独 り 言     (11) ジャズは「敷居」が高い?


EL PAMPERO / GATO BARBIERI

70年代のジャズはある意味でプロデューサーによって、その幕が切って下ろされたと言って良いのではないでしょうか。その代表がCTIのクリード・テイラーとフライング・ダッチマン(F/D)のボブ・シール。両レーベルのキャラは全く違う。ザックリ言えば、CTIが文科会系、F/Dが体育会系といった所か。しかし、両者の共通項が一つある。それは、どちらも、「芸術」よりも「芸能」の度数を上げている点だ。それが、70年代ジャズのキーワードと、二人の俊敏プロデューサーの嗅覚は一致していたようだ。

さて、F/Dの強力な助っ人がジャズ史上、稀にみるペテン師、ガトーである。アイラーの死と入れ替わるようにして、ジャズの表舞台に躍り出た(アイラーはついに表舞台には出なかったが)ガトーの人気は今では、想像出来ぬほど凄かった。大袈裟に言えば日本中のジャズ・ファンがそのいかさまに引っかかったのだ。

南米のタンゴやフォルクローレの美しいメロディを、官能的なリズムに乗せ、ラプソディクに、時には前衛もどきにコルトレーンばりの大ブローを織り交ぜ、キメにここぞとばかり演歌調のフレーズとこぶしを連発するとなれば、誰だって?イチコロだったのだ。その上、あのビターなテナー・サウンドとくりゃー、そりゃーもう、皆、メロメロよ。
ガトーのtsに「人間の寂しさ」まで感じとったファンまで現れる始末であった。
あぁ、怖ろしや、怖ろしや。

この“エロ・ペテンシ”、否、“エル・パンペーロ”は71年6月に開かれたスイス・モントルー・ジャズ・フェスティバルで‘フライング・ダッチマンの夕べ’と題したデモンストレーションでライブ・レコーディングされたもの。F/Dレーベル絶頂期での3作目。ガトー、会心の「いかさま万国博」が暴発している。
でも、安心されたし。日本だけでなく世界中の人まで、コロコロだったのだ。聴くところによると、日本での人気が凋落した後でも、アメリカでは依然人気が高く、特に中年の女性がいい年してステージのガトーに絶叫していたと言う。アメリカ版、かっての「杉様」、今では「ヨン様」って所でしょうか。

内容といえば、最初から最後まで「ガトー節」のオン・パレード。もう、好きにして!という感じだが、いつの間にか、手足がリズムに合わせている自分が情けない。だが、自分を恥る必要はない。
この世の中、「本物」なんてごく僅かで、「偽者」ばかり?である。ガトーは「本物」である。「本物のペテン師」だ。「本物」に引っ掛かるなら、それもまた良し、である。まぁ、ジャズ・ミュージシャンとしては「偽者」だろう。
つぎ、行ってみよう。

最近、ジャズの「敷居」を高くした戦犯は、ジャズの物書屋だ、と指摘する同じ物書屋の某氏がいる。自分は連中とは違うゾ、と思っている所がこの人らしい。でも、この方が言うのも、一理ある。最近のジャズ関連の本の発刊ペースは凄い。書店に行く度に新刊が出てくるような感jだ。
よく見るタイトルが「ジャズ○○入門」か、よく似た内容だ。。この「入門」の二文字こそ、「ジャズは敷居が高い。だからこの本でまず、基本を覚えよ。さもないと、・・・・・・・」と言っているようなものだ。解っていないよね。この連中は。

しかし、この某氏が、B・ミッチェルの‘I’ll Close My Eyes’をジャズ入門に薦めているいるのが、意外でした。短絡過ぎやしないか。この美しいメロディと演奏を聴けば、これでジャズ入門者、一丁上がり、と書いておられるが、果たしてそう簡単にいくだろうか。もし、そうだとしたら、ジャズ・ファンは増加の一途のはずである。
そうなっていないのが現実ではないのか。
ジャズ初心者は、物書屋、ベテラン・ファンが想像する以上にジャズの奥深さ、険しさを期待しているのだ。奥深さ、険しさとは、なにも易しさ、難しさだけの意味ではない。意外性とか非日常性、、高踏、猥雑性、そして難解性までも含んでいる。入門者をあまりに入門者扱いしてきたツケが現状(ジャズ・ファンの減少)ではないでしょうか。

さぁ、そこでお薦めするのが「稀代のいかさま師、ペテン師」、ガトー。ガトーと言えばこの狂乱のステージ「エル・パンペーロ」を置いて他に無いと言っても過言ではない。もう、グチャグチャですわ。この人の頭には「破廉恥」という三文字はない。こりゃ、「破廉恥の世界遺産」だ。この手練手管のエロ事師に一度、嵌ってみるのも、ジャズ入門の一つの道だ。物書屋の手引きに疑問を感じたら、或いは、ベテラン達のありがた迷惑な蘊蓄が苦手な方、一度お試し下され。嵌ったら、嵌ったとき、嵌った数だけ奥へ進んでいると思えばいいのだ。それが、たまたま、マイルスか、コルトレーンか、ロリンズ、エバンス、・・・・・・・・か、だけのことである。

ジャズに敷居の高い、低いなんて有りはしない。と言うより、そもそも、「敷居」なんて昔は存在していなかった。「敷居」という言葉は最近、物書屋達が本を書き、売るための○○用語だ。いかさま、ペテンより遥かに「たち」が悪い。

ps 「お前は、ガトーに嵌ったか?」って、それは内緒、内緒。 


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ガトーが一世を風靡したのは、30年も前の話。恐らく今のジャズ・ファンの半数以上?の方々はリアル・タイムで「ガトー万国博」を経験していないのでは。とすれば、出て来い、第二のガトーよ。そして「敷居」とやらをブッ飛ばせ!

(2004/11/10)

FLYING DUTCHMAN  FD 10151

GATO BARBIERI (ts)  LONNIE LISTON SMITH (p)  CHUCK RAINEY (elb)
PRETTY PURDIE (ds)  SONNY MORGAN (conga)  NA-NA (per berimbau)

1971

トレード・マークのつば広の黒帽子とロング・ヘアー、
そして薄めのサングラス。
このいでたちにガトーの卑猥さが滲み出ている。

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