリースされた嫡子アルバムに絞ると、僕が知る限り、65年の初リーダー作‘DIALOGUE’から69年の‘NOW’までの6枚のはず。で、‘HAPPENINIGS’を除く横一線と言われる5枚の中で、一つ頭を出していると思われる作品がこの‘TOTAL ECLIPSE’ではないでしょうか。

本アルバムの最大の魅力はズバリ、「スピード感」。トップの‘Herzog’で代表される軽快なフットワークだ。それに大きく寄与しているのが、この頃、メキメキと頭角を現してきたC・コリアの透明感のあるpと、BNでは意外な人選と思われるtsのランド。モードというよりコルトレーン・イディオムを自己のキャリアに落とし込み、自分なりに消化したランドのプレイが聴きもの。このアルバムはリバティへの移行期に関係するのか定かではありませんが、ゲルダーの録音ではなく、ランドのtsがやや過剰気味にエコーが掛けられ、しかも、少し後方にシフト、浮遊感を持たせていますね。それまでのBNサウンドとは異質で、逆に時代性を感じさせます。
 
ここで、本作品の録音日について。当初、この作品の録音日は1967. 7. 12とされていましたが、比較的新しい資料では1年後の1968年と記載されているケースが多い。ライナーノーツを読むと、本作でも取り上げられているコリアの‘Matrix’について述べられている内容から推測すると、やはり、1968年かな、と思い、話を進めてみます。

この作品後、ボビハチとランドはよほど気があったのか、しばらく行動を共にし、何枚かの作品を残していますが、その前に、67年12月と68年2月、CADETに‘PEACE-MAKER / H・LAND’を録音している。おちょくったようなタイトルが付けられていますが、‘TOTAL ECLIPSE’とは全く別スタイルの演奏となっている点が興味深い。まぁ、リズム・セクションの違いと言えば、そうなんですが、当時、BNで盛んに録音された所謂、新主流派ジャズが如何に独特で際立っていたか、よく解りますね。また、このCADET盤でのランド、なかなかエッジの効いた音を出しており、その頃、調子を取り戻していたようですね。

話を戻すと、この作品は些か軽めのカヴァから推測できるようにジャズが大きく旋回し始めた69年にリリースされ、、内容もそれまでの作品と比べ、シリアスさは薄らいでいる。


だが、緊張感は薄らいでいない。時代の空気を見事に映し出している。そこがイイんだなぁ。中でも、B面の一曲目、‘Same Shame’が好き。



(2009. 7. 1)


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