* 僕の大好きなトランペッター 1936年7月19日 カンサス州カンサスシティ生れ。96年、同地で死去。享年60歳。
vol.1
RETURNS / CARMELL JONES
REVELATION 44
CARMELL JONES (tp) ROLANND BURNS (as)[side2]
FRANK SULLIVAN (p) SCOTT WALTON (b) BILLY BOWKER (ds)
モダン・トランペッターの中でC・ブラウンの影響を受けたミュージシャンは数多いが、このカーメル・ジョーンズはその直系・正統派と言っていいでしょう。P・Jレーベルに初リーダー作「THE REMARKABLE」(1961年)を発表、64年、H・シルバー・クインテットのヒット・アルバム「SONG FOR MY FATHER」にも参加しています。
しかし、当時のモリモリのイースト・コースト・シーンでは、彼の端正ともいえるtpがあまり生かされず、プレステージに「JAY HAWK TALK」(65年)を録音した後、新天地を求め、ヨーロッパへ渡って行く。
その、ジョーンズが本国に戻って久しぶりに吹き込んだその名も「RETURNS」が本作。フロリダでのコンサートとスタジオのライブ演奏が納められているが、一部は、何と、SONYの‘Professional Walkman’というポータブル・カセット・レコーダーで収録しているため、音質は芳しくない。
ところが、そのハンディを上回るカーメル・ジョーンズの素晴らしいtpが聴かれます。カルテットとasを加えたクインテットに分かれているが、カルテットで演じる‘Stella By Starlight’、‘What’s New’では、しっとりと円熟したプレイで、、また、バップ・ナンバー‘Now The Time’、‘Billy's Bounce’では、卓越したテクニックとホットなtpで聴衆を沸かせます。
そしてラスト・ナンバーのロリンズの‘Pent Up House’では、まるでブラウンを彷彿させる鮮やかなソロで締め括り、実力の程を遺憾なく発揮している。こんな名手でも、あまり恵まれないとは、きびしいジャズ環境が窺われます。
あまり知られることのないこのレコードは、僕のささやかな「お宝物」の一枚です。
1982
(5/30/’04)
vol.2
PACIFIC JAZZ PJ 29
CARMELL JONES (tp) HAROLD LAND (ts) FRANK STRAZZERI (p)
GERY PEACOCK (b) LEON PETTIS (ds)
1961
‘THE REMARKABLE’とは、実に的を射たタイトルで、かのヨアヒム・ベーレントに見出され、W・コーストに進出した期待の新星の初リーダー作ともなれば、余計に期待が膨らむというもの。それにジャケットが何とも良いではありませんか。
カーメルの最初のアイドルは、M・ディビスであったがC・ブラウンを聴いてからは、ブラウンにすっかり心酔したという。本作でもブラウン譲りの美しいトーンで気負いのない端正なフレージングは並の新人の域を遥かに超えている。
お馴染み‘Come Rain Or Come Shine’を、難しいテンポで4分29秒、ワンホーンでじっくりと歌い上げています。しかも八分の力で余裕のプレイです。他のナンバーでもけれん味の無いアドリブを展開しタイトルに恥じない出来に仕上がっている。
ランドは、やや調子を落としていますが、ゲーリー・ピーコックの思索的なbがその分を補っています。
線の細さが故に結局、大成はしなかったが、僕のフェイバリット・トランペッターの一人として普段、数少ない彼のレコードを良く聴いている。もし、もう2、3年早く、W・コーストではなく、NYでデビューしていたら、彼の人生も大きく変わっていたかもしれない。
もう一度、ジャケットのジョーンズを見てみよう。いいトランペッターだ。
(9/27/’04)
vol.3
PACIFIC JAZZ PJ 53
* CARMELL JONES (tp) HAROLD LAND (ts) BUD SHANK, WILBAR BROWN,
JOE SPLINK & DON RAFEL (saxes) FRANK STRAZZERI (p) LEROY VINNEGAR
(b) RON JEFFERSON (ds)
arrangements by GERALD WILSON
* CARMELL JONES (tp) HAROLD LAND (ts) FRANK STRAZZERI (p)
GARY PEACOCK (b) DONALD DEAN (ds)
本作は単独リーダー作としては、PJ 29に続く2作目となるが、レコード番号では、その間に、TRICKY
LOFTON (tb)と双頭セッションの形で‘BRASS BAG(PJ、ST 49)をG・ウイルソンのアレンジの元で吹き込んでいる。今回も8曲中、4曲をウイルソンが指揮する中型コンボで、残り4曲はスモール・コンボで録音している。
どちらのセッションでも、これといって目玉になる曲はないものの、美しいトーンでしなやかに吹き綴るカーメルのtpが堪能できる。
カーメル・ジョーンズといっても、名前やH・シルバー グループでの演奏はともかく、リーダー作まで聴いているジャズ・ファンはそれほど多くはないと思う。
