この人のこの一枚、この一曲 U


INTENSITY / ART PEPPER

このレコードがリリースされた63年、ペッパーは多分、オリ(刑務所)の中であっただろう。75年、「リビング・レジェンド」で奇蹟の復活を遂げた彼が、好調時にコンテポラリーにスタジオ録音した最後のレコードが本作。

最近の流行のベスト作、何やらでは、まず、ノミネートされないであろう。WHY?、ほとんどのジャズ・ファンが連想する、
あのペッパーはここには、いないからです。このタイトル「INTENSITY」がズバリ、それを物語っている。つまり、緊張、集中、強調なんてタイトルは、それまでのペッパーには、あり得ないほど異質なんです。

地元のあるジャズ喫茶で初めて聴いた時(恐らく、70年代中期)、
INTENSITYなペッパーに心を打たれ、その足で、レコード店へ行き、手に入れた憶えがあります。そのおかげでグリーン・レーベルを持つことができました。
この年、なんと3作目となる、本作は、彼自身が既に覚悟(ムショ入り)をしていたのか、ひょっとしたら、これが最後になるかもしれない、と言う、なにか切羽詰った思いで充満している。ジャケットもそうだ。


‘come rain or come shine’
の、一瞬、マクリーンと聴きまちがいそうなスタートから、哀愁を含んだソロ、こんな切々としたペッパー聴いた事がない。他のナンバーも、アップ・テンポでさえ、何かを訴えており、コカーのガーランドもどきのピアノも愛嬌とさえ思えてくる。ペッパーを本当に知りたいなら、このレコードは、絶対、外せない。

ps  同日、もう一曲、‘枯葉’を録音しており、72年、リリースされた「THE WAY IT WAS」の中で、他の未発表曲と同時に日の目をみた。ペッパーはこの‘枯葉’を自分のベスト・プレイに挙げていて、陰影に満ちたそのプレイは、正に「INTENSITY」だ。もっとも、タイトルは、後から決められたはずですが、それだけこの日のペッパーの「気合」が、ハードだったのだろう。

1960

CONTEMPORARY  S7607

ART PEPPER (as)  DOLO COKER (p)  JIMMY BOND (b)
FRNAK BUTLER (ds)


TOMMY TURRENTINE / TOMMY TURRENTINE

TIME  LP 70008

「幻の名盤」にも載っている本作は、トミー・タレンタインが残した唯一のリーダー作。弟のスタンレーはその後、スターへの道を歩む事になったが、兄のトミーは、ブルーノートにサイドメンとして、数作参加したあと、ジャズシーンの表舞台から遠ざかってしまった。当時は、M・ローチ・クインテットの一員として、その美しい音色と端正なソロは、ブラウニー系新人トランペッターとしてかなり注目されていたようです。

この作品は、
ハード・バップ爛熟期に咲いた‘あだ花’のような存在であるが、先入観なしに、じっくり聴いてみると、意外と?と聴き所は多い。この演奏の実権は、もちろんローチが握っていますが、トミーの作品が多く取り上げられ、彼の作曲能力は、なかなかのものです。

マイナーな曲調にぴったりのブルース・フィーリング溢れるスタンレーのtsが冴えるトップ曲の‘ガンガ・ディン’は、共作ものですが、トミーのtpもいい味を出しています。蒼いハード・バップ一色といった感じです。この手の雰囲気が好きなファンには、堪らないでしょう。
この一曲だけでも、全体のできの良さは、大よそ推測できますが、3曲目のトミーのオリジナル
‘タイム・アップ’は、3管編成の見事なアンサンブルから描き出されるブルージーなメロディは、魅力的です。その他、プリスターとの共作も含め3曲、編曲の妙もあり好演が続く。スタンレーと違って、トミーのトランペットは、透明感のある音色で「アク」が無いだけに、普段より音量を少し上げて聴かないと印象が薄くなるかもしれない。要注意です。
見落としがちですが、好盤です。


TOMMY TURRENTINE (p)  STALEY TURRENTINE (ts)  
JULIAN PRIESTER (tb)  HORACE PARLAN (p)  BOB BOSWELL (b) 
MAX ROACH (ds)

1960

(USL 1807V)

DOWN WITH IT / BLUE MITCHELL

BLUE NOTE  BST 84215

BLUE MITCHELL (tp)  JUNIOR COOK (ts)  CHICK COREA (p)
GENE TAYLOR (b)  AL FOSTER (ds)

