「幻の名盤」を聴く 2


TONY FRUSCELLA / TONY FRUSCELLA

ATLANTIC  1220

TONY FRUSCELLA (tp)  ALLEN EAGAR (ts)  DANNY BANK (bs)
CHAUNCEY WELSCH (tb)  BILL TRIGLIA (p)  BILL ANTHONY (b)
JUNIOR BRADLEY (ds)

1955

(AMJY 1220)

レコードをこよなく愛する人達は、よくジャケットのすばらしさを挙げるが、本作は、そのトップ・クラスの一枚ではないでしょうか。「孤高のトランペッター」、フラッセラの人生をたった一枚のジャケットが、全て描き切っているようだ。75、77年と2度、国内盤が出ているそうだが、当時は、まったく眼中になかった。92、3年頃にコーティング加工されたオリジナル仕様でやっと手に入れることが出来た。お恥ずかしい次第だ。オリジナルは、滅多にお目にかかることはなく、あっても、高価だし、コンディションが問題になってくるのでは。

さて、僕も初めて聴いたフラッセラのこのレコード、本当に、いい。マイルスとベイカーをたして、二で割った感じのtpの音色とフレージングで気負うことなく、メランコリーに歌い込んでいく彼のプレイは、目新しさを求める余り、捨て去ってしまいがちな大事な何かを呼び戻してくれる。また、フラッセラ同様に不運のイーガーのtsも冴えている。69年、孤独からくる「ヤク」のやり過ぎで、42才の若さで、あの世に行かなければならなかった彼の短い人生は、想像を絶するものだっただろう。この黒い円盤は、まるでその心情を物語っているかのように僕の胸に訴えてくる。

ps  再発盤ながら、このレコードの「音」は、アナログの魅力を充分に引き出している。録音(エンジニアー・Frank Abbey)自体も良いし、再発時のカッティングも良いのだろう。ちょっとナローな面もあるが、これを聴くと、アナログのリッチなサウンド、いいですね。


第6回

第7回

PROTO BOPPER / JOE ALBANY

REVELATION  REV 16

JOE ALBANY (p)  BOB WHITLOCK (b)  JERRY McKENZIE (ds)
NICK MARTINIS (b) *

1972

72年の録音でありながら、74年の「幻の名盤読本」にもう掲載されるという事は、通常では、あり得ないのだが、単にマイナー・レーベルというのではなく、それだけ、オーバニーの録音自体が稀少なんでしょう。この伝説の白人バップ・ピアニストについては、正直、あまり詳しくないが、ここで、聴かれる彼の久々の作品は、ヘイグ、マーマローサと言った、白人バップ・ピアニスト同様に、後に続出したハード・バップ・ピアニストとは、違って、格調の高さが特徴。
ジャケットからは「悩めるピアニスト」のイメージを聴く前から受けてしまうが、事実、調律の狂ったピアノを弾いた時の演奏の方が、直したピアノの演奏よりイマジネーションが広がるという、
チョット「危ない」レコードでもある。
4曲ほどソロ演奏も有ります。しっかりしたテクニックから、繰出されるフレーズは、やはり「伝説」と言われるに恥じない高いレベルだけに、一度は、耳を通してみる価値はあると思います。、全篇、楽想は高い。
うぅーん、それにしてもあまり、運が無かったのでしょう。


第8回

FOR LADY / WEBSTER YOUNG

PRESTIGE  LP 7106

WEBSTER YOUNG (cor)  PAUL QUINICHETTE (ts) JOE PUMA (g)
WAL WALDRON (p)  EARL MAY (b)  ED THIGPERN (ds)

(SMJ 6614)

1957

コンクリートの塀の前に一人、佇む女性の後姿、なぜ、傘を持っているのか、そして、言わんとするのは、何なのか? リード・マイルスがジャケット・デザインしたこのアルバムは、タイトルが意味するようにB・ホリディへの追悼作風であるが、ホリディはまだ、生存中なので、正確には、彼女の愛唱曲をモチーフにしたコンセプト作品と言えるでしょう。
20年以上も前、初めて聴いた時は、こんなもんか、程度であったが、今回久しぶりに聴いた所、本作の素晴らしさが、やっと判りました。コルネッットがこんなに表情豊かな「音」を出せるとは。
マイルスに傾倒し、マイルスのコルネットを実際に使用?して吹くヤングのプレイ、聴かせます。メンバーも何とも、とり合わせが妙ですが、なかなかの好演です。クニシエットのts、Pumaのgが醸し出すジェントルな味、そして、ツボを得たマルのp、ホリディの名唱のイメージを壊すことなく極上のソロで繋いでいます。とりわけ‘
DON’T EXPLAIN’の一曲、ひょっとしてこの曲のベスト・ヴァージョンでは? ウエブスターがすすり泣き、クニシエットがむせぶ泣き、嗚咽し、マルがバッキングでもらい泣きするあたりジーンとなります。年のせいなのか。
いずれにしても、この一作で消えてしまった、ウエブスター・ヤング、いい作品を残してくれました。感謝です。
急にこのレコードの‘オリちゃん’が欲しくなりました。本作をミント状態でお持ちの方を無条件で尊敬します。

ps 国内盤だけど、音質は抜群。ほとんど再発されていないので、マスターテープの劣化がないのでしょう。さすが、Gelder、このアルバムのコンセプトを、「音」でもきっちり描き出している。もう一人のメンバーと言えるでしょう。

