隠れた名盤・好盤 2


HIGH IN THE SKY / HAMPTON HAWES

VAULT  9010

HAMPTON HAWS (p)  LEROY VINNEGAR (b) DONALD BAILEY (ds)

1970

ホースと言えば、コンテンポラリー盤か、ちょっと聴き込んだファンならMPSの「HAMP’S PIANO」を挙げる人が、銅(導)線の純度でいうところの6N%、いるのではないでしょうか。しかし、僕は、このマイナーレーベル「VAULT」に吹き込んだ本作をベストと考えている。HAWSだって進化している、否、「変貌」と言った方が正しい。
一曲目のB・バカラックのヒット・チューン‘look of love’を聴いただけで、ビックリするはずだ。魅力的なメロディーをホースは果敢に攻め弾き切る。それでいて、イマジネーションが途切れる事も無い。コンポラ時代のホースの姿は、ここにはない。2曲目は、なんとコルトレーンに捧げた‘evening train’だが、全く無理感がなく自然発生的なプレイがすばらしい。

ハイライトはB面トップのタイトルナンバー。モードを駆使した11分を越す長尺物だが、まぁ、圧巻。これが、あの「HAWES」か!とだれもが、驚嘆するだろう。ラストナンバーの‘spanish girl’も収録時間の関係でフェード・アウトしてしまうが、残念でならない。もっと聴きたいのだ。
当時のジャズ・ピアノ・シーンといえば、ハンコック、タイナー、そして、次世代のキース、コリアに耳を奪われがちであったが、おっとどっこいベテラン?というより記憶の彼方へ行ってしまった感のホースのこの快演は目新しさを求めるあまり大事な根っこを忘れてしまう危険性に一石を投じた一枚と言えるのでないでしょうか?
すべて、ワン・テイクで終っている。凄いことだ。ホースのジャズ・ピアニストとしての力量に改めて感服する。もし、このレコードを見つけたならば、迷うことなく購入することをお奨めします。 


BEATITUDES / ROBERT WATSON/CURTIS LUNDY

NEW NOTE  KM 11867

ROBERT WATSON (as)  MULGREW MILLER (p)  CURTIS LUNDY (b)
KENNY WASHINGTON (ds)

1983

ワトソン・ファンは、ともかく、asは、マクリーンを始めとする数人のジャイアンツでもう充分と、思っている方にとっては、このレコードは意外な?盲点となるのではないか。何を隠そう、僕もその一人で、第、何回目かは、忘れましたが、あの‘Mt' Fuji Jazz Festival’のあるジャム・セッションで‘スター・アイズ’をノン・ブレス奏法でメロディアスに吹くワトソンをTV放映で見て、認識を新たにした次第です。

それから、少し調べるうちに、12年の及ぶ僚友ランディと自費出版?した本作が、通のお間で評判になってる事を知りました。さすが、気心の知れた二人、見事な作品に仕上っています。

ワンホーンだけに‘メロディスト’ワトソンのasが存分に楽しめます。中高音を多めに使いながら、泉の如く、次々に美しいフレーズで歌うワトソン、聴かせます。特にワトソンの‘ジュエル’、ランディの‘オレンジ・ブロッサム’は、曲も演奏も素晴らしい。80年代のジャズも案外、すてたものではないなー、と感心しました。


ps  録音は、R・ヴァン・ゲルダー。かっての重みのある「音」ではなく、レンジの広がった、スパッと抜けるような「音」は、80年代という時代性を感じさせる好録音。

LIVE AT MONTREUX / BOBBY HUTCHERSON

BLUE NOTE  LA 249G

BOBBY HUTCHERSON (b)  WOODY SHAW (tp) CECIL BERNARD (p)
RAY DRUMMOND (b)  LARRY HANCOCK (ds)

1973

むさ苦しい顔写真とサイケ文字を見るだけで、聴く気が失せてしまいそうだが、‘ボビハチ’のベスト・プレイが納められているだけに見逃すわけにはいきません。また、‘ボビハチ’だけでなく、今は亡き僚友のW・ショーの気迫溢れるプレイが、本作の価値を高めている。
全3曲で、ショーのオリジナル‘The Moontrane’は、収録時間の関係でA面からB面へ跨っている(レコードらしい)。ボビハチといえば、ブルーノートへ人気盤「HAPPENINGS」を筆頭に、いい作品を吹き込んでいるが、彼の本当の力量をストレートに打ち出した作品となると、少々考えてしまう。

