隠れた名盤・好盤  vol.5

J.J.’S BROADWAY / J.J.JOHNSON

VERVE  V-8530

J.J.JOHNSON (tb)  HANK JONES (p)  RICHARD DAVIS (b)
WALTER PERKINS (ds)

J.J.JOHNSON,URBIE GREEN,LOU McGARITY,TOMMY MITCHELL,
PAUL FAULISE (tb)  HANK JONES (p)  CHUCK ISRAELS (b)
WALTER PERKINS (ds)

1963

長きに渡ってモダン・トロンボーンの王者として君臨したジョンソンだが、その割には代表作と言われる‘J.J.5’、‘Blue Trombone’以外は、あまり聴かれていないのではないでしょうか? ひょっとしたらC・フラー、B・グリーン、F・ロソリーノなどのトロンボーン奏者の方が多く聴かれているかも。そのワケはtbをtbらしく吹かないジョンソン自身にあるのかもしれない。

しかし、本作はそのジョンソンがtb本来の美味しい音域である中低音をあのテクニックを駆使して吹き上げた隠れ名盤。カルテットで4曲、残りの6曲を5トロンボーンのセクションで構成されている。ここでの目玉はカルテットによる‘My Favorite Things’。コルトレーンだけではありません。J.Jの‘My Favorite Things’もなかなかの聴きもの。

全曲、ミュージカル・ナンバーなのでわが国ではどうも低く見られ勝ちですが、ここでのJ.JはヴァーブへのレコーディングとあってCBSとは異なるイメージを作ろうと気合が入っています。

‘My Favorite Things’の他、‘Make Someone Happy’、‘Put On A Happy Face’等、全曲優れた演奏が続く中、
tbの魅力をパーフェクトに聴かせる‘Who Will Buy’はピカイチです
‘Blue Trombone’のハロー・ヤング・ラバーズを聴いてもtbを吹いてみたいとは思わないが、この‘Who Will Buy’を聴くと吹いてみたくなる。

本作はJ.Jの真価をあますことなく伝えるレコードとして僕は、‘J.J..! (THE DYNAMIC SOUND OF J.J. WITH BIG BAND)’と共に一番高く評価しています。

因みに本作はDB誌で最高の五つ星を獲得しています。

なお、本盤はミゾ無しの2ndプレス?盤(モノ)で聴いていますが、とにかく「音」がイイ。
エンジニアはPhil Ramone。サウンドに厚みが有り、しかも鮮度もあり、tbの音域をほぼ理想的に録らえています。


また、RCAからよく似たタイトルの‘BROADWAY EXPRESS’がリリースされていますが、こちらは駄盤に近いのでご注意ください。


(2003/11/24)

BACK

MUSIC FOR SWINGING MODERNS / DICK JOHNSON
EMARCY  MG 36081
DICK JOHNSON (as)  BILL HAVEMANN (p)  CHUCK SAGLE (b)
*DAVE POSKONKA (b)  BOB McKEE (ds)
1956

ジャズ界では、よくその個性が取りざたされるが、濃い口のタイプが話題になるケースが多く、反対に薄味のタイプが軽く見られがちである。このディツク・ジョンソンはその代表的なミュージシャンであろう。パーカー・イディオムを継承しながら、タイトル通り、透明感あるトーンでスインギーにasを歌わせるジョンソンにコニッツ、或いはペッパーを思い浮べる方もいるはず。
では、ジョンソンに個性が無かったか?といえば、そうでもない。よく聴き込むと、その清らか過ぎるとも思える美しい音色から次々に繰り出される魅力なフレーズにも、たたみ掛けるような逞しさや、豊かな情感は充分に感じられる。同時代のas奏者(ジョンソンは1925年生)と比べ、実力は全く遜色はないが、ただ物語性がなかった分、知名度の浸透にブレーキがかかってしまったようだ。

さて本盤は、A面にアップ・テンポのスインギーな演奏、B面にバラード、ミディアム・スローのナンバーを配しており、そのB面にジョンソンの優れた才能が凝縮されている。
‘The Things We Did Last Summer’、‘Like Someone In Love’、‘Stars Fell On Alabama’、‘You've Changed’と続き、朗々と,しかも哀愁、叙情美、繊細さを湛えたasが冴える。
どれを採っても秀演だが、ラストの
‘You've Changedでの一聴、淡々とした歌い方の中にも、心変りした相手との楽しかった思い出や、ウラミ、未だ消え残る未練を見事に描き切り、さっと余韻を残して終わるジョンソン、見事です。
こんな演奏をもし失恋した人がイヴに聴いたら堪らないだろうな。

ps JOHNSONは、翌57年にRIVERSIDEにリー・コニッツの名に引っ掛けた‘MOST LIKELY’(幻の名盤読本掲載)を録音している。
こちらもなかなかの好盤でいずれアップする予定です。この2枚を残し、ジャズの表舞台から遠ざかり、後年コンコードから久しぶりにリーダー作を発表している。


(2003/12/24)

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THE CUP BEARERS / BLUE MITCHELL

RIVERSIDE  RM 439

BLUE MITCHELL (tp)  JUNIOR COOK (ts)  CEDER WALTON (p)
GENE TAYLOR (b)  ROY BROOKS (ds)

1962

初めて渋谷の「JARO」へ行った時に購入したのが本盤。十数年前の事である。転げ落ちそうな階段に驚いたが、見たこともないオリジナル盤が壁に飾られていたのに、また驚いた。本盤は階段の右手の棚のリバーサイド・コーナーで見つけ、その存在さえ知らなかったもの。ミッチェルのリバーサイドでの最後となる本作(7作目)はあの無敵艦隊を誇ったH・シルバー・クインテットから、ボスの代わりにウォルトンが入ったもので、しかもミッチェル他、3名とも在団中の録音である。

