Jazz Men 探訪
ANDREW HILL
Andrew Hill On Blue Note
(8/11/1963)
(8/1/1964)
4.Point Of Departure (BST 84167)
PS:ヒルの作品について、録音日、レコード番号、発売時期等、興味深い点があります。AとBは録音順と番号順が逆、しかも連番。DとEでは、Eの方が先に発売されたかも。と、いうのは、Dのジャジットの裏に既にEのジャケット写真が<Last Release>として掲載されています。
(1)
(6) Compulsion (BST 84217)
(9) Dance With Death (LT 1030)
CHARLES TOLLIVER (tp) JOE FARRELL (ts ss) ANDREW HILL (p) VICTOR SPROLES (b) BILLY HIGGINS (ds)
1968
BNがリバティ/ユナイテッド時代(1980年)、未発表シリーズの一枚としてリリースされたもの。画一的なアルバム・カバーと評判宜しくない青ベタ白おたまレーベル(左)とあって、円盤屋ではクズ盤同様?の扱いを受けているが、なかなかの好盤である。
まず、「音」がイイ。青ベタ白おたま、とバカにしてはいけない。往復ビンタを食らったかのように、目、いや、耳が覚める。録音はヴァン・ゲルダー、リ・ミックスがTony
Sestanovichとなっている。リ・ミックスとはリ・マスターと思いますが、ここがポイントに違いない。フロントの2管、tp、tsがビシバシと鼓膜に突き刺さってくる。
オーディオ的にはどうかと思いますが、このエッジの効いた「音」、好きですね。
演奏内容もこの次世代の2管・二人(前作4303はモーガン、アービン)の攻撃的なプレイに支えられ、ヒルのpがいつになく大らかに聴こえる。デビュー当時に比べ円熟度が増し、聴き易く、曲もよりメロディアスに変化している点も見逃せない。しかし、それらを割り引いてもこの時代あまりにも「オリジナリティ」な作風がお蔵入りした主因であろう。
それだけに実力盤、大穴盤である。
(10/29)
JOHN GILMORE (ts) BOBBY HUTCHERSON (vib) ANDREW HILL (p) RICHARD DAVIS (b) JOE CHAMBERS (ds)
1964
アンドリュー・ヒルを語る上で、まず聴いておかねばならない作品がある。BN初リーダー作‘BLACK
FIRE’ではない。ヒルの初リーダー作‘SO IN LOVE’(WARWICK 2002)である。
この作品は当初のデータでは1955年に録音されたことになっていたが、そうすると37年生まれのヒル、17、8才の時となる。たいした内容でもないが、不自然さは拭えず、後年、ヒルが語るには59年だったそうだ。それなら納得がいくが、それにしてもBNのヒルしか知らない方が聴いたら、まず誰でも驚くだろう。とても同一人物とは思えない。(なお、2007年4月20日死去した際に1931年生まれと判明しました)
真っ当にスイングしているどころか、‘Body & Soul’、‘That's All’ではA・テイタムにも通ずるスイング・タッチでラブリーに聴かせるほどです。まぁ、それもそのはず、ヒルはD・ワシントンやハートマンの歌伴をしているのだ。それから僅か3、4年で大変貌、そりゃ、もうビックリですわ。何が、誰がそうさせたのか? 興味深いのは、その間に‘TO
MY QUEEN / WALT DICKERSON’(1962年)に参加している点です。
さてBNでの初録音はヘンダーソンの‘OUR THING’(4152)、続いてモブレーの‘NO
ROOM FOR SQUARES’(4149)、そして初リーダー作‘BLACK FIRE’(4151)、後はご存知のように詰込み録音が開始される。
前置きが長くなったが、本作の注目点は、サン・ ラ ・グループで知られるtsのギルモアの参加。ヒルとボビ・ハチは‘JUDGEMENT’でエルビンのdsに引っ張られたとは言え、抜群のコラボレーションの良さを聴かせているが、そこへ曲者、ギルモアが入るとどうか?が本作の聴き所。勿論、ライオンの狙いはそこだろう。ギルモアのドスの効いたサウンドでフレーズを短く打った切る独特の奏法はなかなか迫力があるものの、残念ながらボビ・ハチのメタリックでクールなヴァイブとあまり上手くブレンドしているとは言い難い。
それを肌で感じ取ったのか、ヒルのpも何時になく饒舌になっていて、あの独特のリズム感、フレージングがやや単調になっているようだ。
本作を高く評価している方も多いと聞くが、僕は乱発?のツケが回っていると思う。「鉄は熱いうちに打て」という諺がありますが、約半年の間に5作、しかも全てオリジナル曲とは、編制をいくら変えてもチトやり過ぎではないでしょうか?その証拠と言うワケではないが、ライオン(とウルフ)は作品のナンバー、リリース時期にかなり腐心している。とは言うものの、聴き手に「聴く力」を要求するレベルは有しているので甘く見ると火傷する。