先日、オリちゃんをミント状態で入手された方からメールをいただきました。やはりオリちゃんの「音」は国内盤の比ではないそうです。特にpとbの「音」が。あぁ、羨ましい。(8/12)


第9回

1957 / RED RODNEY

SIGNAL  S 1206

RED RODNEY (tp)  IRA SULLIVANN (ts tp)  TOMMY FLANAGAN (p)
OSCAR RETTIFORD (b)  PHILLY.J.JONES (ds)  ELVIN JONES (ds)*

1957

映画「バード」にも、チョット、顔を出す伝説のバップ・トランペッター、ロドニーが、これまた、幻のレーベルと言われる「SIGNAL」に吹き込んだ一作。マニア好みのため、なかなか手を出しにくいけれど、、安っぽいレトロっぽさとは全く無縁にして、凡百のハード・バップ作とは、一線を画した「幻の名盤」の名に恥じない内容。今となっては、強力なリズム・セクションに目が行くが、これも、創設者の一人であるD.シュリッテンの手腕と言って良いだろう。A面、B面、それぞれ二人のJONESに分かれている。

ヤクに溺れ、断続的な活動を余儀なくされたロドニーだが、ロング・フレーズを苦もなく吹ききるそのプレイは見事であり、魅力的です。サリバンのtsも思いのほか?聴き応えがあります。そして、ここでも珠玉のソロをとるフラナガンのピアノ、このレコードに花を添えています。
個人的に好きな‘star eyes’、‘stella by starlight’や、パーカッション奏者、Sabuを逆綴りした‘ubas’等の好演、快演が続き、これといった決め盤がない時によく聴いている。
なお、「SIGNAL」は一年あまりで倒産、その後、サボイに吸収され、本作は随分後になってから、なんとなくエグイ感じのジャケットで「RED ARROW」とか、また「FIRELY」とタイトルを変更して再発されていますが、この「1957」がオリジナル・タイトルです。

ps 本盤はもちろん、レプリカだが、どういう経緯で復刻されたか、手掛りが全くありません。上手に作ってあります。比較的最近の感じがしますが。70年代初めに「ONYX」から再発された物とは違うし、「FSR」の記載もありません。正体不明?です。
なお、レコーディングは、RVG。経年の割りに芯のある「音」となっていて、針音も聞こえないのでディスク・ダビングでは、ないようです。


EASE IT / ROCKY BOYD

JAZZ TIME  JT 001

KENNY DORHAM (tp)  ROCKY BOYD (ts)  WALTER BISHOP JR. (p)
RON CARTER (b)  PETE LA ROCA (ds)

1961.2.1

第10回

‘一発屋’と言われるジャズマンの中でも、このボイドはその最右翼の存在ではないでしょうか。なにしろ、僕の知る限り、リーダーはもとよりサイドマンとしても、本作しかレコーディングが残っていない?ようです。しかも、それが、幻のレーベル「JAZZ TIME」となれば、尚更のことです。
さて、この‘幻のテナーサックス奏者’とも言えるボイドのスタイルは、初期のW・ショーターに似て、ワイルドな反面、クールさも持ち合わせていて、なかなか良い味を出しています。面子もよく見ると、かなり豪華です。各人、リーダー作を持つほどですから。中でも、ドーハムはこの頃は、好調時で、親分肌というか、貫禄のプレイでこの新人のデビュー作に花を添えていますし、ビショップも畢生の名盤と世評の高い‘Speak Low
を暫らく後に吹き込むだけあってドライヴ感溢れるプレイを聴かせてくれます。
収録曲のなかで注目すべきものは、コルトレーンの
‘インプレッションズ(61年11月録音)’と同曲?に聞こえるロカのオリジナル‘ホワイ・ノット’(一番早い録音)です。しかも、D・パイクの‘Pike's Peak’では、パイクのオリジナルとなっているだけにややこやしい。‘Stella By Starlight’では、若さを見せるものの、その他、全体にエネルギッシュで充実した演奏で楽しませてくれます。コルトレーンの名ソロが聴かれる個人的愛聴曲の‘West 42nd Street’(MAINSTREAM 1958<savoy>)も入っています。

ps ‘Speak Low’も同じ3月13日という説もありますが、本作が別テイクを結構、採っている事と、b、dsのメンバーが違うので13、14日に分かれたと考えるのが妥当と思います。


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(2004/5/08)

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訂正 本作の録音日は1961年2月1日、‘Speak Lowは3月14日が正しい事が判明しました。(2004.11.26)

(2003.2.7)

(2003.2.7)

(2003.2.7)

(2003.2.7)