だが、本作は、そんな‘ボビハチ’への欲求不満?を吹き散らす快演盤です。ただ、発表当時から、この作品があまり評価されていないのは、あもりにもストレート・アヘッドな演奏が当時のトレンドのエレクトリック・ジャズに逆行すると、見なされてしまったのでしょう。某専門雑誌のレヴューでは、確か?「レコードにするまでもない」とクズ盤のように片付けられた(恐らく聴かずして書いたのでは?)、と記憶しています。果たしてそれが、正しいか、どうか、? なにせ評論家までエレクトリック・ジャズ病に冒されていましたから。一度、判定?が決ると、まず、回復できない、させないこの国のジャズ業界の体質です。
73年当時、アコースティク・ジャズでこれほどまで、熱い演奏が記録されていたことは、今となれば、大変貴重です。

‘ボビハチ’とショーが互いに触発し合い、最高のプレイを聴かせ、リズムセクションがそれをプッシュする
熱狂のステージに、聴衆が沸きに沸く、そんな状況が、手に取るように判ります。これぞ、知る人ぞ知る隠れ「名盤」です。

ps 輸入CDでは、‘The Moontrane’が分割されず、しかも同日演奏されたもう一曲が追加されています。また、辛口レビューで、評判の、あるジャズ・サイト(少し前、残念ながら閉鎖される)でも、賞讃されており、長年、本作を認めているのは僕だけかな?思っていただけに、世の中、キッチリと聴いている方がちゃんといるものだと、うれしくなりました。


ESSENCE / DON ELLIS

PACIFIC JAZZ  PJ 55

DON ELLIS (tp)  PAUL BLEY (p)  GARY PEACOCK (b)
GENE STONE (ds)  HICK MARTINIS (ds)

1961

「PACIFIC JAZZ」にしては、珍しいアヴァンギャルド・ジャズの一枚である。と言っても、イーストコーストのあのブラックパワー丸出しのフリーとは違い、一種、独特の瑞々しささえ感じさせてくれます。リーダーのエリスも、ピアノのブレイにしても、従来のオーソドックスなジャズからスタートしている点、いきなりフリーからスタートした一派とは自ずとスタンスが異なるのも当然です。

ただ、フリーといってもまだ、‘体制内急進派’と言った色合いが濃く、エリスのオリジナルが大半を占めるものの、エリントン・ナンバーや‘Angel Eyes’、‘Lover’といったスタンダードもあり、その斬新な演奏が耳の鼓膜を甚く刺激してくる。しっかりしたテクニックと高い楽想に支えられ、ジャケットの趣味の悪いシャツからは想像できないほど、演奏内容は高いレベルを創造している。
エリスのキレのある鋭いフレーシングを聴くと、この時点では、ひょっとしたらNo.1のトランペッターではないか、とさえ思えます。さすが、第十回ダウンビート誌で新人tp部門でトップに輝いただけは、あります。

その後、変拍子ジャズ、エレクトリック・ビッグ・バンドへ次々と変身していくわけですが、この才気溢れるトランペッターにしてみれば、当然の帰結かもしれない。しかし少なくとも本作で見せる真摯なプレイは今なお傾聴に値する。


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(2003.5.09)

IN SWEDEN / FREDDIE REDD

METRONOME  CUL 1054E

FREDDIE REDD (p)  TOMMY POTTER (b)  JOE HARRIS (ds)

1956

渋いレコードである。スウェーデンのストックホルムで「メトロノーム」レコードに録音された3枚のEP盤を日本で初めて30cmLPに集約されたものだから、「幻の名盤」等では、紹介されることなく、忘れられた作品でもある。一部のピアノトリオ・マニアや、レッドの熱烈なファンの間以外ではその存在すら、知られていないかもしれない。

さて、本作は、R・エリクソンのグループの一員として、スウェーデンを巡演した際、トリオだけで吹き込まれたもので、レッドがピアニストだけでなく作曲家としてもすぐれた才能の持主であることを見事に証明している。本作でも、12曲中、9曲がオリジナル。レッドのピアノは、所謂、B・パウエルの流れを汲むスタイルだが、時折見せる哀調を含んだブルージーな味わいは個性的で、ここでも、‘ブルース X’、‘ブルー・アワー’、‘スタジオ・ブルース’と彼の個性が光っている。

9月15〜18日の四日間にわたって、録音されたが、最後の18日に一曲だけ吹き込まれた‘Farewell To Sweden’では、去りがたい気持ちを押えながら気高く弾き込んでいくレッドのピアノは感動的ですらあります。また、ラスト・ナンバーの‘スタジオ・ブルース’のフィーリングもグッと来ます。聴くほどに味わい深くなります
僕にとって、この
‘IN SWEDEN’は、もう一枚の‘OVERSEAS’といってもいい作品です。


(2003.5.14)

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