「幻の名盤」を聴く 5

BARNEY / BARNEY WILEN

RCA(France)  430053

BARNEY WILEN (ts)  KENNY DORHAM (tp)  DUKE JORDAN (p)
PAUL ROVERE (b)  DANIEL HUMAIR (ds)

1959

先日(10/12)の戯言日記の続きで本作を取り上げてみた。1959年4月、パリのあのクラブ‘サンジェルマン’でライブ・レコーディングされた本作は、当時、いかにモダン・ジャズが燃え盛っていたかを偲ばせる、もう一枚の名盤である。名義はバルネになっていますが、ドーハム、或いはジョーダンがリーダーと言われても不思議ではないほどエキサイティングな演奏である。

本レコードは「幻の名盤読本」で掲載された2年後の76年に1,300円の廉価版シリーズの一枚として再発されたものである。その後、長らく再発されなかった?のでしょうか、国内盤でもちょっとしたレア盤として扱われていたようです。勿論、オリジナル盤はコレクターズ・アイテムとして知られ、高価である。

それでは、聴いてみましょう。イャー、一曲目の‘JORDU’(ジョーダン作)のpのイントロを聴いた途端、このステージの異様なテンションの高さに気付く。

さて、本作の最大の聴きものは2曲目のT・ダメロンの名曲‘LADY BIRD’
。ウィラン、ドーハムの気迫に満ちたソロの後、ジョーダンの躍動感溢れ止まることを知らぬピアノ・ソロはどうでしょう! 煌くようなシングルトーンからブロック・コードのブリッヂを経て再びシングルトーンへと、何かにとりつかれたように鍵盤の上をまるで‘Bird’の如く飛び舞うジョーダンのpに思わず興奮してしまう。「燻し銀」と言われる男の「本音」がコレだ。恐るべし。

B面は、‘BESAME MUCHO’、‘STABLEMATES’と人気曲が続き、これも聴き応え充分である。
曲といい演奏内容といい、これほどハード・バップの美味しい所が満載の作品は、そうザラにはない。少なくとも‘LADY BIRD’の名演奏として永遠に語り継がれるであろう。

なお、この国内盤の「音」は妙にクリーンで、やや硬い感じがしないわけではないが、逆にライブの雰囲気をよりダイレクトに伝えているようだ。但し、オリジナル盤と聴き比べしたわけではありません。

PS 近年、漸く、未発表曲4曲を加えCD化されたが、曲順がレコードと異なり‘BESAME MUCHO’がトップに入っている。実際に聴いたところ、私見ですが、本作はやはりレコードの通り、ジョーダンの‘JORDU’から始まるほうがいいように思います。
また、新たな未発表の8曲からなる‘MORE BARNY?’もリリースされているようです。


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(2004/10/18)

チャロフのbsを初めて聞くと、チョット驚くかもしれない。bsと言うと、どうしてもマリガンのクールなプレイを思い出してしまうが、チャロフのbsは、パーカーのイディオムを踏襲し、そのままbsに置き換えたように熱く、エモーショナルだ。

特にバラード演奏に見せる異常なほどの感情移入など、大方のbsへのイメージを覆すものであり、本作でも、“What’s New"、“Body & Soul”は昔から通の間で定評のある名演奏である。ポメロイ、ムッスリといった気心の知れた仲間とのセッションだけに、重低音から高音までまるで、bsをasのように軽やかに操る卓越したプレイにチャロフの並々ならぬ実力を感ずる。

本作はアレンジにやや緩みが感じられる面もあり、辛口派から、かったるい、との指摘も無きにしも非ず、また、ムッスリのasがやや一本調子なのが気になるが、演奏の完成度、云々よりもまず、チャロフ一党のご機嫌なプレイに耳を傾けた方がよさそうだ。ムッスリ作の‘Kip’はオリエンタル調のテーマから、一転、気持ちよくスィンギーに歌う各人のソロなど、なかなか愛すべく小品に仕上がっている。
それに、全編、tp、as、bsの高、中、低音のバランスも良く、適度に色彩感もあり、いい味が出ています。

57年、癌により、その才能を惜しまれながら、この世を去った。享年33才。早死にである。

チャロフは56年、同じキャピトルに“BLUE SERGE”を吹き込む。こちらは、クラーク、ヴィネガー、フィリーを従えたワンホーンものとして人気が高い。
但し、「幻の名盤読本」には、本作“BOSTON BLOW-UP!”の方が選ばれている。メンツの妙味は“BLUE SERGE”の方が上だが、中身は、好みのレベルだが、僕も“BOSTON BLOW-UP!”を押したい。

なお、同本には、他に“SERGE AND BOOTS”(Storyville 310)と“THE FABLE OF MARBLE”(Storyville 317)がリスト・アップされ、共にコレクターズ・アイテムである。

また、随分前(70年代前半?)に、当時、SJ誌編集長の児山氏が“BLUE SERGE”と“BOSTON BLOW-UP!”の2枚から曲を選出しA、B面にカップリングした“4&6”(左)もリリースされている。
「一粒で二度、美味しい」が、“BOSTON BLOW-UP!”から‘Kip’が抜けているのが、個人的には、残念である。


(2004/12/13)

