「幻の名盤」を聴く
1974年4月、SJ誌の臨時増刊号「幻の名盤読本」が発行され、第一次「幻の名盤」ブームが起きる。
そこで、その中から、アットランダムにピックアップして、ご紹介します。
第1回
UNDERCURRENT / KENNY DREW
BLUE NOTE 4059
FREDDIE HUBBARD(tp) HANK MOBLEY(ts) KENNY DREW(p)
SAM JONES(b) LOUIS HAYES 1960.12.11
このレコードは同号の本稿には、載っていない。ドリューで載ったのは、Blue Note
5023、Norgan 1066、Riverside 12−224、の3枚だが、巻末の「TONY」レコードの広告の中で紹介された幻の24枚の内の1枚である。
いきなり、番外編であるがこれほどショックなものは無かったので、取り上げてみた。それまで、不覚にもこのレコードの存在を知らなかったのである。
暫くして、国内盤がリリースされ、早速聴いてみて、まぁ、びっくりした。下品な言い方だけど‘スゲェ’のほうがピッタリ。
出だしのイントロから、グイグイ引っ張られる。引き締まった押しのあるモブレーのts、はちきれんばかりのハバードのtp、グルーヴィにスイングするドリューのp、図太く迫るサム、日頃おとなしいヘイズまで強烈にプッシュする、恐れ入りました。
全身にハードバップの熱気を浴びる爽快感、数あるレコードの中でも、これはピカイチ。全篇、曲もイイ。し、しかし、これが「幻」になるなんて、本当にドリューは運がない。
皮肉にもタイトル通りになってしまった。嫌気がさしたのか、この後、しばらくしてヨーロッパに旅立ったドリューが残した置土産がこの「アンダーカレント」。
「アンダーカレント」というと殆どの人がB・エバンスの、と言うが、僕にとっては、この「KENNY DREW」なんです。エバンスと言う人は「ジャズファン」、ドリューと言う人は「モダンジャズファン」ってところかな?
第2回
BYRD IN PARIS / DONALD BYRD
第1集 BRUNSWICK 87903
第2集 POLYDOR 833 395-1
DONALO BYRD(tp) BOBBY JASPER(ts.fl) WALTER DAVIS JR(p)
DOUG WATOKINS(b) ART TAYLER(ds) 1958.10.22
実質的な第1回は、待ちに待った「BYRD IN PARIS」。
この「幻の名盤読本」で一番、目が釘付けになったレコードがこれ。まったく知らなかった。オリジナルは、仏Brunswikだが、読本でのジャケットは、米国のシグナチュアーから再発された第2集のジャケットを使用して、VOL..1として掲載されていた。また米国では、第2集が発売された形跡がない?ように記述されていた。
それから、23年経って、恐らく、スペインのFresh Soundレコードからと思うが、87年ついにリ・イシューされた。ジャケットは、推測ではあるがほぼオリジナル仕様?と思われます。確信はありません。ただ、Fresh Soundの記載が無いのが、なんとなく嬉しい。
ただ、レーベルは1集が、Brunswick、2集が、Polydorと変則。このあたりの事情はよく判らないので、ご存知の方がいらつしゃつたらお教え願いたい。オリジナルもそうだったのだろうか?
さて、パリ、オランピア劇場で実況録音された肝心の中身のほうだが、、期待を裏切らない見事な演奏で、当時のバードが一つのピークを迎えていた事を如実に証明している。パップを基調にした歌心充分なプレイが聴かれる。また、ロリンズ派ジャスパーのtsが意外?にイイ。ロリンズ作‘PAUL'S PALS’では、ロリンズの物真似?をしてソロの出だしはソックリ。まぁ、直ぐ行き詰まってしまい、ちょっとユーモラスでさえある。この曲の紹介でバード?が‘グレイト ソニー ロリンズ’とアナウンスしている。すでに偉大と認められていたんですね。
第2集のほうが、聴き応えが上かな?
