この人のこの一枚、この一曲 vol.4

INVITATION / AL HAIG

SPOTLITE  AH4

AL HAIG (p)  GILBERT ROVERE (b)  KENNY CLARKE (ds)

1974

本作の目玉を1、2曲目の‘Holyland’、‘Invitation’と言うのは、間違いではないが、正しい?聴き方ではない。通称、‘ミントのヘイグ’といわれる「TODAY」から9年を経て吹き込まれた本作の一番の聴きものは、ラスト曲のヘイグのオリジナル曲‘Linear Motion。9年間の進化がこの一曲に凝縮されています。ミディアム・ファーストのテンポで魅力的なメロディをモーダルに弾き切るヘイグに、「伝説のパップ・ピアニスト」の面影を探すのはまず困難だが、この‘Linear Motion’に新生、ヘイグを聴き取る事が正しい聴き方と思います。この演奏があればこそ、本作が単なる懐古的作品ではなく、74年という時代性を感じさせてくれるからです。
右手の華麗とも思えるヘイグ・タッチも健在で他のオリジナル2曲もいい出来です。ただ、‘If You Could See Me Now’、‘Daydream’といったスロー・ナンバーでは、感情移入にやや乏しい所が見受けられます。自分のオリジナルと他人の曲では、大げさに言えば別人に思える時があります。そうした、彼の特徴は、以前の演奏からも時折、垣間見えていたのも事実です。例の「TODAY」でも自作曲‘Thrio’のテンションの高さに比べ、他の曲が甘く流れているあたり、気になります。同じ「伝説のパップ・ピアニスト」でも、
オーバニーマーマローサのような、pに立向かう気迫とか一途さが薄いように思います。でも、その軽さが、ヘイグの魅力なのかもしれません。
チョット辛口になりましたが、1982年11月16日、急逝するまで、カンバック前より多くのリーダー作を発表するヘイグの再スタートを記念する充実した一作であることには、違いありません。 

ps いっそ‘Linear Motion’をトップに持ってきていたならば、本作の価値がもっと上がっていたのではないでしょうか。
ヘイグの本音は、ひょっとしたらこの‘Linear Motion’だったかも。まぁ、そのあたりが、「伝説のパップ・ピアニスト」と言われるようになる所以かもしれませんね。
なお、エソテリック(C・ポイント)盤、ピリオド盤も少し軽い部分も有りますが一聴の価値有り。


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(2003/7/10)

SYMPHONY FOR IMPROVISERS / DON CHERRY

BLUE NOTE  BST 84247

DON CHERRY (cor)  GATO BARBIERI (ts)  PHARAOH SANDERS (ts pic)
KARL BERGER (vib p)  HENRY GRIMES (b)  JENNY CLARK (b)
EDWARD BLACKWELL (ds)

1966

矛盾を承知で言うと、フリージャズの理想的な形があるとするならば、この演奏はその典型の一つではないでしょうか。フリージャズの特徴でもあるコレクティヴ・インプロヴィゼーションを機軸にメンバー全員がソロを通じ次々に有機的に絡んでくる展開が見事に浮き彫りされている。ブルーノートの2作目となる本作はタイトルが示すようにA面、B面、それぞれ4つの曲(楽章)で構成され、継ぎ目なく連続演奏されていますが、一時の破綻もなく繰り広げられていく様は驚異としか言いようが無い。断っておくが、本作には、一部のフリージャズ作品にありがちな騒音化した世界は、全くといってありません。

サンダースののた打ち回るtsさえも納得のいくインプロヴィゼーションとして完全にチェリーの世界に同化されている。それもこれも、演奏者を強烈にプッシュするブラックウエルのパワフルなドラミングとグライムスの躍動感溢れるbに負う所が多い(もう一人のb、J・クラークは僕のオンボロ装置では、あまり聞き取れません)。このリズム隊をバックにリーダーのチェリーはいつになくストレートに熱っぽいcorを聴かせ、ベルガーの徹底的に装飾を省いたクールなvibも最大の聴きものです。

タイトル曲を含んだA面よりもマイナー調のメロディの‘Manhattan Cry’から始まるB面の方が、どちらかと言えば僕は好きです。一瞬、B・リトルを思わせるチェリーの哀感を漂わせたcorの後、C・テイラーを彷彿させる見事なベルガーのP、この後暫くして‘いかさま師’へ華麗に変身していくバルビエリの思わせたっぷりの‘ガトー劇場(激情)’からスタートするこのB面はトータルで20分間、‘フリージャズ’といった既成概念を忘れさせるすばらしい出来映えです。


タイトルと演奏が完全に一致した稀有の作品です。未聴の方は夏の暑い一日、エアコンを充分に効かせた部屋で是非、聴いてみては如何でしょうか。今までの‘ジャズ観’が変わるかもしれません(大きなお世話かも)。


(2003.7.30)

ps 今では、‘絶滅状態’に近い‘フリージャズ’だが、60年代の持つエネルギーの塊からマグマのように噴出した‘フリー・ジャズ’をただ単なる「時代の産物」と片づけるのは、いかにも寂しい。少なくとも本作のような名演に傾ける「耳」だけは失いたくない、と思う今日この頃です。

