THE BLACK ANGEL / FREDDIE HUBBARD
ATLATIC SD 1549
FREDDIE HUBBARD (tp) JAMES SPAULDING (as fl)
KENNY BARRON (p ep) REGGIE WORKMAN (b) LOUIS HAYES (ds)
1969
社会人になって初めてのボーナスを基に、東京へ遊びに行った。30年以上も前の話。せっかくだから、帰りに、横浜の「ちぐさ」に寄ってみた。勿論、初めてであったが、扉を開けたとたんに、あの名物マスターと目が合った。雑誌では知っていたが、その優しい眼差しは、「なるほど」と思わせるものがありました。腰を降ろすとすぐに、本作(B面)がかかった。
既に直輸入盤で聴いていたが、録音がいまいち?なのか、僕のオンボロ装置では、その内容の良さが充分に伝わって来なく残念に思っていたので、ジャズ喫茶の本格的装置では、どうか、と期待した。
さて、A面トップの‘Specetrack’は17分にも及ぶ力作で、前衛色も打ち出しながら、tpに全エネルギーを注入し躍動感溢れる神懸り的なフレディのプレイが聴きもの。テンションの高い演奏が繰り広げられている。
B面は、コンガを加え、リズミカルで快適な演奏が続くが、そこには、アーシーではなく、「アーバン」(都会風)という新しいテイストをハバードは創り出している。あか抜けしたサウンドです。
しかし、この生気のない「音」は、なんなのだろう。「ちぐさ」でも同じであった。ジャズの持つエネルギーを半減させている。R・ヴァン・ゲルダーとは、言わないまでも、もう少しジャズの判るエンジニアが録っていれば、この作品の魅力はもっと増していただろう。
ps この後、70年の初め、ハバードはCTIに「RED CLAY」を吹き込み、スーパー・スターへの道を歩む事になる。録音はゲルダー。さすが、クリード・テイラー(プロデューサー)、ジャズの「音」を知っている。もし、本作もゲルダーが録っていたならば、評価も違ってきただろう。
「ちぐさ」のあのマスターは昨年?、亡くなられた、と風のたよりで聞きました。ご冥福をお祈りします。「ちぐさ」は今、どうなっているのだろう。
ps 新聞によると2007年1月の末を以って引退(閉店)されました。
再開されるようです。(2012/2/20)
(2003/5/24)
SELFLESSNESS / JOHN COLTRANE
IMPULSE AS 9161
JOHN COLTRANE (ts) McCOY TYNER (p) JIMMY GARRISON (b)
ROY HAYNES (ds)
1963
上記にプラス (*HAYNESに替わりELVIN JONES)
PHAROAH SANDERS (ts) DONALD GARRETT (bcl b) JUNO LEWIS (per)
FRANK BUTLER (ds per)
1965
昨夜は一睡もできず朝を迎えてしまった。ある仕事のオファーを受けるか、辞退するか、久しぶりに悩みました。こちら都合の良いものばかり選んでいるほど余裕はないし、相手が困っている時に力になるのもいずれ自分に還ってくると判断し、受ける決心をした。
急に何か自分の気持ちを鼓舞する演奏を聴きたくなり、このレコードを思い出した。学生時代に初めて本作を聴いた時、不思議な感情に駆られた事をずっと忘れずに憶えていたからです。
さて、本作は63年のニューポート・ジャズ・フェスティバルのライブから2曲、「クル・セ・ママ」のセッションから1曲の構成である。一番の聴きものは、何と言っても‘My Favorite Things’(ライブから)。この曲のベスト・ヴァージョンではないでしょうか。
このニューポート・ジャズ・フェスティバルでは、E・ジョーンズの替わりにR・ヘインズが入っています(E・ジョーンズのクスリ問題?)。僕はヘインズのあの手数の多いドラミングはあまり好みではありませんが、ここでは、逆によい刺激になったのかもしれません。
テーマを少し崩しながら吹くトレーンに続く長いタイナーのソロはこれから始まる儀式のプロローグのようで、徐々に聴き手の感情を昂ぶらせてきます。トレーンも感情が昂ぶったのか、一気にハイテンションのソロを連発し異様なほどの展開を聴かせますが、ハイライトはトレーンが再びテーマに戻り、一瞬、エンディングに入るのかな?と思わせた後のコルトレーンの凄絶なソロです。これを「スピリチュアル」とでも言うのでしょうか。僕なんか、呪術にかかった様に頭の中が真っ白になり、我に返るのは、こんな熱すぎる演奏なのに妙にクール?とさえ思えるメンバー紹介するアナウンスの声です。
「クル・セ・ママ」と同じセッション時のタイトル曲‘Selflessness’は‘Ascension’の4ヶ月後の演奏でアヴァンギャルドぽいイメージを受けますが、これがなかなか良い出来です。調性の「IN」と「OUT」の正にライン上とでも言えるパフォーマンスは実にスリリングです。フロント陣の迫力ある集団即興演奏も決して騒音化していなく、むしろ整然としているようにさえ聴こえますし、エルビンの繰り出すビートとパーカッションの躍動感溢れるリズムに乗ってマッコイがまた素晴らしいソロを弾いています。
耳に優しい?ジャズが話題となっている昨今のこの国のジャズ界にあって、時にはこうした激しくも美しい演奏に触れるのも悪くはない。時代が良かっただけとは言わせないコルトレーン、不滅の名演奏集です。異なる録音日から生ずる演奏コンセプトの違いはあるけれど、「一家に一枚」のレベルは間違いなく有しています。
ジャケットのダサさは、見逃してやって下さい。なお、本作はコルトレーン死後の1969年に発表されている。
(2003.7.19)
ps 本作は「シロハウス」(京都)でロリンズの‘AND THE BIG BRASS’の後にかかったレコードで、二人の巨人の圧倒的な演奏に酔い、そのまま外へ飛び出してしまった。初夏の太陽がヤケに眩しかったなぁ。