この人のこの一枚、この一曲 vol.5

NEWK’S TIME / SONNY ROLLINS

BLUE  NOTE  BLP 4001

SONNY ROLLINS (ts)  WYNTON KELLY (p)  DOUG WATKINS (b)
PHILLY JOE JONES (ds)

1957

7日の夜のコンサートの圧巻は新しい自作曲‘ソニー・プリーズ’でのストレート・アヘッドな怒涛のテナー・ソロ。割れんばかりの拍手と嵐のような喚声に、こぶしを二度、三度挙げて応えるロリンズ。これが73歳の演奏なのか!!
その演奏がずっと耳から離れず、どのレコードに最も近いのか、と一日中考えたところ本作を思い出した。勿論、当夜の演奏は本作のような純正ハード・バップではないが、ノリというか、マインドとしてはこの‘Newk's Time’が一番近いと思います。

さて、57年に録音された本作は、時代性、ジャケット美学、演奏内容からして当時の数あるハード・バップ作品中、正に象徴的なレコードではないでしょうか。マイルスの‘Tune Up’から豪快にスタートする全6曲、噎せ返るようなモダン・ジャズが繰り広げられる。荒削りながら、一曲一曲の完成度は高い。弾けるようなケリーのp、重戦車の如く迫るワトキンスのb、そして駈け巡る天馬の如きフィリーのdsをバックにロリンズのtsが炸裂する。何を演っても名演とまで言われたあの頃にあって、本作はピカイチの存在。なかでも、‘Wonderful ! Wonderful !’でフィリーと掛け合いするロリンズのスケールの大きさに圧倒される。


「BLUE NOTE 4001」、これは不滅の名番(号)だ


かって辛口評論家の粟村氏は自著の中で本作を「甚だ品位に欠け、その良さが全く解らない」と評しておられますが、僕は、例えば、洒落たフランス料理や小粋な日本料理も良いが、獲れたての新鮮な海の幸を何も味付けせず料理する浜焼き・鍋を火傷も厭わず頬張る美味さに似たものを本作に感じます。
知性・理性を超えた本能とでも言うのでしょうか。さぁ、皆さんは、どうでしょうか?
27歳(当時)のテナー・タイタンは73歳の今もテナー・タイタンだ。


PS ジャケットを眺めているだけで酔ってしまいそう。聴かずして中身が判るこのデザインこそ‘ハード・バップ’そのものです。

(2003/11/09)

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COMPULSION / ANDREW HILL

BLUE NOTE  BST 84217

FREDDIE HUBBARD (tp flh)  JOHN GILMORE (ts bcl)  ANDREW HILL (p)
CECIL McBEE (b)  *RICHARD DAVIS (b)  JOE CHAMBERS (ds)
NEDI QAMAR (African ds & African thumb piano)  RENAUD SIMMONS (conga)

1965

ps 番号順でいけば第6作目となる本盤は前作(4203・ANDREW!)より、先にリリースされていると思います。

今となっては本作の存在など知らない、或いは気に留めないジャズファンが多くなったのではないでしょうか。昨年の春、御茶ノ水のある円盤屋へ行ったところ、セールの直後と思うが壁面にポツンと一枚、NY盤で売れ残っていた。5,000円の値段が付けられていました。NY盤の相場としては安い方と思います。アナログ・ファンの内でもこんな状況なのか。時とともに‘あのころの熱気’が徐々に風化して行く現状を見ると忍びない。しかし、レコード・マニアの間で本作は4200番台では特に入手困難な盤との噂をよく耳にする。探している人にはまことに気の毒。まぁ、これも縁なんでしょう。

さて、本作はチェンバースの他、2名の打楽器奏者が入っているように、アフリカン・リズムを基調に
グロの悲哀を投射した野心作、それと同時にヒルの代表作。限りなくフリーに近い演奏も繰る広げられ、軟弱な耳にはハードすぎるかもしれない。だが、恐れる事などない。そこらのフリー小僧達とは明らかに一線を画すレベルの高さはヒルの持つアイデア豊かな音楽性からくるものだろう。また、ポリリズムをバックに非日常的な演奏世界のなかから聞こえるヒルのpはそれまでの諸作よりもより大胆で自由自在だ。4曲中、ラスト曲‘LIMBO’は最高!言葉ではとても表現できない。それとハバードの寂寥感、悲壮感を漂わせた、時にはエモーション溢れる熱演が本作を紛れも無い一級品に押し上げている。これほど作品のコンセプトを理解したプレイはざらにはない。最近のもの書屋達に変な先入観を植え付けられたジャズ・ファンに是非聴いていただきたい。


ヒルの作品中、ほとんど脚光を浴びない本盤であるが、「ハード・バップ」(著者はローゼンタール?)という本のなかで、珍しく取り上げられたが、ボロクソに書かれてあった。
かと思えば、音楽評論家・黒田恭一氏はかって(30数年も前)随想で本作を取り上げ、こんな風に述べられていた。
「この一年ほどアンドリュー・ヒルに夢中になっているが、世評高い‘Black Fire’は好きになれない。‘Compulsion’というレコードが素晴らしい。だが、誰にも聴かせない。いくら、親しい友だちだって。こういう素晴らしいジャズは穴倉で一人で聴くものだ」と。
とちらが正しいかって?どちらも正しいのではないでしょうか。それほど聴き手を惑わす問題作です。但し、僕は黒田氏を支持します。

