THE ARTISTRY OF FREDDIE HUBBARD
(W)

‘READY FOR FREDDIE’(BN)のアップ後、中抜きしてアトランティク時代に一飛びしましたので、時計の針をもう一度、戻してみる。

THE ARTISTRY OF FREDDIE HUBBARD

IMPULSE A 27

FREDDIE HUBBARD (tp) CURTIS FULLER (tb) JONE GILMORE (ts)
TOMMY FLANAGAN (p) ART DAVIS (b) LOUIS HAYES (ds)

1962. 7. 2

前年(61年)の夏、ジャズ・メッセンジャーズ(J・M)の花形トランペッターの座を射止めたハバードがJ・M在団中にインパルスに吹き込んだ二枚の内の一作目。

メンバーは実に多彩な陣容である。フラーは兎も角(同じJ ・M仲間)、数多くの名盤の名アシスト役、フラナガンにコルトレーン・グループでの活躍により62年、D・B誌国際批評家投票No.1に輝くディビス(READY FOR FREDDIE’で共演済)、キャノンボール・コンボからヘイズ、そしてサン・ラ グループからシカゴ育ちのテナー・テロリスト、ギルモアといった面々。そのせいか、BNでは陽気な表情のジャケットだったのに、本作では新婚まもない(左手の薬指にリングが見える)?にもかかわらず「考える人」になっている。でもなかなか渋い構図です。

また、しっかりとコーティングされたWジャケットが「モダン・ジャズの黄金時代」を象徴している。

この年(62年)も前年同様、ハバードの活躍は目覚しく、本作の後、BNにリーダー作‘HUB TONES’と‘HERE TO STAY’(後年、リリースされた未発表作)を吹き込む傍ら、ハンコックの初リーダーにしてヒット作‘TAKIN’ OFF’、エヴァンスの名作‘INTERPLAY’に参加、好演を残している。しかも‘INTERPLAY’の直前の録音という所が大いに興味深い。

当時、ハバードはBNと契約中だったのに何故、インパルスにリーダー作を録音できたのか、そのあたりの事情を定かには知らないが、それだけ魅力的な存在だったと言えるのではないでしょうか。

全五曲中、エキゾチックな‘Caravan’(J・Mのレパートリーの一つ)と‘Summertime’をA、B面とトップに据え、他の三曲はハバードのオリジナルで構成している。J・Mと同じ編成ながら出てくるサウンドはかなり異なっていて、「ビッグ・サウンド、モア・ファイアー」を標榜するJ・Mに対し本作はやや控えめに映る。一口で言って前作‘READY FOR FREDDIE’の颯爽とした若武者風情をより大人っぽく仕上げている。

どちらもゲルダーの手による録音ですが、レーベルのサウンド・ポリシーの違いから、BNと比べ厚みと艶の有る音質になっているのも受ける印象を異にしてる大きな要因だろう。ヘイズのdsとのフォーバースでtpを強かに思う存分鳴らす‘Bob’s Place’でのハバードに、まだ24歳とは思えぬ貫禄すら感じていまう。これが、B・シールの狙いだったのだろう。


そんな中、
最大の聴きものは、コルトレーンの‘OLE’を意識したと思われるスパニッシュ・モードによるラスト・ナンバー‘THE 7TH DAY’
ファンファーレ風アンサンブルから徐々に緊張感を盛り上げていく様は、これからまるで「闘牛」が始まるような錯覚を生み出す。勿論、闘牛士はハバード。高まる感情を抑えつつ、冷静、かつコントロールの利いたプレイは、本格的にデビューして僅か2年余りで早くもマイルスの領域に足を踏み入れた、と言っていいだろう。

ただ、全曲を通じ、ギルモアのニヒルなtsがクール・ダウンの方向に働いている所が評価の分岐点かもしれませんが、ギルモアのプレイは一般的に耳にする機会が少ないだけに視点を変えると本作の価値を高めているとも言えましょう。。


(2006.9.24)

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THE BODY & THE SOUL

IMPULSE AS 38

(A)  FREDDIE HUBBARD (tp) WAYNE SHORTER (ts) ERIC DOLPHY (as & fl)
    CURTIS FULLER (tb) CEDER WALTON (p) REGGIE WORKMAN (b) 
    LOUIS HAYES (ds)

                           
1963.5.2

(
B) 上記のメンバーにプラス、*変更
   tp : CLARK TERRY, ERNIE ROYAL, AL DERISI
   frh : BOB NORHERN
   ts : SELDON POWELL
   bs :JEROME RICHARDSON, CHARLES DAVIS
   tb : MELBA LISTON
   tu : ROBERT POWELL
   * ds PHILLY JOE JONES
                                 1963.3.11


(C) 上記メンバーからSELDON POWELL(ts)、CHARLES DAVIS(bs)、
   ROBERT POWELL(tu)が抜け、tpはED ARMOUR ,RICHARD WILLIAMSに代わる。
   また、frhにJULIUS WATKINSが、そして10人のヴァイオリンが加わる。

   

                           1963.3.8

かってジョン・ヘンドリックスはハバードについて「アームストロングは第一次世界戦争後の‘Gabriel’、ガレスピーは第二次大戦後の‘Gabriel’、マイルスは朝鮮戦争後の‘Gabriel’、そして、ハバードはベトナム戦争後の世代において、優れた芸術性、創造性、また、叙情美と愛を持って演奏活動を続けている」と語っている。「四人目のGabriel」と明言していないところがミソだが、ある観点から考察するとジャズ・トランペッター史上、四人目に重要な存在との見識と受け取っていいだろう。