デビュー当時、「クリフォード・ブラウン」の再来として紹介され、H・ランドをパートナーした作品が多いのも、カーメルの可能性を狭めたことは否めない。しかし、時を経て、改めて彼のペットを聴くと、真摯でジャズ・トランペットの本道といえるプレイに、惹かれるファンは少なくないのではないでしょうか。
例えば、本作のスタンダード曲‘Beautiful Love’での衒いのないソロなど、一聴、淡白な印象を受けるが、カーメルの実力を知らしめるに充分なプレイです。
ただ、残念なのは、‘Stella By Starlight’ではテーマだけでソロ・パートがなく、ううーん、誠に惜しい。高速バップ・ナンバー‘Cherokee’では、ブラウニー譲りのテクニックを披露している。
派手さはないものの、カーメルの人柄がそのまま投影されたような、渋さの中にもキラリと光る愛すべき作品に仕上がっている。
1962
(5/29/‘05)
I REMENBER CARMELL JONES
vol.4
PACIFIC JAZZ ST 49
TRICKY LOFTON(tb) CARMELL JONES (tp) LOU BLACKBURN (tb)
FRANK STRAZZERI (p) LEROY VINNEGAR (b) RON JEFFERSON (ds)
+ trombone choir
Bob Edmondson, Kenny Schroyer, Frank Strong, Wayne Henderson
arrangements
GERALD WILSON
1962
少し前にW・ショーの熱烈なファンからメールを頂いた。弊サイトのようなマイナーなHPを見つけメールして頂いた事から推察すると、巷での評価・人気はともかくショーの隠れファンが意外?に多く存在するとも言えるのではないでしょうか?
では、C・ジョーンズはどうなんでしょうか? ウゥーン、恐らく極めてレアでしょう。
カーメルのアメリカでの活躍が61〜65年あたりと短く、その後は、80年代の初めに帰国するまで、ヨーロッパに渡ったままで、ジャズ・ファンの記憶から遠退いていたかもしれない。否、彼の存在自体知らない、或いはシルバーのヒット作‘SONG
FOR MY FATHER’に参加していても気に留めないジャズ・ファンも多いのではないでしょうか。
本作はカーメルとtbのロフトンを双頭にしたコンボに4本のtbを加え、全編、G・ウイルソンがアレンジを担当した作品。
相方を務めるロフトンについては1930年、テキサス州ヒューストン生まれ以外、全く知りませんが、名前(トリッキー)と裏腹にコンサバティブなスタイルを基調に、JJ、フラー、クリーブランド等のモダン派の感覚も取り入れた大らかでスケール感のあるプレイはなかなか好感が持てます。
また、ウイルソンのアレンジは特に際立った個性はないものの、スムーズで小粋な手法は充分楽しめる。
で、カーメルは?というと、本作の力点が無名に近いロフトンのプレゼンテーションとウイルソンの手腕に重きを置かれている印象が強く、カーメルを期待して聴くと、少々フラストレーションが溜まるかもしれません。
M・デニスの‘Angel Eyes’やエリントン・ナンバー‘Mood Indigo’などカーメルにピッタリの選曲がされているにもかかわらず、ソロの出番がありません。
まぁ、まだ、カーメルの特長が充分に把握されていなかったと言えばそれまでですが、残念です。
それでも、その美しさを見事に連想させる‘Canadian Sunset’を初め、シルク・シフォンのような光沢とスケ感あるトーンでしなやかに歌い綴るカーメルの魅力は随所に鏤められている。また、タイトル曲‘Brass
Bag’ではホットなプレイを聴かせてくれます。
知名度は低いが、残暑厳しい折、「午後のアイスティ」とでも言える一服の清涼感を味わえる好作品です。
(2006.9.11)
vol.5
EMERALD EMR 1001
CARMELL JONES (tp) JOE HENDERSON (ts) HORACE SILVER (p)
TEDDY SMITH (b) ROGER HUMPHRIES (ds)
1964. 6. 6
本作は、シルバーのプライベート・レーベル「エメラルド」から、1984年にリリースされた2枚の内の一枚(一集目)。NY、ロング・アイランドのナイト・クラブ‘The
Cork & Bib’でのライブもの。お目当ては、モチ、tpのC・ジョーンズ。
僕が知る限り、フロント・ラインをジョーンズとジョー・ヘンが務めるフルサイズの作品は、この一枚だけと思います。
同年10月に吹き込まれたヒット作‘SONG FOR MY FATHER’(BN)もエメラルドの二集目(1003)でも違うメンバーの演奏が抱き合わされており、ジョーンズを贔屓にしている自分としては、レギュラー・メンバーにもかかわらず、なにやら内縁関係的に扱われているのが実に口惜しい!です。
また、同じメンバーで2ヵ月後、フィラデルフィアのクラブ‘Pep's’でのライブをBNがテープを回していますが、全てリジェクト(廃棄)されている。うぅ〜ん、残念です。
収録曲は‘Filthy McNasty’、‘Skinney Minnie’、‘The Tokyo Blues’、‘Senor
Blues’の4曲。‘Senor Blues’はトリオで演奏される。
6年にも及ぶミッチェル(tp)、クック(ts)を擁したあの「無敵艦隊」を一新したシルバーのニュー・クィンテットはどうだろうか?
