気ままに一枚
第1回 (16/02/'03)
IN NEW YORK / HORACE TAPSCOTT
INTERPLAY IP 7724
HOPACE TAPSCOTT (p) ART DAVIS (b) ROY HAYNES (ds)
1979
H・タプスコット、と言われても、最近、ジャズを聴き始めたファンには、ピンとこないだろう。69年にB・シールが設立した「フライイング・ダッチマン」レコードから‘The Giant is Awakened’という問題作を発表し、一躍ジャズシーンの表舞台に踊りでたミュージシャンだ。
日本では、それほど高い評価を受けてはいないが、本国アメリカでは、ジャズピアニスト、理論家として、かなりの大物のようです。彼のピアノは、チョットとC・テイラーの流れを汲み、難解な面があるが、妙中氏がプロデュースする「INTERPLAY」レコードでの本作では適度の緩みもあり、タプスコットの真価が解りやすい形で納められている。メンバーも一流。
時として、小賢しいプレイで演奏を軽くするキライのあるR・ヘインズもさすがに大物の目を気にしてか、なかなかの好演を聴かせてくれる。ジャケツトから受けるイメージとは異なり全4曲、各々10分近い熱演が続く。
日頃、優しいジャズに慣らされている耳には、意外に新鮮に聴こえるかもしれないし、最近の甘口ピアノ・トリオにお嘆きのフアンには、こうした硬派のピアノもよいのではないか。辛口です。
なお、上記の‘The Giant is Awakened’には、アルトのアサー・ブライスも参加しています。
ps 録音は、D・ベイカーが担当していて、なかなかの好録音。演奏内容の素晴らしさを一音も漏らさず、記録している。それも、TAPSCOTTの存在の大きさかもしれない
‘カプリコーン・ムーン’の入った「Quartet」を、と思ったが、S・カウエルのデビュー作となった本作を採り上げてみた。68から69年をピークにアヴァンギャルド・ジャズがこの国のジャズシーンを席捲しており、特に僕が当時いた京都は、学生運動の東の拠点で、活動家と妙に結合して、それ専に近いジャズ喫茶もあった程。初心者の僕には、毎日が「苦行・難行」の世界だった。
しかし、聴き方によってはその集団即興演奏が‘騒音’とも取れるフリー派のレコードの中で、この「WHY NOT」から聴こえるブラウンのasは、明らかにそれらと一線を画しており、誰かが、「アルトの詩人」と行ったが、本当にうまい事を言ったものだ。今となっては、あの‘フリー・ジャズ・ムーブメント’も一過性のように言われるが、そうではなく、避けては通れない必然的なものをJAZZ、それ自体が包含していたのではないでしょうか。それだけ「あの頃」は全ての分野において、エネルギッシュだったのだ。
本作は、オーソドックスな、ワンホーン・カルテット編成とあって、マリオンの本音に近いプレイが聴かれる。A、B面それぞれ2曲、マリオンの瞑想的で、それでいて表情豊かなasが堪能できる。カウエルのピアノもその後の彼の躍進を予感するに充分なプレイで本作の価値を高めている。
フリー・ジャズは、どうも・・・、と思っている方には、最適な入門篇と思います。
第2回 (18/02/‘03)
WHY NOT / MARION BROWN
ESP 1040
MARION BROWN (as) STAN COWELL (p) NORRIS JONES (b)
RASHIED ALI (ds)
第3回 (22/02/‘03)
THE BILL HARDMAN QUINTET / BILL HARDMAN
SAVOY MG 12170
(KIJJ-2012)
BILL HARDMAN (tp) SONNY RED (as) RON MATHEWS (p)
DOUG WATKINS (b) BOB CUNNINGHAM * (b) JIMMY COBB (ds)
1961
硬派が2枚続いた後は、軟派?と言うわけではないが、ギンギンのハード・バップを一枚。心無い人達から、B級トランペッターの烙印を押されてしまったハードマンが一番良かった時期に吹き込んだ一枚。それにしてもあんまりなジャケットだ。どうしてここに「COFFEE」が入るのだろう。それでなくとも陳腐なのに。
では、演奏もそうかと、言えば、それが名曲名演があるんです。
一曲目の‘CAPERS’がそれ。1回聴くだけでなんとなく憶えてしまいそうなマイナー調の曲でハードマンの実力の程を顕している。2曲目の’ANGEL EYES’でも、思いの他、どっしりとしたソロをとっている。共演者では、通好みのレッド、新鋭のマシューズが気になるところだが、まだオリジナリティが出ていない点が残念。