BOSTON BLOW UP!/ SERGE CHALOFF

CAPITOL  T 6510

HERP POMEROY (tp)  BOOTS MUSSULI (as)  SERGE CHALOFF (bs)
RAY SANTISI (p)  EVERETT EVANS (b)  JIMMY ZITANO (ds)

1955

JAZZ OF TWO CITIES / WARNE MARSH

IMPERIAL  LP 9027

WARNE MARSH (ts)  TED BROWN (ts)  RONNIE BALL (p)
BEN TUCKER (b)  JEFF MORTPN (ds)

1956

上がオリジナル・ジャケットで、下が国内・初版盤?のジャケット。マーシュの初リーダー作である。録音当時、ウエスト・コーストで活躍していたマーシュがトリスターノ同派のts奏者、T・ブラウンと2テナーのレギュラー・コンボで吹き込んだ名作。否、傑作である。

ウエスト・コーストというと、どうしてもアレンジ中心を想像してしまうが、それに反し、本作は実にスリリングに仕上がっている。つまり、マーシュとブラウンの「鍔迫り合い」、そしてボールのメリハリのあるPが有機的に絡み合うのだ。このあたり、同じ2テナーの「A&Z」とは、やや様相を異にする。一般的なポピュラリティは「A&Z」の方が遥かに上だが、本作の2人の間に流れる「火花」、ここが聴き所である。バラード、スロー、2曲でも然りである。

「トリスターノ一派」というと、チョット、敬遠しがちだが、閉鎖的イメージを払拭するには、最適な一枚かもしれない。 それに今となっては、マーシュもブラウンも「幻のテナー」といわれ、特に、ブラウンは録音に恵まれず、その存在すら忘れられているかもしれない。そうした意味でも本作は非常に価値のある一作である。

本作での2人のテナーは、なかなか判り辛いが、ザックり言って、やや掠れ気味のトーンで、一音一音の間に変化を付けながら悠然と吹くのが、ブラウン、それに対し、一音一音の間が短く、フレージングが割りとフラットでアタックが鋭いのが、マーシュと思えば、そう間違いはないはずである。

全8曲、それぞれ完成度が高く、バラードのパーカーの得意曲‘Lover Man’、チャイコフスキー作品42の3「メロディ」の選曲も興味深い。

タイトル曲での真剣勝負さながらの緊張感もすばらしいが、
聴きものはなんといっても、ラスト曲‘T Never Knew’。 この古いスタンダード・ナンバーを高速で飛ばし、ほんと、エキサイティングで、スリル満点。これぞ、「ジャズの真骨頂」と言わずして、何と言う!
同曲はL・ヤングの名演もあるが、本盤も疑いもなくベスト・ヴァージョンの一つである。

それと、見落としがちですが、ベン・タッカーの地を這うような弾力のあるベースがはらわたにズンズンと響く。好きだなぁ〜、この人のb.。

なお、本作の二ヶ月後、同じメンバーにA・ペッパーを加え、ブラウンをリーダーにして録音した“FREE WHEELING”があり、こちらも「幻の名盤読本」に掲載されている。


(2004/12/27)

MAL‐1 / MAL WALDRON

PRESTIGE LP 7090

IDREES SULIEMAN (tp) GIGI GRYCE (as) MAL WALDRON (p)
JULIAN EUELL (b) ARTHUR EDGEHILL (ds)

1956

70年代初頭、俄かにわきおこった「幻の名盤」発掘ブームのきっかけになったのが、“OVERSEAS”とこの“MAL-1”である。その火付け役的存在の児山紀芳氏(当時、
SJ誌編集長)に言わせると、「‘幻の名盤’の真打ち、遂に登場!」であった。その頃、僕はこうした動きに何故か冷ややかであった、と記憶している。多分、ただの懐古趣味とでも勘違いしたのであろう。若気の至りである。否、ジャズ史に無知であったのだ。

さて、本作の目玉はなんと言っても‘Yesterdays’の名演である事は衆目の一致する所。ユーエルの思索的なbを基軸にシュリーマンのtp、グライスのasがユニゾンで絡んでいく辺り、ゾクゾクとし、一曲を通して哀感に満ちたアレンジが見事である。ただ、マルのモールス信号もどきのフレーズについて賛否両論があるが、ここはマルの持つ実験的精神と捉えたい。また、シュリーマンのペットに引っかかる部分も無きにしも非ずだが、あまりにも完成度を求め過ぎると、反対に失うものも少なくないであろう。

‘Yesterdays’の名演に耳を奪われ勝ちだが、注意深く聴き直してみると、他にもなかなか高水準の演奏がずらりと並んでいる。中でもマル作の‘Dee’s Dilemma’のブルージーな世界はウォルドロンの持つ独特な音楽性を垣間見せるのに充分な出色の出来です。
また、ゴルソンの名曲‘Stablemates’をはじめ‘Transfigurtion’等、若々しいハード・バップ演奏が聴かれ、聴き終えた後、「なるほど」と素直に頷ける名演盤である。

それにしても、56年と言えば数多くの「名盤」を産出した年である。時代の空気とは恐ろしいほどのエネルギーを生み出すものと、改めて思い知らされました。地味だが懐古趣味とは次元を異にする創造的な一作です。

なお、、本作はマルの初リーダー作でもある。このシリーズはMAL-4まで続き、良い仕事を残している。


(2005/1/6)

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