呟   き   






(22)  Jackie's Aggressive Voyage On Blue Note









 
 

ONE STEP BEYOND / JACKIE McLEAN


BLUE NOTE BST 84165


 JACKIE McLEAN (as) GRACHAN MONCUR V (tb) BOBBY HUTCHERSON (vib) EDDIE KHAN (b) ANTHONY WILLIAMS(ds)

1963.4.30



僕にとって「ジャズ喫茶の大名盤、人気盤」と言えば、‘COOL STRUTT'IN’でなければ‘MOANIN'’、‘SIDEWINDER’でもなく、‘AT THE GOLDEN CIRCLE / O・COLEMAN’。ざっくり言えば、ジャズ喫茶に行く度に、‘AT THE GOLDEN CIRCLE’が流れていた思い出が強い。そう言う時代にJAZZを聴き始めた。何年か前、一関のベイシーを訪れた時にも流れ、驚いたぐらいです。その、コールマンに一番、インスパイヤーされたジャズマンと言えば、同じasのマクリーンを置いて他にはいない。共演までするほどですからね。

本作は、BN録音の8作目(正規リリース上)に当たり、前作‘LET FREEDOM RING’で見せた新生マクリーンを更に推し進めた作品である。カヴァ写真に映るマクリーンの険しい表情が、これから始まる新しい航海への並々ならぬ決意を物語っているようですね。その決意のほどは、‘LET FREEDOM RING’と本アルバムとの間に、かって、「幻の名盤」と謳われ、後年になって発表されたドーハムが参加した「4116」の他に、S・クラークが入ったカルテット盤‘TIPPIN' THE SCALES’をボツにしている点でも窺い知れます。裏を返せば、‘LET FREEDOM RING’から本作への道程は、必ずしも平坦な一本道ではなかったワケです。

そうした試行錯誤にケリを付けたのが、マクリーンがボストンで見つけた録音当時、僅か17歳の天才ドラマー、ANTHONY WILLIAMSの存在。その辺りの経緯は、マクリーン自身が書いたライナーノーツに載っている。

この作品の特異性は、楽器編成。通常であれば、tbではなくtp、vibの代わりにpとなる。つまり、マクリーンはモード、或いは、フリーといった演奏手法上のアプローチの他に、グループ全体のサウンドの変化をも狙っている。それが、マクリーン一人のアイディアなのか、それともライオンのアドバイスによるかは兎も角、出て来たサウンドは、青白くクールに、しかも、以前よりもエモーショナルに燃え上がっている。

A面、B面、それぞれ1曲ずつ、マクリーン、モンカーが書き下ろしている。モンカーの二曲は‘FRANKENSTEIN’、‘GHOST TOWN’と、なにやらお化け屋敷を連想してしまい、本作へのイメージと重なり、とっつき難いかもしれませんが、御心配無用。

‘LET FREEDOM RING’ほどの衝撃度はありませんが、、本作の充実度は高い。ただ、隙が無いか?と言えば、そうでもない。けれども、ウィリアムスのドラミングが全て埋め尽くしている。TOPのマクリーンのオリジナル‘SATURDAY AND SUNDAY’ではbのカーンと刻む細かなビートはそれまでのドラマーとは違うリズム感を生み出しているし、‘FRANKENSTEIN’では3/4拍子とは思えぬテンションが漲っている。

ここが、単なるスタジオ・セッションではなく、マクリーンが新たに結成したレギュラー・バンドの強みだろう。


マクリーンはライナー・ノーツの最後で、このバンドで直ぐにでも次作を録音したい、とコメントしている。結局は実現しなかったが、マクリーンの心情は、正に‘ONE STEP BEYOND’、万年青年マクリーンの新たなる本当の挑戦がここから始まった



(2010.6.30)





      












DESTINATION OUT / JACKIE McLEAN


BLUE NOTE  BLP 4165


JACKIE McLEAN(as) GRACHAN MONCUR V(tb) BOBBY HUTCHERSON(vibes) LARRY RIDLEY(b) ROY HAYNES(ds)