最近、久しぶりに聴いて気が付いた事なんですが、初めて聴いた時、特に1集の「音」があまり良くなく、、実況録音なんだからしゃーない、という記憶があったんだけど、結構いける「音」でした。ハードのグレードアップの効果?でしょうか。随分、印象が違いました。ジャズは、「音」の良し悪しで評価に格差が生じるかもしれないなぁ
第3回
FREE WHEELING / TED BROWN
VANGURD VRS 8515
(KING SR(M)3146)
同読本でも紹介されている「Jazz of 2 Cities」のW・マーシュ・クィンテットにA・ペッパーがゲストで参加し、ブラウンをリーダーにしたレコードである。
聴き所は、トリスターノ一派と肌の違うペッパーとのからみであるが、これが、見事な融合を見せ、3本のsaxの集合即興演奏の粋を聴かせくれる。
ジャケットの少々陳腐さに損をしているが、中身は、超一級品。特に、B面の‘スロー・ボート・トゥ・チャイナ’、‘クレイジー・シー・コールズ・ミー’、‘ブロードウェイ’、‘アライバル’は、圧巻。リズム・セクションも秀逸。T・ブラウンはリーダー作が少ないだけにこのレコードは尚更、貴重だ。
ヴァンガード・レコードは、中間派のセッションが多く、イメージだけで判断してしまうと、こうしたモダン・ジャズを見逃してしまうので、要注意です。
TED BROWN (ts) WARNE MARSH (ts) ART PEPPER (as)
RONNIE BALL (p) BEN TUKER (b) JEFF MORTON (ds)
1956
ANGEL EYES / DUKE PEARSON
JAZZ LINE 33-04
(NORMA NLP2008)
DUKE PEARSON (p) THOMAS HOWARD (b) LEX HUMPHRIES (ds) BOB CRANSHAW * (b) WALTER PERKINS * (ds)
「JAZZ JINE」、「JAZZ TIME」レーベルの成立ち、関係や発売等は、結構ややこやしいので、ここでは、パスさせていただきたい。要約するとこのレコードは、オリジナルの形では、リリースされていない?そうです。
60年代後半、イギリス、ポリドールから始めて発売(左)されたが、日本ではかなり?後になって「TRIO」レコードから‘バグス・グルーヴ’のタイトル(右)で発売され、皆、こぞって買ったものだ。それも「名盤」に相応しい内容があればこそ。ラスト曲‘EXODUS’の名演が花を添えている。「カインド・オブ・ブルー」の‘SO WHAT’のエバンスのイントロ部分をエンディングに流用?したりしてなかなかのセンスです。
ここで聴かれるピアソンのpは、思いのほか、ハードに弾いていて、ちょっとB・エバンスのハードバップ調のように聴こえ、それがまた、いいんですね。ジャケットもいい。このジャケット(左)で日本で発売されたのは、92年。但し、タイトル曲の‘エンジェル・アイズ’はオリジナル・レコーディングの時のものではなく、ピアソンの同レーベル「HUSH」に入っている同曲のショート・バージョンとのことです。トリオ盤には、入ってはいない。
ハイタッチより、このジャケット方が良いに決まっているが、問題がないわけではない。トリオ盤は、モノラルで、「音」がいま一つクリアではなく、NORMA盤はステレオでクリアな「音」になって喜ばしいのだが、‘エンジェル・アイズ’だけが、モノバージョンで「音質」が良くなく、違和感を感ずる。気にしなければ良いのだが。
いずれにしても、発売までの経緯と出来の良さと相俟って、「幻の名盤」の代表格の一枚には違いない。
1961
第4回
POLDOR 583723
BOSS OF THE SOUL−STREAM TROMBONE / CURTIS FULLER
WARWICK W 2038
FREDDIE HUBBARD (tp) YUSEF LATEEF (ts fl) CURTIS FULLER (tb)
WALTER BISHOP (p) STU MARTIN(b) BUDDY CATLETT (ds)
1960
「WARWICK」自体がマイナー・レーベルだった事もあり、このレコードの稀少性は、60年代末には、既に「幻の名盤」の一枚に挙げられていた。
70年始め、「TCB」という素性の良く判らないレーベルから、F・ハバードの名義(右)でリリースされたため、読本に載って初めて、一致した記憶があります。80年台半ば、FSR盤、89年に国内盤(センチュリー)でリ・イシューされるまで、なかなか入手は困難でした。
内容については、私見ではあるが、水準作止まりと思います。ただ、デビューしたばかりのHubbardのケレン味の無いtpが聴きものとFullerの大らかななtbは健在です。
よく似た編成なら「SOUL TROMBONE THE JAZZ CLAN」(IMPULSE)のほうが、出来も良いし、完成度も高い。だから、「WARWICK」のオリジナル盤を持って、初めて価値の有る「コレクターズ・アイテム」の一枚かもしれない。まぁ、、あまり高くなさそうなのでどうぞ、オリジナルを。
第5回
オリジナル