そして、W・コーストからNYへ進出し、トップ・コンボのフロントの座を射止めた肝心のジョーンズはどうだろうか?
ま、良い意味でも悪い意味でも、一言で言うならば、ジョー・ヘンのtsが目立ち過ぎますね。ほぼ1年前、BNデビューを果たし、暮れに、あの‘SIDEWINDER’で好アシストもしており、その力をシルバーは充分に認め、このグループの目玉と考えたとしても不思議ではありません。反面、ジョーンズは、まだNYの水にまだ慣れていないのか、演奏スタイルの違いに戸惑っているのか、彼の優れた資質を半分も活かしていません。
A面の‘Filthy McNasty’、‘Skinney Minnie’ではソロ・スペースも短く、ジョー・ヘンが大きくフューチュアーされ、B面の‘The
Tokyo Blues’では、熱の籠った好ソロさえも、続く、徐々にアナコンダ化するジョーヘンのうねうねtsに霞んでしまっている。
ジョーンズにとってちょっと相性が悪かったようですね。それに、もっとスタンダードやバラードをレパートリーに入れるコンボの方が良かったのではないでしょうか?
とは、言うものの、当時、ジャズの第一線で活躍するジョーンズの数少ない演奏を聴けるだけでも、自分にとって充分、価値があります。
なお、ジョーンズは65年にヨーロッパに渡り、15年間、ドイツに住み、80年にアメリカに戻っている。その間に、‘THE
HIP WALK/NATHAN DAVIS’とサイドとして参加したジョーンズの演奏をピックアップした‘In
Europe(PRESTIGE 7669)がありますが、MPSに正式リーダー作を吹き込み、ずっと未発表のままになっているようです。もし、本当ならば、いつか日の目を見る事を切望して止みません。
(2011. 2. 14)
Vol.6
SABA SB 15063 ST
NATHAN DAVIS (ts,ss,fl) CARMELL JONES (tp) FRANCY BORAND (p)
JIMMY WOODE (b) KENNY CLARKE (ds)
1965. 9. 1
1965年5月8日、プレステージにリーダー作‘JAYHAWK TALK’(7401)を吹き込ん後、ジョーンズは暫くしてドイツに向かった。
予めの行動だったかどうか定かではありませんが、そのまま80年まで同地に留まっている。ドイツに行ったのは、ひょっとしてベーレントの誘いがあったかもしれません。
まもなくして、同郷(カンサスシティ)のN・ディヴィスの本作に‘featuring’という形でSABA(MPSの前身)に録音する。内容は、ディヴィスとダブルネームに近いけれど、プレステージとの契約が生きていることからの措置です。
本国では良くも悪くも何かに付け、C・ブラウン云々というレッテル越しに語られる事にジョーンズは堅苦しかったかもしれません。
それが渡欧の切っ掛けの一つかも。
新天地に渡り、そうした重荷・箍(たが)が外れたのでしょうか、それともプロデュースしたベーレントのアドバイスが効いたのでしょうか、ジョーンズはかってないほど自由奔放にtpを鳴らしています。しかも、1965年と言う時代を反映しか、意外?にもモーダルな演奏が続く。
TOPの‘The Hip Walk’では力感あるジョーンズのペットに思わず「やっちゃえ!」と声を掛けたくなるほど。
B面のジョーンズのオリジナル‘Carmell's Black Forest Waltz’ではワルツ・ビートに乗り、鮮やかに宙を舞うソロ・ワークに耳を奪われる。
他の曲でも、SABAの好録音のせいでしょうか、芯のある音色で、自信に満ちたプレイを展開している。
一方、N・ディヴィスも力の籠ったプレイで好演していますが、ジョーンズに花を持たせた感じが無きにしも非ずかな?
それでも、自作のバラード‘While Children Sleep’ではやや甘ったるいメロディにも拘わらず、7:16を途中ダレることなくtsをしっかり吹き切る能力は侮れません。flによる‘Yesterdays’も上手い。ただ、曲作り、プレイにしても「ツボ」を押さえ過ぎで、逆にディヴィスの「顔」を見え難くしているのがやや残念です。
とは言うものの、B面2曲目‘That Kaycee Thing’のノリの良さは「ジャズ喫茶」にピッタリで、一昔前ならば、皆、手足を動かし踊り出す光景が目に浮かびます。そんな中にも、浮かれる事なく自分の語法でtpを聴かせるジョーンズの優れた資質が窺われる。
ラストの‘B's Blues’でも過去の延長線上ではなく、未来に伸びるライン上に立ったプレイがさり気無くも素晴らしい。
兎に角、このジョーンズの音色の良さは特筆ものです。全7曲中、ジョーンズの出番は5曲ですが、tpファンには、聴き逃せない一枚です。
(2016 1. 6)