ミッチェルの哀感を漂わせた一途な語り口を愛するファンは意外に多い。だが、その殆んどの人達?がH・シルバー・クインテットのミッチェルは彼本来の姿ではない、と異口同音に言う。‘I'll Close My Eyes’のイメージが強過ぎるのだろう。ボス、シルバーにしてみれば、たまったものではない。知らぬ間に悪役にされてしまっている。ついつい勝手な尺度でミュージシャンを計ってしまうのがジャズ・ファンの常なのかもしれない。

本作は所謂「ボス抜きセッション」であるが、サウンド・カラーは当然ながら?全く違います。あのファンキーさは薄らぎ、クールで60年代をしっかり感じさせます。曲のレパートリーもソロ構成もありきたりのハード・バップ作品と違ってよく練られている。コルトレーン・イディオムを消化しつつあるクックのtsもなかなかいい味を出しています。
リバーサイド7作中、ジャケットのショボさは一、二を争い、地味な存在だが演奏全体の音楽的深度は本作が一番と聴きましたが、如何でしょうか。なお、本作を高く評価している方々が結構多いとも聞きます。

また忘れてならぬものが、
密かな名曲‘Capers’です。G・テイラーの強靱なベース・ワークに乗り、ミッチェルのtpが熱く炸裂する。B・ハードマンの‘Capers’と甲乙付け難い出来です。この曲はトランペッターの心を動かす何かがあるのでしょう。
ブル−・ミッチェル、A級にはなれなかったが、いいトランペッターだ。


(2004/2/15)

THE MAGNIFICENT TROMBONE / CURTIS FULLER

EPIC  ECPU 6

CURTIS FULLER (tb)  LES SPAN (g)  WALTER BISHOP (p)
BUDDY CATTLETT、JIMMY GARRISON (b)  STU MARTIN (ds)

1961

同じEPICレーベルの人気盤「サウス・アメリカン・クッキン」の陰に隠れて、あまり知られていないが、アルバム全体の出来は本作の方が優れていると僕は思っている。確かに「サウス・アメリカン・クッキン」は一枚も二枚も上の役者が揃っているが、趣味の良いドラミングで定評のあるベイリーがどういう訳か曲によってちょっとラフなプレイをしており、聴き辛い面が無きにしも非ず。また、フラーとシムスの相性もそんなに良いとは思えない。楽しければそれでイイと言えばそれまでだが、人がべたほめするほどの魅力を僕は感じてない。

その点、本作は2ヶ月前に録音されたこれまた有名盤である「ボス・オブ・ザ・ソウル・ストリーム」で共演した気心の知れたリズム・セクションをバックにフラーは気持ちよくtbを鳴らしている。フラーのtbの特徴と言えば、tb本来の美味しい中低域の魅力を充分聴かせてくれるところではないでしょうか。J.J.ジョンソンのような華麗なスライド・ワークはないももの、その朴訥とも言える演奏スタイルはなかなか味わい深いものがあります。

また、本作はいつものtsやtpなど他のホーンの代わりに
gが入った珍しいtbワンホーンものである。全8曲中、4曲がバラードで占められいるのも嬉しく、ウォームな音色で情緒纏綿と歌い込んでいくフラーのプレイはチョット聴きものです。‘Dream’、‘Two Different Worlds’なんかイイ感じです。ゴスペルでお馴染みの‘Sometimes I Feel Like a Motherless Child’のテーマをbとのデュオで入るあたり憎いです。その他の選曲のバランスも絶妙で最後までフラー節を堪能させてくれる。

最後に、当初、このタイトルはあまりにも大袈裟過ぎるのではないか、と危惧していましたが、まんざら的外れでは無いことを付け加えておこう。

(2004/5/7)

ps 本盤はオリジナルで持ちたいとずっと探していますが、殆んどジャケットが擦り切れたものばかりと出会っている。
まともなジャケットではもう無理なんだろうか。

なお、聴き直してみるとバラードは3曲で、ラスト・ナンバー‘I Love You Porgy’はミディアム・スローでした。これがまたイイんです。
本盤のベスト・トラックかもしれない。

FLORESTA CANTO / PHIL WOODS

RCA  BGL1-1800

PHIL WOODS (as ss
  with CHRIS GUNNING AND ORCHESTRA

1976

今日みたいな真夏日を迎えると、何故かボサノバを想い出す。ジャズ・ボサノバと言えばS・ゲッツが定番。しかし、もう少し新しいところでは(と言ってももう30年近く前のものですが)、ゲッツに勝るとも劣らぬメロディスト、ウッズの本作が知られざるボサノバの傑作である。

ウッズはパーカーの直系遺伝子を受け継ぎ、情熱的なプレイヤーという一般的なイメージが定着しているが、この頃になると、時として、メローなトーンでも勝負できるタイプに進化し始めている。勿論、以前にもそうした彼の特長は随所で煌いていたが、この盤にはオーケストラをバックにメロディスト・ウッズがこのジャケツトの絵のようにふんだんに散りばめられている。

完璧にマスターされたssも披露しているが、やはり湧き出る泉の如く美しいフレーズを連発するasが聴きもの。バーデン・パウエル、ジョビンの作品のA面も良いが、Chris Cunningの‘Sails’から始まるB面が素晴らしい。中でもJanis Ian(フォーク歌手)の2曲などため息が出てしまうほどである。

同じRCAで‘風のささやき’が人気?評判?の「IMAGES」より、本作の方が僕は好きです。但し、ラスト曲‘Images’は圧巻ですが。


(2004.6.5)

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