1963.9.20



                                                                
昨年末、TSUTAYAの社長(の方が分かり易い)、増田氏がTV番組「カンブリア宮殿」にゲストとして出演した。ホストの村上龍氏は好きな作家なので、時々、この番組を見ている。その時、増田氏は凄くインパクトのあるコメントをさりげなく言われた。

記憶がそろそろ曖昧になってきたので、果たして正確かどうか自信がありませんが、要約すると「一からのオリジナルでなくても、あるものとあるものを組み合わせることによっても、オリジナルと言える価値あるものができる」と。うぅ〜ん、さすが、ベンチャー界の「風雲児」と知られる方の一言って、重みというか説得力がありますね。

「あるものとあるものとの組み合わせから、オリジナルなものを」、50年も前、マクリーンの‘Aggressive Voyage’は正にオリジナルな道程だった。bとdsは異なるもののモンカー、ハッチャ^ソンがはいったクィンテットでは2作目となる本作は、カヴァのマクリーンから想像できるように、ハード・ボイルド度をより高めている。前作同様、片面2曲ずつ、計4曲、マクリーン、モンカー、ハッチャーソンのソロがたっぷり聴ける。

また、マイルスに引き抜かれた?譲った?は兎も角、ウィリアムスの代わりに入ったヘィンズのツボを押さえたドラミングも聴きものです。ウィリアムスの革新性を別にすれば、グループ全体の演奏密度という視点から聴くと、ある意味で、ヘィンズの方が合っているかもしれません。
 
 
では、聴いて参りましょうか。その前に、本作はモノラル盤で聴いているいる事をお断りしておきます。


一曲目、モンカーのオリジナル・バラードVLove And Hate’、この一発!で殺られてしまう。バラードと言っても、通常のバラードとは趣を全く異にしている。
朝もやの中、まるで遠くに聴こえる念仏のようなテーマの後、目の前に修験者、マクリ-ンがパッと現れ、深く静かに吹き始める。所々、ラプソディックなフレーズを織り交ぜながら、真正面から中央を突破してくる腹の据わったソロに心が揺さぶられる。

確かに、マクリーンは変わった。

ある本のなかで、マクリ−ンはかってこう述懐している。

「プレスティッジ時代は、自分なりにありのままを出していたのに、いつも、パーカーと比較され悩んだこともあった。ハード・バップ〜モードに至る自然の流れは自分にとってピッタリ合ったものと感じたが、何か欠けていて、パーフェクトではなく、そこにサムシング・エルスを加えなければ自分の音楽は完成しないと思った。BN時代初期の作品に於いても、音楽的不満は解消されず、そんな頃、ファイブ・スポットで聴いたオーネツト・コールマンに体中、電流が流れるようなショックを受け、これこそ、自分が求めていたサムシング・エルスの答になるのではないかと思え、試行錯誤の中で初めて満足の出来る作品がVLET FREEDOM RING’だった。これを更に発展させるには、レギュラーコンボを持ちたいと考えた」と。

そして、63年になってレギュラー・クィンテットを結成、4月30日に吹き込んだのが、前作‘ONE STEP BEYOND’。ハード・バップ、モードとフリー・ジャズを融合させた新境地こそ、マクリーンが追い続けたオリジナリティ溢れるジャズだったのだ。
 
 
祈りとも念仏とも聴こえるこのVLove And Hate’の厳粛さは、新生マクリーンの一つの極みの象徴と言っていいだろう。


3/4拍子から4/4拍子と変化するスリリングな‘ESOTERIC’、爽快なスピード感と火傷しそうな熱いソロが続く‘KAHLIL THE PROPHET、どことなくほんわかムード漂うブルース曲‘RIFF RAFF’、どれをとっても密度の濃い演奏が続く。つまり、モンカー、ハッチャーソンを始め、メンバー全員のベクトルが正に一つ!
 