それと、本作の録音が、61年ではなく50年代であったならば、もっと関心度が高かったかもしれない。どこまでもツキの無かったハードマンが残したたった一曲の名演によりこのレコードはハード・バップ・ファンに密やかに愛され続けている。
第4回 (25/02/'03)
PHILADELPHIANS / BENNY GOLSON
UNITED ARTISTS UAL 4020
このメンツを見ると、おおよその見当がついてしまい、つい見過ごし勝ちになってしまうが、ハード・バップの懐は案外、深い。そこが、ハード・バップ=モダン・ジャズという公式めいたイメージが定着する所以ではないでしょうか。UAのハード・バップは例えば、ブルー・ノート、リヴァーサイド、プレステージのような黒っぽさとは、チョット異なり、割りとアッサリしていて好みの分かれるところ。
本作は、全員‘フィラデルフィア出身者’達による演奏と思いきや、正確には、ゴルソン、ブライアント、フィリー、モーガンの4人だけ?(モーガンも一般的には、‘フィラデルフィア’出身とされているが、同じ州のピッツバーグという説もある)だが、さすがにまとまりが良く、好調時のモーガンのtp、シンプルでありながら繊細なブライアントのp、がこのレコードを魅力のあるものにしている。とは言うものの聴き所は、やはり、センス抜群のゴルソンの編曲。2管とは思えぬ色彩感は、ここでも輝いている。‘thursday’s theme’を聴くとその手腕が明白。申し訳ないが、ゴルソンのルックス、tsの音色、フレージングからは、とても想像できない。
この後、ゴルソンは、C・フラーとニュー・ジャズ・レーベルへあの有名な3部作を録音して行くことになるが、この地味なレコードは、それらになんら、遜色のない出来であることには、違いはない。
ps 右チャンネルから聴こえるゴルソンのtsの「音」がやけに生々しく録音されている。あの音色が、どうも・・・、という方は、ちょっと辛いかな。それと、僕は、なぜか、このジャケットが気に入っているのだが、以前、廃盤屋で、全面、大きな文字ばかりのジャケットを見たことがあるが、どちらがオリジナル・ジャケットなんでしよう。ご存知の方がいらっしゃれば、お教えください。.
* オリジナル・ジャケットが判明しました。notさんのブログをご覧下さい。
LEE MORGAN (tp) BENNY GOLSON (ts) RAY BRIANT (p)
PERCY HEATH (b) RHILLY JOE JONES (ds)
1958
(LAX 3119)
ps ‘CAPERS’は、B・ミッチエル「THE CUP BEARERS」(RIVERSIDE 439 / 62年)でも聴かれます。
ミッチェルの熱いtpが炸裂しているので、聴き比べるのも一興です。
一時、時代の寵児になったガトーについて、‘ガトーは本物か?偽者か?、という議論が70年代中期に興った。答えは、明らかに偽者だが、ジャズ・ファンの一部には、熱心な信奉者?がいて、ジャズ喫茶のおやじの中にも、偽者と判っていても、店の営業のため‘ガトー’に肩入れした人もいたようだ。
しかし、考えてみると、この世の中「本物」なんてごく僅かで、「偽者」のほうが多い事を考えれば、そうムキになるまでもないようだ。「本物」を愛し、「偽者」を楽しむ、これが、ジャズと長く付き合う「極意」かもしれない。
それまでのフリー・ジャズのフーィルドから、母国、アルゼンチンの民族音楽を取り入れ、新しいジャンルへの挑戦した本作は、ガトーの予想外?の人気者への第一歩となった。万華鏡のような「音」の洪水を背に、塩辛い音色で、演歌ぽいフレーズを連発するガトーに「人間の淋しさ」を感じた人は多かったようだ。ラスト・ナンバー、‘BACHIANAS BRASILEIRAS’はその典型です。
この「第3世界」は、B・シールの読み通り、成功を収め、次々にヒットを飛ばし、あの‘ラスト・タンゴ・イン・パリ’に到るわけだが、この頃になると、さすがに、かっての信奉者も??だったのでは。今では、だれもその名を口にしなくなった‘ガトー’のこの出世作、ただ単に偽者と片付けれない‘何か’を有しているのもB・シールの魔術と言えるのではないでしょうか。
第5回 (28/03/‘03)
THE THIRD WORLD / GATO BARBIERI
FLYING DUTCHMAN FD 10117
GATO BARBIERI (ts fl vo) ROSWELL RUDD (tb) CHARLIE HADEN (b)
LONIE L.. SMITH,Jr. (p) BEAVER HARRIS (ds) RICHARD LANDRUM (per)
1969
* ジャケットにポイントを当ててみてください。
1966.10.23
(2003.2.18)