アマゾンの密林の如く奥深く、ヒマラヤの如く高く険しい、それがジャズ。だが、ジャズを聴くのに敷居など有りはしない。まして入門盤なんてありゃしない。必要なのは、探究心のみ。それを教えてくれたのが本作。


(2004/1/17)

MEDITATIONS / JOHN COLTRANE

IMPULSE  A 9110

JOHN  COLTRANE (ts)  PHAROAH SANDERS (ts)  McCOY TYNER (p)
JIMMY GARRISON (b)  ELVIN JONES、RASID ALI (ds)

1965

1926年、ノースカロライナ州ハムレットの洋服仕立屋の一人息子として生まれる。この倅がその後、「モダンジャズ界の黒い牽引車」として前人未踏の世界を切り開くとはこの時、誰しも想像できなかっただろう。

本作は66年11月、リリースされ、12月のDB(ダウンビート)誌で最高点(五つ星)と最低点(一つ星)という両極端な評価を受けた。いかにもアメリカらしいが、それだけ奥深い内容であったことを証明している。わが国ではマッコイ、エルビンが参加した最後の作品としては意外に知名度が低い。「バラード」、「マイ・フェイヴァリット・シングス」は良いけど、「アセンション」以降のコルトレーンはなぁ・・・というジャズ・ファンが結構多いせいかもしれない。しかしコルトレーンの切り開いた所謂
前人未到の世界」とは実はこの時期の演奏を指しており、これがあるからこそ僕はコルトレーンを偉大なミュージシャンと認識している。

ジャズ・ファンには二つのタイプがあるようだ。一つは「作品」だけに興味を示すタイプ、もう一つは「人物」にも興味を持つタイプである。本作は前者のタイプの方には恐らく無用のものだろう。僕は「人物」にも興味を持つタイプなのでコルトレーンをある時期を境に分け隔てることはない。

この頃のコルトレーンはアヴァンギャルドな手法と精紳色の強い演奏を次々にレコーディングし、一般的なリスナーには辛い局面もしばしばある。しかし、コルトレーンを本当に理解しようとすれば、このバーを越えなければならない。幸いにも本作は全曲、同一の日に録音され統一感があり、完成度も高い。コルトレーンは理想的な演奏ができたと思ったのだろう。タイトルが如実にそれを表している。この後、コルトレーンはグループを解散し、新たな出発へ旅立って行く。

真の「感動」とは、そんなに容易く手に入るものではない。本当に得たいと思うならば、今すぐ「バラード」、「マイ・フェイヴァリット・シングス」を叩き割る事だ。そうすれば「前人未到の世界」はもうすぐ目の前だ。


(2004/3/19)

RETURNS / RED RODNEY

CADET(ARGO)  LP 643

RED RODNEY (tp)  BILLY ROOT (ts)  DANNY KENT (p)
JAY CAVE (b)  FRANK YOUNG (ds)

1959

ロドニーは1927年生れとマイルス、コルトレーンより1歳年下にも拘わらずもっと古いイメージが付き纏っている。それは、パーカーに心酔するあまりヤクまで真似し、モダンジャズ黄金期に継続的な活躍の機会を失したためであろう。、白人最高のモダントランペッターと称されながら、彼もついに大輪の花を咲かせることはなかったが、カムバックする度に「不死身のトランペッター」とも「伝説のトランペッター」とも言われてきた。

たった1本のtpの赤いイラスト((REDにひっかけ)によるこのジャケットは一見、味気なく映るが、逆にtpにしか己の情熱を傾ける事ができなかったロドニーの当時の生きざまを見事に描いている。このレコードがシカゴでなく生れ故郷、フィラデルフィアで録音されたのも何かワケアリだったかもしれない。

ここでもロドニーはロング・フレーズを苦もなく吹き切る特有のテクニックを駆使しながら、時折、C・ブラウンを彷彿させるブリリアントなソロを展開する。また、相棒のルートのスムーズで良く歌うtsも心地よい。お馴染みの‘Jordu’、‘Shaw Nuff’、‘I Remember You’を始め、ケントのオリジナル曲もなかなかイイ味が出ていて、革新性はないものの聴き所は多い。

ロドニーの代表作としては「幻の名盤読本」にリスト・アップされた‘1957’(SIGNAL→SAVOY))が一般的に有名だが、
本作も「幻の名盤」級の作品としてファンの間で根強い支持を受けている


(2004/4/5)

ps 本レコードはジャズを聴き始めてからかなり後になってから入手した国内盤。オリジナル盤は以前、時々見かけたような気がしますが当時はなかなか購入するまで至らなかった。今ではオリジナル盤が欲しい一枚です。

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