 
本作も前作同様、マクリーン自身がライナー・ノーツを書いており、、こんな一節がある。
‘Everything changes with time, and music is no different. Today the compositions are getting more and more involved with form, rhythm changes and breaks.
更に、
‘Today we live in an age of speed and variety,We live in an age of men seeking to explore worlds beyond.


50年前、マクリーンは、確かに「風雲児」の一人だった。
 
 
また、余談ですが、村上龍氏が好きな理由はコレです。



(2012.3.2)










IT'S TIME / JACKIE McLEAN


BLUE NOTE BST 84179

CHARLES TOLLIVER (tp) JACKIE McLEAN(as) HERBIE HANCOCK (p) CECIL MCBEE(b) ROY HAYNES(ds)

1964.8. 5



時々、自分はマクリーンの「入口」が多くのマクリーン・ファンと違うのではないか、と思う。初めてマクリーンを知ったのは、ジャズを聴き始めて間もない頃、FMジャズ番組から流れた‘LET FREEDOM RING’、「こんなジャズがあるんだ!」と体中に電流が流れるようなショックに震えた。

それから間もなく、四条小橋をちょっと上がったダウンビート(京都)で新譜として壁に掛っていた‘RIGHT NOW’をリクエストし、まるで砂漠を疾走する「アラビアのロレンス」になったかのような爽快な高揚感を覚えた。
つまり、自分のマクリーンの「原点」はこの時代であって、人気の基になっているプレステージや初期のBNの「ハード・バップ ジャッキー」ではない。ただ、その後、それがジャズとの関わり方にどう違いが出て来たか、よく解らない。


以前、ジャズ本を何冊か出されているジャズ喫茶の店主は、‘LET FREEDOM RING’以降のマクリーンを「歌を忘れたカナリア」と揶揄されていた。そのまま鵜呑みにする人はいないと思いいますが、店にくる客筋を背景にした一種の「ポピュリズム」が透けて見えた。


脱線ついでにもう一つ、‘LET FREEDOM RING’でのフリーキー・トーンについて、「自然発生でなく、意図的」とか「空回りしている」とネガティヴな意見が見受けられるが、そもそもジャズのアドリブが全て自然発生なんて幻想だし、自己革新、改革しようとすれば、他人が想像する以上の、空振り、空回りも厭わないエネルギー、パッションが求められる。それを恐れたら先がない。そう思わない人は恵まれた環境にいる人だけでしょう。

事実、「ハード・バップ ジャッキー」は本国ではほとんど評価されず、その他大勢の一アルト奏者だったが、‘LET FREEDOM RING’でやっと認められたという。しかし、我が国ではその事実は「封印」された。

ムダ話はこの辺りで、

モンカー、ハッチャーソンとのコンビを解消し、新たにトリヴァー、ハンコックを迎えた本作は、この航海を更に押し進めたもの。‘IT’S TIME’、「時が来た!」は留まる事なき創作意欲と探究心の表れ。トリヴァーはフリー色を持つけれど、ハバードからアドバイス、レッスンを受ける間柄の「体制内急進派」で今回が初レコーディング、ハンコックもバーサタイルながら、この頃は急進的なプレイに傾き、作品の価値を高める働きをしている。

まだ海のものとも山のものとも解らない新人、トリヴァーのオリジナルを3曲も取り入れている事からして、如何にマクリーンが前2作に手応えを得て前向きでいたか、容易に想像できます。トリヴァーはBNにリーダー作を録音する機会に恵まれなかったが、後年、「MUSIC INC」を結成し、大ブレイクしたのは周知のとおり。

R・MILESのカヴァ・デザインも「飛躍の時が来た!」と。また、、前2作はマクリーン自身がライナーノーツを書いていますが、今回はN・HENTOFF。


「プレステージからBN初期の演奏に今一つ、納得しなかった」と自ら語るマクリーン、「自信」が「確信」に。




(2016. 10. 17)


BACK           TOP          NEXT