呟 き

(3)

JAROの超「幻の名盤」二題 

JARO(ジャロ)と聞くだけで背筋がゾクとするジャズ・ファンは、少なくないと思います。僕もその中の一人なんですが、それには、それなりの理由がある訳です。1つには、レーベルそのものの稀少性、つまり、2年間の活動の間に、僅か5タイトルのレコードしか、リリースしていない点。
そして、もう1つの理由として、その内、
2枚に、J.R.モンテローズとK・ドーハムの代表作が録音されているとなれば、頷けるわけです。因みに、5000番から始まるカタログは、「テイルズ・オブ・マンハッタン/バブス・ゴンザレス」(5000)、アラウンド・ミッドナイト/C・ウイリアムス〜W・ブラウン」(5001)、「G・オールド」(5003)、そして、この「ザ・メッセージ」(5004)と「ジ・アライバル」(5007)の5枚です。
高嶺の花」であったこの2枚が、ついに1978年頃「ザナドゥ」レーベルから、復刻、88年には、「FSR」から、98年には、「ヴィーナス」からもリ・イシュされ入手が容易になりました。
しかし、「サナドゥ」は、残念な事にジャケットもタイトルもオリジナルから、変更されており、憧れのあの「JARO」は、88年の「FSR」盤を待たねばならなかったのです。

JAM(#5000・モノ) ・ JAS(#8000・ステレオ)

THE MESSAGE / J.R.MONTEROSE

1959

このレコードを聴くと、僕は何時も、ハード・ボイルドの名探偵、フィリップ・マロウの名セリフ‘男は、強くなければ生きていけない、けれど、優しくなければ、生きていく資格がない’を思い出す。モンテローズのtsは、ただ単に強く、逞しいだけでなく、例えば、‘コートにすみれを’や‘クリフォードの思い出’に聴かれるサラットとしていながら、どこか哀愁に満ちた、「粋」な優しさが感じ取れ、なにか、「男」の本質めいたものをtsを通して歌っているのです。だから、タイトルに「THE MESSAGE」が付いたのだろう。いいタイトルです。

全7曲、アップ〜ミドルテンポ、パラードと構成も富んでおり、彼の個性とも言える独特のタンギングは、立て振りのグルーヴィ感となってアドリブにメリハリを付けると同時に聴き手の予測を超える展開という、意外な効果をも持っていて飽きさせない。
それに、
‘コートにすみれを’なんか、ちょっと鼻歌調子?みたいに入って、それでいて情感を込めて仕上げていく余裕タップリのモンテローズのts、たいしたものです。‘クリフォードの思い出’もそんな感じです。リーダー作は少ないけど、同時代のハード・バップ・テナーのなかでも実力は、トップクラスと思います。こんな快作が、「幻の名盤」になるとは、あまりにも「運」がなさ過ぎる。

オリジナル・ジャケット(FSR盤)

サナドゥ(国内盤)

Straight Ahead

THE ARRIVAL / KENNY DORHAM

サナドゥ(国内盤)

Memorial Album

オリジナル・ジャケット(FSR盤)

JARO  JAS 8004

JARO  JAM 5007

KENNY DORHAM (tp)  CHARES DAVIS (bs)  TOMMY FLANAGAN (p)
BUTCH WARREN (b)  BUDDY ENROW (ds)

1960

モンテローズと同様に過小評価された上に‘長持ちドーハム’とまで揶揄されてしまったドーハムが、自己のグループを率いて好調時に吹き込んだ作品。数多い彼の作品で中でも屈指の名盤であります。‘クワイエット・ケニー’のほうが、レーベルの関係でよく紹介され、人気がありますが、内容では、互角以上と思います
よく、リーダーとしての資質について、あれこれと書いてある評をみかけるが、批評家のマス増やしと流せば良い。彼のジャズ・スピリットと何の関係もない。とは、言うももの、ビギナーとっては気になるところ。そんな場合に、このレコードを聴けば、馬鹿げた話だと、解るのではないか。

芯のあるサウンドで、じっくりと、時には、激しく迫るドーハムのプレイには、ビバップ〜ハードバップにかけて活躍した名トランペッターとしての心意気が充分に伝わってきます。でも、JAROがイギリス系のレーベルということもあって、当時のイースト・コーストのもりもりハード・バップを期待しては、いけない。このジャケットとタイトルが演奏内容を如実に物語っています。
フラナガンを中心としたリズム・セクションも秀逸。なかでもウォーレンの弾力のあるベースはなかなかの聴きもので、グループ全体をを引き立てている。
72年、48才と意外に若くしてこの世を去った事さえ、忘れ去られそうな今、もう一度、ドーハムの足跡を辿るのも価値のある事ではないでしょうか。バーボンの名品「ブラントン」のように芳醇で味わい深い一作となっています。

* 1.サナドゥ(国内盤・モノラル・78年)、2.FSR(ステレオ・88年)、3.ヴィーナス(・ステレオ・98年)と10年ごとにリ・イシュされていますが、「音質」はどうか?
1.は、モノ・カートリッジでチョット、ボリュームを上げると、意外にクリアでガッチリしたサウンド。2.は、ステレオ感がいまいちで音が分散しており、マスター・テープの劣化が気になる箇所が、まま、あります。3.は、ステレオ感は、自然で「ハイパー・マグナム・サウンド」らしく、リッチな音つくりと上手な補正がされていますが、1.と比べると テープの劣化は、やはり否定できません。
総合では、3、1、2の順かな。

* 1.サナドゥ(国内盤・モノラル・78年)、2.FSR(モノラル・88年)、3.ヴィーナス(ステレオ表示だが、モノラル?・98年)の「音質」は?
こちらは、2.のFSR盤の出来がよく、2、3=1の順と思います。。

ps 個人的な感想ですが、この2枚の作品は、「オリジナル」はチョット困難ですが、
やはり、できれば、オリジナル・ジャケットで所有したほうが良いのではないでしょうか。
よき時代
‘あのころのモダン・ジャズ’をヴィジュアルでも感じとれるから。  


(3/10)

J.R.MONTEROSE (ts)  TOMMY FLANAGAN (p) JIMMY GARISON (b)
PETE LA ROCA (ds)

* この二人は、ドーハムが初めて結成した‘THE JAZZ PROPHETS’のメンバーでもあります。

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