隠れた名盤・好盤  vol.10 







CLUBHOUSE / DEXTER GORDON




BLUE NOTE  GXF 3055


FREDDIE HUBBARD (tp) DEXTER GORDON (ts) BARRY HARRIS (p) BOB CRANSHAW (b) BILLY HIGGINS (ds)
 

1965. 5. 27

 
 

1979年になって、やっと陽の目を見たゴードンの未発表作。翌日に録音された‘GETTIN' AROUND’はリラックスした中にも豪快にして悠揚迫らぬゴードン節が楽しめることもあって人気盤、代表作として不動の位置を獲得しているが、本作がジャズ・ファンの間で話題になった事はまったくと言っていいほどない。ただ、最近、なかなか良いアングルのDEXの写真カヴァの輸入?CDがリリースされ、聴かれた方々の評判は芳しいようです。

以前にもコメントしているように、所謂、「お蔵入り」された作品には、やはり、出来自体にそれなりの問題点を抱えているのが実態ですが、中にはリリースのタイミングを逸したケースもあるようですね。


では、本作はどちらか?と言うと、前者のケースではないでしょうか。でも、出来自体の問題ではありません。
丁度、ほぼ4年前に、BNに同じハバードをtpに迎えた第一作目の‘DOIN' ALLRIGHT’(61年)を吹き込み、人気の‘GO’に隠れているものの、思いの外、支持を集めているようです。

そこで、「お蔵入り」した要因は何か、というと、4年の間にリーダーのDEXとサイドのハバードの関係が「主客転倒」しているのです。つまり、DEX自身のプレイは決して悪くなく、否、好調さをキープしていますが、それ以上にハバードのプレイが良すぎるんです。脇役らしく出しゃばらず、6,7分の力で吹いているのですが、それでも、その存在感はDEXを上回っています。なにしろ、この頃のハバードは手が付けられないほど絶好調でしたからねぇ。その当時、マイルスは体調不良で入院生活を繰り返し、半ば、引退同然だったので、マイルス・ファンに怒られるやもしれませんが、ハバードがマイルスを超えていた、と言っても、満更、ハッタリに聞こえないであろう。


さて、演奏スタイルは、ゴードンがリーダーなので、ハード・バップの延長線上ですが、古臭さはまったくありませんので、ご安心を。
まず、TOPのゴードンのオリジナル‘Hanky Panky’、マーチング・ビートに乗ってゴードンがぶっ飛ばした後、tpはこうやって吹くんじゃ、と言わんばかりの自信に満ち溢れたハバードのソロが聴きものです。

続く‘I 'm A Fool To Want You’、巷ではモーガンの演奏ばかりが有名ですが、このハバードのソロ、いやー、カッコイイたら、ありゃしない!比較的短いソロながら、決めフレーズでビシッと要所を押さえる表現力は半端ではありませんよ。もし、つまらぬもの書屋に妙な先入観を植え付けられた人が聴いたら、「これって、誰!」と間違いなく叫ぶでしょう(笑)。


その他の4曲もイケテますが、B面の1曲目、B・タッカーの‘Devilette’がサイコーですね。タッカーのヒット曲‘Comin' Home,Baby’にちょっと似たラテン・タッチの曲想ですが、ドライブの利いたゴードンのソロを受けたハバードのソロ、ホント、溜息がでますね〜。圧巻の一言です。それに風格すら感じさせますね。
要するに、この作品はゴードンの知られざる穴盤と同時に、ハバードの4年間の進歩の跡を克明に刻んでいる点でも大いに価値があります。



アルバム・カヴァはネガをそのまま使用していますが、内容は、とってもポジです。一聴されたし。


なお、CDで‘Devilette’では作曲者のB・タッカーがbを引いているとクレジットされているようですが、未確認です。




(2009. 9. 17)






CANYON LADY / JOE HENDERSON




MILESTONE M 9057


JEO HENDERSON (ts)  with

OSCAR BUASHEAR, LUIS GASCA (tp) HADLEY CALIMAN (ts) JULIAN PRESTER (fl,tb) GEORGE DUKE (elp) 
MARK LEVINE (p) JOHN HEARD (b) ERICK GRAVATT (ds), etc


1973. 10


少し前、あるジャズ専門誌の「黒人テナー特集」?を立ち読みしていたら、ジョー・ヘンの‘POWER TO THE PEOPLE’が取り上げられ、「ジョー・ヘンはBNよりマイルストーン時代、その中でも‘POWER TO THE PEOPLE’が一番」とコメントされていました。まぁ、良い意味でも悪い意味でも、がっちり脇を固めた布陣としっかりと造り込まれたBNの作品群よりも、バラエティに富んだアルバム作りがなされたマイルストーン時代の方が面白い、と言う聴き方が有っても別段、不思議ではありません。ただ、「‘POWER TO THE PEOPLE’が一番」となると、あれー?と思いますね。字数の制限もあり、その根拠を「黒水仙」の一曲で以って押し通そうとしても、ややハッタリ気味に聞こえます。「黒水仙」の演奏自体、どおってことない出来だし、リアルタイムでもそれほど評判を得たワケでもありません。勿論、後になって名演と評価されるケースもありますが、果たして、この「黒水仙」がそれに値するものか、どうか、疑問ですね。

それに、この説でいくと、ジョー・ヘンのベスト1・アルバムは本作だ、と言っているようなもので、別の疑問も出てきますがが、そんなツッコミは野暮というもので差し控えるとして、別の機会に、然るべき根拠をきちんと挙げて頂きたいですね。