なお、僕の記憶では、本作がリリースされたのは68年頃になってからではないでしょうか?(ちょっと自信はないですが)
(2005.11.28)
KENNY DORHAM (tp) ERIC DOLPHY (as, fl, bcl) JOE HENDERSON (ts) ANDREW HILL (p) RICHARD DAVIS (b)ANTHONY WILLIAMS (ds)
1964.3.31
ほぼ一年前、モブレーの‘NO ROOM FOR SQUARES’でBNデビューしたヒルの早くも第4作目のリーダー作。そして、フロントを3つのホーンで固めたSEXTET。
注目は、やはりドルフィーの参加でしょうか。それと、ちょっと場違いな感じも無きに疎もあらずのドーハムの存在も興味深いですね。、ヘンダーソンの2作目‘OUR
THING’で既に共演しており、b、dsの違いこそ有れ、ザックリ言えば、‘OUR
THING’にドルフィーを加え、リーダーをヒルに置き換えたセッションとでも言えるでしょう。だが、出てくるサウンドは大きく異なっている。
ヒルと言うと、その独特のタイム感覚とハーモニーの付け方からやや難解なイメージが付き纏うが、彼のpの本質は至ってナイーブと僕は思う。
そのナイーブさは、本作のような3管が入ることで、より一層浮き彫りにされ、比較的聴き易い事とドルフィーが参加しているというだけで、一作目の‘BLACK
FIRE’と共に、世評ではヒルの代表作挙げられている。
でも、果たしてそうだろうか?
ヒルのプレイは恰も水平線を横へ横へで伸びていくソロ構成を特徴とするならば、ドルフィーのソロ構成は垂直型、つまり、ヒルを横軸に、ドルフィを縦軸に、その間をドーハム、ヘンダーソンが飛び交う構図がライオンの狙いだったのだろう。そして、それを背後からプッシュするbにデービス、dsにはウィリアムスを起用、と用意は万端整っている。
然しながら、この3管、テーマ・アンサンブルでは問題ないけれど、ソロになると上手く調和しているとは言い難いですね。例えば、A-1ではドルフィが曲想に対しあまりにも唐突的ですし、A-2ではドーハムがやや苦しげですね。それを察知したワケではないでしょうが、ヘンダーソンはソツのないプレイに終始している。
B面では、ドルフィーに手を変え品を変えさせたり、ヒル流リリシズムを聴かせたり、それなりに演出を利かせているものの、敢てドルフィーを加えた3管効果は期待した程ではない、と聴きましたが、如何でしょうか。
(2009.12.11)
1964.1.8
Hillのpには「難解」というイメージが付き纏うけれど、それは従来の「スイング感」とか「乗り」とのズレであって決して難しいpを弾いているワケではない。
ただ、Hillの体臭とも言えるリズム感が生理的に合わない人にとってはなかなか受け入れられないのも事実です。
しかし、その独特のタイム感覚、ハーモニーに惚れ込んだA・ライオンは初リーダー作から約半年間に5枚ものアルバム録音する荒業に出、しかも全て楽器編制が異なるほどの力の入れ具合です。それに、メンバーもなかなか魅力的です。
本作はリーダー・セッションとしてはは3番目ですが、一月先に録音された‘SMOKE
STACK’より先にリリースされている。ライオンはリリース時期にかなり腐心しており、録音順ではなく、‘BLACK FIRE’、‘JUDGMENT’、‘POINT
OF DEPRTURE’、‘SMOKE STACK’、‘COMPULSION’、‘ANDREW!!!’の順でリリースされたようです。さすが、ジャズの潮流をしっかり読んでいますね。
裁判所と思しきレンガ塀の前で、サーチライトに照らされたヒル、果たして審判は‘Guilty’なのか、それとも‘Not Guilty’なのか?
カヴァに映るヒルの表情は自信満々だが・・・・・・
Hillの特異なタイム感覚を適切な言葉で言い表す事はなかなか容易ではありませんが、例えるならば、句読点のない、或いは段落のない文章を読んでいる感覚に近く、ともすると暗号を解きほどいているような不安感を呼び起こし、それが「難解」に繋がるかも。
そこで、ヒルの体臭を損なうことなく、かといって流されないようにと選ばれたdsがE・ジョーンズ。漂うようなヒルのpに合わせるようで合わせない強力なdsと言えば彼しかいない。
ライオンの目論見を察したエルヴィンは、時には出過ぎと思われるほどこのセッションをリードし、彼のメリハリのあるドラミンは句読点、段落の役割を果たしている。五連発中、一番聴き易い作品となった本作に下った審判は、ヒルの「BEST作」に。
中でも、ライオンに捧げた‘Alfred’は4人によるフリーなアプローチとポエム的響きが沁み亘る絶品。
また、ボビ・ハチのクールなヴァイブもヒルの世界によく溶け込み、同じ編制のMJQと全く違うサウンドになっている点が如何にもBNらしい。
(2016. 6. 29)