呟    き




(20) 天才 MORGANに忍び寄る ・・・・・・・・・





EXPOOBIDENT / LEE MORGAN


VEE JAY 3015

LEE MORGAN (tp) CLIFFORD JORDAN (ts) EDDIE HIGGINS (p) ART DAVIS (b) ART BLAKEY (ds)

1960.10.13



あまり上等とは思えぬディレクター・チェアに股を開いて尊大に腰掛けるモーガン、「気障な奴」と思うか、それとも「やっぱー、人気者は、決まっているよなぁー」と思うかはともかく、味気ないアルバム・カバァには違いない。だが、こと写真撮影という視点から見ると、なかなか面白い。
どういう事かと言えば、「タブー」を犯している。「影」である。つまり、本カヴァのようなアマチュアもどき影の存在・出方をプロのカメラマンはもっとも嫌うのである。もっとも、この殺風景とも思える写真をそれなりに計算して生かしている点からすると、主役はモーガンではなく、実は「影」なのである。もし影が無かったら ・・・・・・。 「タブー」を逆手に取っている。



この作品は、ジャズ・メッセンジャーズのあの熱狂的な来日ステージ(1961年1月)の僅か2ヶ月ほど前の録音で、VEE JAYレーベルの第二作目。一作目‘HERE'S LEE MORGAN’ほど露出は少ないもののデープなモーガン・ファンより同様に愛されている。
VEE JAYの二枚の作品がその完成度はともかく高い支持を得ている理由はモーガンが自由奔放にtpを鳴らしているからだろう。まぁ、こんな事を思うのは僕だけかもしれませんが、BN初期の作品はモーガンの意思とは別になにやら、曲、編曲、そしてメンバー等、全てお膳立てされ、大事に育てられ過ぎている感じが否定できません。それを証明するようにモーガン自身、当時、自分の一番好きなアルバムとして、名盤の誉れ高い‘VOL.3’や人気盤‘CANDY’ではなく、あまり世評芳しくない‘THE COOKER’を挙げているほどで、実を言うと僕もこの作品の足枷を解かれたようなモーガンの熱いプレイが大好きなんです。



さて、この年(1960年)、モーガンはリーダー作として、2月に‘HERE'S LEE MORGAN’、4月に‘LEE WAY’(BN)、そして10月に本作と立て続けて録音しており、両レーベルの作り込みの度合いの差が歴然としている。‘LEE WAY’が片面、それぞれ二曲、しかも60年代を意識しながらソロ構成を一捻りしている一方、‘HERE'S LEE MORGAN’は作り込みが浅く、その分、モーガンのストレートな魅力が味わえるとも言えます。



それでは本作を聴いてみましょう。A面二曲目、ジョーダンが抜けた‘Easy Living’。昔より名演として定評がある。思わせぶり過ぎる‘HERE'S’の‘I'm A Fool To Want You’より、衒いのないそのプレイにより好感を持っているのは僕だけではないでしょう。

B面では、ジョーダンの代表曲、サスペンス・タッチの‘The Hearing’がイケルし、スタンダード・ナンバー‘Just In Time’に於けるミュートの艶のある音色が素晴らしい。特に出だしのテーマ部分など鼓膜を擽るようでゾクゾクしますよね。
pにやや異色のヒギンスが参加しており、ケリー、ティモンズとはちょっと違ったファンキーさで上手く溶け込んでいて、
まぁ、楽しんで聴く分には何の過不足なく、当時のモーガンの魅力が等身大で収められているには違いない。。


だが、2月の‘HERE'S’はともかく、pとbのメンバーの違いこそ有れ、ほぼ同じコンセプトによる8ヵ月後の本作をJAZZの流れ全体を俯瞰し、モーガンのキャリアをクロスさせた上で考察すると、見方ががらっと変わる。つまり、停滞=後退と思わざるを得ません。
本作の後、モーガンはインパルスの‘A La Mode’(1961.6.13)まで、残り少ない最後の花道を突っ走り、モブレーの‘NO ROOM FOR SQUARES’(1963.10.2)でカムバックするまで、故郷・フィラデルフィアに引き篭もったことは周知の通りです。その間に、異様なカヴァで知られる苦心作‘TAKE TWELVE’(1962.1.24)を僚友、ジョーダンと吹き込んでいるものの、実質的には二年以上の引退状態が続いたワケです。

結局、何が言いたいか、と言うと、本作が録音された1960年10月13日は、ジャズが一人の天才トランペッターを抜き去った決定的瞬間であった、そして、それを知っていたのは「影」だけだった、とはチト言いすぎでしょうか。
言い換えると、「タブー」を犯したこのカヴァは、モーガンの「光」と「影」の分岐点を恐ろしくも暗示していたのです。





なお、所有している本盤はいかにもVEE JAYらしく?いい加減です。カヴァの写真はコーティングされていますが、貼りです。
また、「STEREOPHONIC」と表示されていますが、レコード本体はレーベル通りモノラル、しかもA面のセンター・レーベルルはエディ・ハリスの‘EXODUS TO JAZZ’になっている。70年代初めに入手したブツで、一応、レインボウですが、多分、VJインターナショナルから再発されたものでしょう。余っていた?材料で間に合わせたゲテモノ仕様ですね(笑)。なお、本盤のVEE JAYオリジナル・レーベルはあるのでしょうか? 見たことがありません。「音」ですか?がさつですが、ある意味で「鮮烈」とも言えます。
特にモーガンのtpは申し分ありません。因みに「Bell Sound」のサインがあります。



(2007.12.27)


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