’ROUND MIDNIGHT / KENNY BURRELL
FANTASY 9417
KENNY BURRELL (g) RICHARD WYANDS (p) REGGIE JOHNSON (b)
LENNIE McBROWNE (ds)
* JOE SAMPLE (p) PAUL HUMPHREY (ds)
1971?
期間限定というかクリスマスの時期になるとターンテーブルによく乗せるレコードが本盤。理由ははっきりしないが、恐らくバレルのアーバン・ライクなギター・サウンドによるものだろう。
ここでもバレルのブルース・フィーリング溢れるプレイは、例えばG・グリーンのようなアーシーなタッチと異なり「夜の街」に溶け込むようにソフィストケーテッドされている。
本作はギター+ピアノ・トリオというシンプルな布陣なので、バレルのgが存分に堪能できる。pといってもここでは、ワイアンズ、サンプル(一曲のみ)ともにepを弾いており、それが案外クリスマスの雰囲気に合っているのかもしれない。
全7曲、バラードからミディアム・スロー・テンポで纏められている点も好ましい。特にトップの‘A Streetcar Named Desire’から‘Make
Someone Happy’、そして‘’Round Midnight’と続くA面はバレルの優しく包み込むようなすばらしいギター・プレイが聴かれる。
イヴに街の夜景を眺めながら、誰かとグラスを重ねる時のBGMと言えば、僕なら本盤を第一に挙げます。録音の加減で普段より豊潤で、歯切れの良いバレルのギター・サウンドはチョツピリ、ゴージャスな気分にさせてくれる。しかも名演揃いとなればこれ以上言うこと無しですね。
ps この地味なレコードを知っている人は居ないだろうと思っていたら、随分前だが、あるジャズ雑誌に、大阪の「インタープレイ8」のマスターが好きなバラード作品の一枚に挙げており、「ヤハリ」と一人、悦に入っていました。
(2003/12/17)
BETHLEHEM BCP 6055
HOWARD McGHEE (tp) TOMMY FRANAGAN (p) RON CARTER (b)
WALTER BOLDEN (ds)
and
BENNIE GREEN (tb) ROLAND ALEXANDER (ts fl) PEPPER ADAMS (bs)
1960
ヤクザなジャケットである。しかも妙に決まっている。中身も決まっているかと言えば、それが一聴、何でもない演奏に聴こえる。しかし、そこは大物ビバップ・トランペッター、マギー、そんじょそこらの駆け出しとワケが違う。ガレスピー、ナヴァロは名声を手にしたが、マギーは代わりにダンディズムを手にした。それも「無頼のダンディズム」だ。無頼といっても一匹狼に近いニュアンスである。
本作はヤク問題で50年代に入ってからは断続的な活動を余儀なくされた彼がカンバック後、モダン派を率いて録音した作品。40年代のハイノート・ヒッターのイメージを覆す深みをあるスタイルだ。競演を熱望したフラナガンをpに据えたリズム・セクションをバックにマギーは味わいあるプレイを聴かせる。カルテットとホーン陣を加えた二つのセクションから成る構成も変化があってイイ。なお、本盤はイギリスの再発盤です。
BLUE NOTE 5024
HOWARD McGHEE (tp) GIGI GRYCE (as fl) TAL FARLOW (g)
HORACE SIVER (p) PERCY HEATH (b) WALTER BOLDEN (ds)
1953
<5012>に続くマギーのBNにおける2作目の10inch盤である。歴史的観点からみて<5012>の方が名盤として知られているが、一リスナーの立場で聴くと本盤の方に愛着が湧く。この「なまぬるさ」が快適なのだ。銘菓と呼ばれるものより駄菓子のほうが美味しい場合が結構多い。と言っても本作が駄盤というわけでもない。メンバーを見るとファーローの存在が意外だが、これが一種独特の雰囲気を醸し出し、グライスの瑞々しいasとの対比が聴きもの。だが、ここでもやはりマギーの「無頼さ」が1本、筋の通った作品に仕上げている。それと、53年という時代を忘れさせる進歩性だ。ジャケットからのイメージはビ・バップを連想させるがこの時点で既にイースト・コーストの立派なハード・バップを演じている。チョット驚きでもある。
また、本作でもマギーのバラードが光る。それが‘Good By’。この情感は並みのトランペッターというか、ネーム・バリューの有るミュージシャンでもそう簡単には出せない。因みににアダレーの‘KNOW
WHAT I MEAN’、タイナーの‘REACHING FOURTH’を聴いてみるのもいいだろう。
だが、この頃、既にマギーの才能を薬物禍は静かにしかし確実に蝕んでいた。
なお、<5012>、<5024>共に「幻の名盤読本」」に掲載されている。
ps ‘Good By’を聴くと映画「カサブランカ」を思い出す。空港でイングリッド・バーグマンをハンフリー・ボガードが見送るラスト・シーンだ。
映画のテーマ曲は‘As Time Goes By’だが、ボガードの「ダンディズム」とマギーの「無頼さ」が僕の頭の中でなぜか重なり合うのだ。
この2枚は「道草」のようなレコードだ。しかし、時にはより道しながら、落胆したり、驚いたり、思いがけない楽しみを見つけるのもまんざら悪くない。近道よりも遠回りのほうが実は面白いのだ。
(2004/3/2)
ARGO 726
GENE SHAW (tp) JAY PETERS (ts) HERB WISE (tb)