1965

「BLUE’S MOODS」のあの印象的なジャケットは、CDファンをも虜にしているようで、多くのジャズ・サイトで紹介されていますが、それ‘一発屋’のような扱いになっているのがチョット、残念な気がします。そのミッチェルがリーダーとしてブルーノートへ吹き込んだ2作目がコレ。

トップは、ウケ狙いのジャズ・ロックだが、ミッチェルのtpの資質には、あまり合っていないのでは。このレコードの聴き方は、2曲目からが美味しい。その2曲目‘perception’は、名曲‘sweet love of mine’に似た曲想で、伸びやかなミッチェルのtpが冴えています。その他、モーダルな‘on shirt’、リズミカルなマーチやサンバ曲などなかなか富んだ構成ですが、ヒノテル作の
‘alone alone and alone’が群を抜いてイイ出来です。ミッチェルの清々しい音色がこれほどマッチしたバラードが今まであっただろうか? ググッときます。また、当時、まだ新人だったコリアのきらきらピアノも新鮮です。

だが、最高に聴きものは、意外?にも
クックのtsなんです。ぐっと腹が据わった凄みすら感じるソロ、聴き惚れます。いつのまにこんなに進化したのだろう。‘on shirt’でもコルトレーン・イディオムを消化した素晴らしいソロを展開しています。気が付くと脇役が一番輝いている、なんとも嬉しい一枚です。 日陰の男、J.COOKを見直しました。


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TALES OF ANOTHER / GARY PEACOCK

ECM  1101

KEITH JARRETT (p)  GARY PEACOCK (b)  JACK DeJOHNETTE (ds)

1977

通に言わせると‘ジャズはジャケットで買え’だそうです。けだし名言で、大体が当っている。その説でいくと、審美眼のない僕なんか、モダンアートのこのレコードはチョット、手が出し難い。しかし、「スタンダーズ」を結成する前に、ピ−コックをリーダーにして吹き込んだ本作は三者が良い意味で均等の役割を果たし、恐ろしい程の出来映えになった。

全曲、ピ−コック作だが、オリジナル臭さもなく、神秘的な美しさに溢れていて、スタンダードのようにメロディに頼ることなく、ある時は深く静かに、ある時は熱く激しく、インタープレイする様は、まさに空前絶後の世界です。

このレコードに多言は無用。ただ、針を降ろすのみ。
勿論、A面から聴くのが正しいが、B面の‘Trilogy T、U、V’から聴くのもいいだろう。あなたを陶酔の世界が待ち受けているはず。それにしても、このジャケットからは、想像できないなー。

恐るべし、ゲーリ−・ピーコック。

ps  レコーディングはスタンダーズの時と違ってTony May。ピーコックのベースが、古ぼけたスピーカーから地鳴りように生々しく迫ってくる。まだまだ、使えるなー、と思わせる好録音です。


訂正 あるステキなサイトによると、ペッパーは、既に服役中で、ある人の力でこの録音のため一時出所し、しかも他人のasを借りたそうです。間違いないでしょう。演奏が証明しています。それにしても天才とは、凄いものですね。(なお、このサイトさまのご好意により、訂正加筆しております。4/21)

BLOOD / PAUL BLEY

FONTANA  SFON 7098

PAUL BLEY (p)  MARK LEVINSON (b)  BARRY ALTSCHL (ds)

1966

「フリージャズの叙情詩人」と言われるブレイの代表作の一枚だが、「フリージャズの叙情詩人」って一体何だろう。よく解らないけれど72年の‘Open To Love’(ECM)を聴くとその意味が何となく解ってくる。53年のデビュー作「イントロデューシング」(ミンガス、ブレイキーという豪華メンバー)、54年の「トプシー」では、ごく一般的なモダン・ピアノ(パウエル系)を弾いていた男が、その後、急速にC・テイラーに続く第二のフリージャズ・ピアニストに変貌していくあたり、なかなか興味の湧くところ。

本作は、彼の、時として近寄りがたいほどのリリシズムが比較的解りやすく表現されていて、代表作にもなる
‘ミスター・ジョイ’という甘いメロディの曲が結構、人気を博している。この後、飾り気を更に徹底して排除していった世界は、人によっては「ナルシシズム」と揶揄?され、聴く人を選ぶ傾向がありますが、聴き心地の良い昨今の金太郎飴作品とは、まったく次元の違うもの。普段は、たまにしか聞かないものの、音と音の間(ま)、音の響きを極限まで追求するブレイのピアノは、いつも気になる存在です。


ps BLEYの先進なピアノ・プレイは、例えば、D・エリスの知られざる名盤「ESSENCE」(PACIFIC JAZZ)で、また、ロリンズの「MEETS HAWK」でも聴かれます。

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(2003.2.7)

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