ON STAGE / BILL PERKINS

PACIFIC JAZZ  PJ 1221

BILL PERKINS (ts)  BUD SHNAK (as)  JACK NIMITZ (bs bcl)
STU WILLIAMSON (tp vtb)  CARL FONTANA (tb)  RUSS FREEMAN (p)
RED MITCHELL (b)  MEL LEWIS (ds)

8月9日にパーキンスが天国へ召された記事を昨日読みました。享年79才。今月はウエスト・コースト・ジャズを特集し、R・KAMUCAとの競演盤を紹介していたので複雑な思いです。追悼の意味で本作を取り上げてみました。なお、‘JUST FRIENDS’も考えましたが、ジャケットの好みで本作に決めました。
録音された時期はウエスト・コースト・ジャズの爛熟期をやや過ぎたころで、彼の代表作であるとともに最もウエスト・コースト・ジャズらしい一枚と定評のある作品。
パーキンスのtsのはご存知のとおり、L・ヤングの流れを汲みながら、茫洋としたフレージングの中、時折聴かせる小粋なアクセントが同派の他のプレイヤーとは違うところ。そんな彼の魅力はオクテットという中編成の中でも際立っています。

シビアな聴き方をすれば、この演奏スタイルから‘雛形’を感じる方もおられると思いますが、本人やB・HolmanをはじめJ・マンデル、L・ニーハウスの4人がアレンジを担当していて、各トラック、なかなか興味深いものがあり、特別アレンジがうるさいとは思いません。そんな中、僕はL・ニーハウスのアレンジによるバラード曲‘One Hundred Yeas From Today’とアップ・テンポ’When You're Smiling'の2曲が気に入っています。
チョット、グレた感じのする(どことなくジェームス・ディーンに似てません?)パーキンスが映ったアルバム・カバーのイメージと違って、春風のような心地良い演奏が続きます。
リチャード・ボックの無頓着なハサミも散見しますがパーキンスの好演が全て救っている。

1956

ps ネット・サーフィンしていたら、アレン・イーガー(ts、今年の4/13に亡くなっています)が演奏している晩年の貴重な映像を見つけました。
J・ヒ−ス、S・ハンプトン、B、ハリスと一緒です。イヤー、凄い。こんな映像があるなんて。涙ものです。その他、ハーブ・ゲラー、
ルー・ドナルドソンもあり、もー、ビックリしました。


(2003/9/30)

VOL.1 / NEW YORK CONTEMPORARY 5 

VOL.2

SONET  SLP 36

SONET  SLP 51

DON CHERRY (tp)  JOHN TCHICAI (as)  ARTIE SHEPP (ts)
DON MOORE (b)  J.C.MOSES (ds)

1963

NYC5の活動期間は約一年と僅かであるが、その間に5枚ものの作品を録音している。

1.「RUFUS」 (FONTANA)  ’63.8.23
2.「CONSEQUENES」 (FONTANA)  ’63.8.23、10.21
3.「vol.1」 
SONET  ’63.11.15
4.「vol.2」 
SONET  ’63.11.15
5.「B・DIXON SEPET、A・SHEPP and THE NYC5  (SAVOY )  ’64.2.
5

50年代末、テイラー、コールマンによって開かれたフリー・ジャズがその後、低迷した一時期に活動したNYC5の存在は伝説の‘10月革命’(64年)に繋がる導火線として、ただ単にフリー・ジャズだけではなくモダン・ジャズ全体を語る上で欠かすことはできない。

NYC5の演奏ではフォンタナの.「RUFUS」、「CONSEQUENES」の方がよく知られているかもしれないが、リアリティさを優先してこの二枚を取り上げてみた。

コペンハーゲン(デンマーク)のジャズ・クラブ‘カフェ・モンマルトル」でライブ・レコーディングされたこの2枚はジャケットから滲み出るような緊張感や、チカイの鋭い眼差しから想像するガチガチのフリー・ジャズではなく、むしろハード・バップに近い演奏です。
‘フリー・ジャズ’のあの凶暴的なイメージは‘10月革命’(64年)以降の演奏からくるもので、あまり先入観を持たずにNYC5を聴いた方がいいのかもしれない。もともとこのNYC5は、トランペッター、B・ディクソンがシェップに提案し結成したグループであるが63年秋、渡欧する際にチェリーに変わっている。そのチェリーのヒューマンというかチョットとぼけた感じのtpが全体のサウンドを和らげて、シェップも後年のような黒っぽい演奏ではなく、‘フリー・ジャズ’ファンには逆に物足りないのでは。むしろ知的なチカイのasやMooreのbとパワフルなMosesのdsから繰り出す躍動的なリズムに耳を奪われ、知らず知らず足がスイングしています。

まぁ、あまり身構えず、フリー・ジャズのある時期の証言者ともいえるNYC5の熱いライブを楽しむのが一番と思います。


(2003/10/24)

* 「Modern Jazz Spirits」(多分、国内盤名?)はどの(1〜4)レコードなんでしょう?

* なお、録音の月日は若干違うかもしれません。

「vol.1」とのメールを頂きました。○○さん、ありがとうございます。(10/25)

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