JIM TAYLOR (p) SID ROBINSON (b) JEROLD DONAVON
1963
ARGOの本拠地、シカゴって町(大都市だが)に僕は行ったことがないけれど、どんな町なんだろう? このレコードを聴くと、忽ち爽やかな「風」が吹き始め、まるでシカゴまで乗せていってくれる気分になる。町全体がソフィスティケイテッドな雰囲気に包まれ、本作の主人公であるショーがオーナーでもあるナイト・クラブ兼スクール‘Old
East Inn’のように、粋なジャズが街角のいたるところで流れているようなそんなイメージが湧いてくる。今まで持っていたちょっとアーシーなイメージとはまるで正反対である。
本作が録音された63年と言えば、「モダンジャズ・灼熱の時代」のはず。そんな時、これほど都会的センスに満ちた演奏がされていたとは、驚きを隠せない。しかも、ショーといえば、一癖も二癖もあるミンガス・グループの出身を考えるとなお更である。
タイトルが示すように、全8曲、ブルージーでありながら洒落た演奏が繰り広げられるなか、蠱惑(こわく)的とでも言うのだろうか、ショーのtpのトーン、吹き方にぐんぐん引きずり込まれてしまう。ライナーノーツでJOE SEGALはジーン・ショーをデトロイト時代(ショーの生れ故郷)は‘mellow-toned
trumpeter’と解説しているが、その後、こうしたオリジナリティのあるスタイルを身に付けたのだろう。‘WHEN SUNNY GETS BLUE’なんかはその名残がありますが。
そう言えば、ミンガス・グループの同僚であったJ・ネッパーのtbも蠱惑的に感ずる時があります(A SWINGING INTRODUCTION)。
それにしても、ラストナンバー‘TRAVELOG’(bのROBINSON作)の哀愁極まりなく、やるせないメロディを掠れるように、消え入るように吹くショーに、思わず心の中で「もう、止めてくれ!」と叫んでしまう。心のヒダを掻き毟られるようだ。こんなtpの鳴らし方、他に聴いた記憶が無い。
ソウルぽいPETERSのts、こじゃれたTAYLORのpもイイ。WISEのtbも聴けば聴くほどに味わい深いものが有る。しかし、とにかくリーダーのG・ショーの洗練された感性が抜群だ!
ボキャの乏しい僕にはこれ以上、本作をうまく表現できない。本作をお持ちの何方か、助けてくれー・・・・・・・・・・
PS ‘幻のトランペッター’ジーン・ショーの‘知られざる名盤’であり、僕の愛聴盤の‘隠し玉’でもあります。
当初はショーの初リーダー作“BREAKTHROUGH”を紹介する予定でしたが、何処にも見当たらず泣く泣く?本作をアップしました。
“BREAKTHROUGH”はどこへ行ってしまったのだろう。もう一度、申し上げますが、‘TRAVELOG’を一度聴いてみてください。
アメリカ人でもこんなメロディを書けるとは、驚きです。胸がキュンキュンしちゃいます。‘CAPERS’が好きな方なら是非。
イヤー、他の曲もイイなぁ。聴き終わっても、また、初めから聴き直してしまいます。こりゃ、もう病気だね。そんな不思議な魅力を持つレコードです。本当にイイッス。
(2004/6/25)
WARNER BROS WS 1356
PAUL DESMOND (as) JIM HALL (g) PERCY HEATH (b) CONNIE KAY (ds)
1959
レイモンド・チャンドラーのハード・ボイルド作品の主人公、探偵フィリップ・マーロウの名セリフの一つに「男はタフでないと生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」がある。本作のデスモンドを聴くといつもこの言葉を何故か思い出す。
考えてみれば、本作の4人は全員、リーダーではなく脇役ばかりの人達である。
デスモンドにしてもリーダーは、やはりブルーベック。
その彼が「フィリップ・マーロウ」になったレコードが本作。デスモンドの代表作である。
左のジャケットは2ndで、下がオリジナル。本盤だけは、例外的にオリジナルより
2ndの方が断然優れていると常々思っている。唯一無比の名アルト奏者、デスモンドをこれほどまでハード・ボイルドに描写したジャケットは他にないし、演奏内容からのイメージも圧倒的に2ndジャケットである。
以前、時々、円盤屋でこのジャケットを見かけた。2ndということで随分安く売られていましたが、最近、それもあまり見かけなくなりました。
裏ジャケットにサブ・タイトルとして“An ‘After Hours’Session With Paul
Desmond And Friends”と書かれている。確かに、デスモンド、ホールのコラボレーションを軸に4人の名手達によるリラックスしたプレイが全編に亘って聴かれるが、もう少しシビアな聴き方をすると、デスモンドのasにDBQの時と違っていつになく鋭さを感ずるのは僕だけだろうか?
「強かさと優しさ」、デスモンドのasの神髄が本作に秘められている。
また、必ず話題に挙げられる‘Greesleeves’は演奏時間があまりにも短く、ちょっと残念。その代わり、他の6曲は、演奏時間が充分に用意されており、デスモンドの正に泉に如く湧き出る美しいアドリブが心いくまで堪能できる。
企画性を持たせず、セッション風に仕上げた所に本作の成功がある。
その点、後年のRCAの諸作は、イージー・リスニング的企画度が強く、デスモンド本来の自由奔放なasの魅力が削がれ、今ひとつ歯応えに欠けた出来となっている。
ホールのgもデスモンドに応え、滋味溢れる好プレイを展開し、タイトルに恥じない
「名演盤」となった。
(2004/11/30)