ムダ口はここまでにして、今回、取り上げたハッタリ作品が本作。殆どの人達に無視されている。リリースされたのは75年、もう、この頃は、「ジョー・ヘンは何処へ行ったの?」とジャズ・ファンの記憶から遠ざかっていましたが、おっと、どっこい、ジョー・ヘンは健在!ですよ。

時代性を感じさせるちょっと軽いカヴァで損していますが、この頃の作品に聴かれる多重録音とかマルチ・リードで演奏するのではなく、本来のts、一本に絞っている所に、まず好感が持てます。

A面は、tpのルイス・ガスカがアレンジとコンダクトを務めた大型コンボ、B面はメインのメンバーによる中型コンボという編成です。とちらも、パーカッションを利かせ、それぞれ二曲ずつ、充分、時間を割いている。


ま、とにかく、TOPの‘Tres Palabras’を聴いてみてくださいな。こりゃ、演歌ですよ、日本人ではない人が、よくもこんなメロディを書けたなぁ、と感心しますね。何とかブルースを思い起こす泣き節の後、テンポを速めたジョー・ヘンのtsが実に心地良く流れ出す。それに「音」がイイ!CA、バークレーのファンタジー・スタジオで、Jim Sternというエンジニアの手で録音されていますが、ジョー・ヘンの「音色」が抜群に良い。BNのあの重量感ある黒さではなく、タイトで澄み切った黒さですね。演歌ぽさのダサさがかき消され、驚くほどスムーズなソロ・ワークに、思わず「イェー」と叫んじゃいますね。

B面の二曲も然り、J・Heardの蹴り上げるようなファンク・ベース、煽る様なパーカッションとリズムに乗って、あのジョー・ヘン節がタップリと聴けます。イヤー、ホント、気持ちがイイねぇ〜  ヤッパー、ジョーヘンはこれですよ!それに、タイトル曲でのG・DUKEのエレピも、メリハリがあって、聴かせますね!
ひょっとして、A面、B面が逆だったら、かなり評判になっていたかもしれません。

ただ、A-2のオリジナル‘Las Palmas’はやや考え過ぎで、それほど面白くなく、B-2のラストのパーカッション・ソロは余分ですね。この辺が、本作の存在を薄めている原因やもしれません。

いずれにしても、本作と‘POWER TO THE PEOPLE’のハッタリ勝負?、どなたか、ケリをつけてくださいませんかね?(笑)


なお、最近になって初めて知ったのですが、1975年「Canyon Lady」が米国ジャズ・アルバムチャートで27位と初のチャートインしていたそうです。ヤッパー、ね!(2011.10.26追記)


(2010. 6. 8)





 

THE QUOTA / JIMMY HEATH

 


RIVERSIDE RLP 372



FREDDIE HUBBARD (tp) JULIUS WATOKINS (frh) JIMMY HEATH (ts) CEDAR WALTON (p) PERCY HEATH (b) ALBERT HEATH (ds)


1961. 4. 14&20
 



 
 
 

JIMMY HEATH、その名の通り「地味〜」なミュージシャン。派手さはないものの、その実直なプレイを愛するディープなジャズ・ファンは決して少なくない。ほぼ、同時期に活躍したB・ゴルソンと同様に、ts奏者の他、コンボーザー、アレンジャーとしても知られている。

だが、ゴルソンほど、名声と言うか、知名度の点では、遥かに後塵を拝している。ヒースがジャズ・シーンの表舞台で活躍した事実は無い、と言っても過言ではない。その代わり、マイルスがコルトレーンの後釜としてヒースに白羽の矢を立てたエピソードは有名な話である。

本作は、そのヒースがRIVERSIDEに吹き込んだ三作目。前二作と趣を異なえ、メンバーに新進気鋭のハバード、ウオルトンを配し、時代の要請に応えた布陣を取っている。

本作でも7曲のうち、オリジナルを4曲を取り上げているものの、二人の加入を考慮してか、コンポーザー、アレンジャーとしての側面よりも、ソロイストとしての存在を強くプッシュしている。


ヒース・ファンにはちょっと耳が痛いかもしれませんが、ヒースのテナー自体、そのsolidなトーンとクソ真面目なプレイを身上するだけに、それほど、妙味というか味わいが有るワケではありません。と、すると、どうしても、他のメンバーの出来が鍵となります。


そこで、本作の「隠し味」的存在が、frhのJ・ワトキンス。一般的なfrhのイメージを覆すアクティヴでスポンティニアスな好演で、ヒースを支えている。日頃、あまり、ワトキンスはもとより、frhという楽器自体、聴く機会が多くないせいか、本盤でのワトキンスのプレイ、なかなかの聴きものですよね


では、JM入団直前のハバード、ウォルトンはどうか?というと、ハバードが実に味わいあるプレイを聴かせる。このセッションに合わせたのか、当時のBN作品に比べると、ややコンサバで鳴りを押さえているものの、反面、スケール感が増し、堂々とtpを吹き切っている。初めて聴く方は、こんな一面があったのか、と驚くやもしれなし、ちょっとオーバーかもしれませんが、もし、ハバードのソロを一番手に持ってきていたならば、ハバードがリーダーと?錯覚してしまうほどです。

一方、ウォルトンは、まだ、控え目ながら、押さえる所はセンス良く押さえている。



本アルバムは、これ!といって突出して出来のよいナンバーがあるワケではありませんが、60年代初めのモダンジャズの魅力を充分に備えた好作品には違いないでしょう。その証拠?に、翌62年、1月、全く同じメンバーで続編‘TRIPLE THREAT’を録音している。

 

(2010. 8. 9)


       BACK                             TOP                          NEXT