60年、BNから初リーダー作を吹き込んで以来、BNの諸作はもとより、インパルス、アトランティツク、そして70年代、CTI〜の数々のアルバムをその時代背景、ジャズの動向(モダン・ジャズ灼熱時代、終焉、混乱、分散)と合わせ、時系列に聴き込んでいくと、ヘンドリックスの見識は至極、真っ当であることが判る。
もし、些かの疑問を覚えるならば、一度、ハバードの全アルバムを録音順に並べてもう一度聴いてみるといい。同時に他のトランペッターと比較しながら聴いてみるのもより判り易い一つの方法と思う。


先日、古いSJ誌を読んでいたらこんな記事があった。「海外ジャズメン批評家投票」の’67と’68である(16人の投票得点数)。

’67のtp部門
                            ’68のtp部門
 1.マイルス・デヴィス(38)                      1.マイルス・デヴィス(36)
 2.ディジー・ガレスピー(19)                      2.ディジー・ガレスピー(20) 
 3.アート・ファーマー(11)                       3.フレディ・ハバード(11)    
 4.ドン・チェリー(9)                          4.ドン・チェリー(9)
 5.フレディ・ハバード(7)                       5.アート・ファーマー(5)
 6.クラーク・テリー(3)                         6.クラーク・テリー((3)
 7.ルイ・アームストロング(3)                     ハリー・エディソン(3)
 8.リーモーガン(2)                          8.テッド・カーソン(2)
 9.ケニー・ドーハム(1)                         ルイ・アームストロング(2)
  ジョニー・コールズ(1)                       9.ケニー・ドーハム(1)
  カーメル・ジョーンズ(1)
  ハリー・エディソン(1)

’68年、ハバードは既に3番手の好位置に着けており、上り坂の一方、かってのライバル、モーガンの名は消えている。

ハバードはチンピラで所謂「成上り者」である。そのチンピラぶりはコールマン、ドルフィー、コルトレーンの「火事場」に馳せ参じる一方、クインシー・ジョーンズ、オリバー・ネルソン、ビル・エヴァンス等の作品にも参加し、立派に役割を果たしている点で顕著である。そうした勉強、努力、研鑽、柔軟性が単なる「チンピラ」から脱皮し、ついに74年、DB誌の人気投票であの常勝、マイルスを抜きトップの座に輝いたのだ。まさにサクセス・ストーリーと言っていいだろう。

同じ’38年生まれの神童と言われたモーガンのような天才肌でなければ、リトルのような苦学生タイプとは全く異なるキャラクターで浮き沈みの多いこのジャズ・シーンにおいて、90年台の初め、唇のダメージで演奏活動の中断を余儀なくされるまで長きに亘って第一人者として君臨した事実は紛れも無い事実で、彼の偉大なキャリアを否定する言葉を捜すことは容易ではない。ハバードの事を兎角言う人達がいるけど、どこかでボタンを掛け違えているのだろう。

このアルバムはハバードが25歳になる直前と直後の3回のセッションで録音されている。メンバーは当時のジャズ・メッッセンジャーの仲間を中心にスモールとビッグ・コンボ、そしてストリングスを加えた三つの編成で録音されている。ビッグ・コンボとストリング入りのアレンジはW・ショーターが務め、その陣容の豪華さもさることながら、素晴らしい出来栄えでハバードの作品中、異色作にして、「知られざる傑作」となっている。

ここで、収録曲を挙げてみよう。

A面  BODY AND SOUL (A)
     CARNIVAL(MANHA DE CARNIVAL) (B)
     CHOKOLATE SHAKE (C)
     DEDICATED TO YOU (A)

B面  CLARENCE’S PLACE (A)
     ARIES (B)
     SKYLARK (C)
     I GOT IT BAD AND THAT AIN’T GOOD (C)
     THERMO (B)


スタンダード(3曲)、エリントン・ナンバー(2曲)、ボサノヴァ・ナンバー(1曲)、そしてハバードのオリジナル(3曲)と選曲のバランスもイイ。
とりわけ、スタンダードとエリントン・ナンバーで聴かせるバラード・プレイが絶品。僅か25歳とは思えぬ落ち着いて堂々としかも繊細なソロ・ワークには痺れまくる。また、オリジナル曲では、覇気に満ちたスリリングなプレイを展開し、特にラストの‘THERMO’でのブリリアントなソロには身震いするほど。

そんな中、僕が一番気に入っている曲が「黒いオルフェ」で知られる‘CARNIVAL’。ここではボサノヴァ・リズムではなく、4ビートで演奏され、小気味の良いフィーリーのシンバル・ワークに乗って、正攻法でビシッと決めるハバードのtpが圧巻。前年、ハバードとショーターは‘WAYNING MOMENTS / WAYNE SHORTER’(VEE‐JAY)で同じように4ビートで演奏しているが、出来は本作の方が遥かに上である。

本作は、一曲一曲の収録時間がやや短めのせいか、何故かあまり陽の当たらない作品であるけれど、ジャズのエッセンスが横溢した「知られざる傑作」であり、正当評価を強く望むアルバムである。

最後に付け加えるならば、本作のタイトルが‘BODY & SOUL’ではなく、‘THE BODY & THE SOUL’と定冠詞‘THE’が付いている所が肝であり、ハバードがただのチンピラではない事を証明した決定的作品である。


(2007.6.23)

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