この人のこの一枚、この一曲 vol.8

I’LL CATCH THE SUN!/ SONNY CRISS

PRESTIGE PR 7628

SONNY CRISS (as) HAMPTON HAWES (p) MONTY BUDWIG (b)
SHELLY MANNE (ds)

1969

1966年の‘THIS IS CRISS’から始まったプレスティージ7部作のラスト・アルバムが本作。その中で3作目の‘UP UP AND AWAY’と本作がかなり話題になったと記憶している。当時のポップス・ヒット・チューンをそのままタイトルにしたのが要因だが、やはり、「モダン・ジャズ」という枠組みの中でしっかりと表現されているのが第一の理由だろう。
カヴァ・デザインは阿呆らしい(真っ赤に燃ーえた太陽・・・・・・・じゃー、ないだろう)が、名手達が繰り広げるリラックスした演奏はなかなか味わい深いものがある。

まぁ、そんな型に填った前置きはさておき、
本作の「この一曲」は、ズバリ‘Cry Me A River’ジュリー・ロンドンがビッグ・ヒットを飛ばし、一躍有名になったラブ・バラードだ。
ラブ・バラードと言っても、「私を棄てておきながら、今更、ヨリを戻そうなんて、虫が良すぎる。私が泣かされた分、あなたも泣きなさい」と突き放す一種の恨み節(おぉー、こわー、身に覚えは・・・・・・・?)。

ここでのクリスは心の傷が癒えたかの如く「あの頃の私とは、今は違うのヨ」と優しく諭すように歌い上げ、感情過多に陥らない吹き方が聴きもの。そしてクリスの後のホースが今度は一転して、砂糖をぶちまけたような大甘のフレーズをこれでもかと連発して、未練を残す微妙な女心を弾き綴っている。すごくイイ。最後は再び、クリスのasが「もう終ったのよ」とキリッと閉める展開、いゃー、大いなるドラマだね。「過ぎ去りし恋」といったところか。


巷ではゴードンの‘HOT & COOL’での同曲が名演との評判だが、果たしてどうだろう。
雰囲気は悪くないが、ピアノのパーキンスのアシストで持っているようなもので、よくあるジャズ界の「風説の流布」の一例ではではないでしょうか。

そこで、
ロンドン、一世一代のボーカルに対抗できるインストルメントの名演は本作のヴァージョンを以って他になし、との「珍説、奇説」ならぬ「新説、真説」を唱えたい

ご同意いただける方も少なくないのではないか。え? 同情はするが同意はできぬって。 まぁ、いいっか。イャー、大いにウエルカムです。

また、‘I Thought About You’のイノセントなクリスも結構イケル。


(2006.1.28)

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TWO JIMS AND ZOOT / JIMMY RANEY

MAINSTREAM  S 6013

JIMMY RANEY (g) JIM HALL (g) ZOOT SIMS (ts) STEVE SWALLOW (b)
OSIE JOHNSON (ds)

1964. 5

些細な事にもかかわらず、心のどこかにいつも引っ掛かっている出来事が誰しも有ると思う。本作はその一枚。70年前後のその昔、当時、頻繁に通っていたヤマハに本作のオリジナル盤がずっとほぼ定位置にあった。要するに売れ残っていたワケだ。一度はジャケットを手にするものの帰りには違うレコードにすりかわるというケースが長い間続いていたが、ある時から、その姿を消した。
そうなると不思議なもので、気になって仕方がなく、手に入れた本作は74、5年に発売された国内盤。つまり、それ以来、オリジナル盤と二度と出遭う事はなかった。

メンバーの顔ぶれ通り地味と言うか、「通好み」の作品。今でこそ、レイニー、ホール、そしてズートといったこの手の名手達にデープなファンが増えているが、当時は乱暴な言い方かもしれないけれど、一部のファン以外、蚊帳の外といった状況が続いていたと思う。

さて、本作は録音当時の時代を反映してか、ボッサ・リズムに乗った陽気な演奏が大半を占めているが、曲によってはソロ・パートは4ビートと趣向を凝らし、三人のソロイストを生かしている所が見逃せない。
そんな中、
本作の「この一曲」はホールのオリジナル、‘All Across The City’。爽やかさにちょっと憂いを含んだ音色で淡々と弦をつま弾くレイニーのプレイにまるで心の底まで洗われるようだ。ズートの啜るようなtsも曲想に実にマッチしている。意外なのは作曲したホール自身のソロが無い事。予めの設定なのか、或いは途中変更なのかどちらなんでしょうか? 
いずれにしても、ホールの描いたイメージに満点の出来栄えだったには違いない。
兎に角、レイニーの世俗を洗い流すようなプレイに尽きる
笑われるかもしれないが、この演奏を聴くと、僕はいつもコルトレーンの‘Dear Lord’(TARANSITION)を想い出す。

また、もう一つ、ホールのオリジナルの‘Move It’は、ロリンズの‘Bridge’に入っている‘John S’によく似たモダンな曲調で本作中、異色の存在。各人のソロもイイ。
なお、L・ボンファの名曲「黒いオルフェ」がなぜか、G・マリガン作とクレジットされている。

INTERMODULATION / BILL EVANS & JIM HALL

VERVE  V-8655

‘UNDERCURRENT’の四年後(1966年)、再び二人はデュオ・アルバムを発表。前作の名声の陰に隠れてあまり話題に登る事は少ないけれど、内容は極上。
本作の方が好き、と言うファンも少なくない。タイトル通り、前作の緊張感に満ちた内容と打って変わってデリケートに親密化した世界を創出している。

まず、アルバム・カヴァのドローイングに注目してください。作者は誰かご存知でしょうか。
そう、先回、アップしたシルバーの‘BLOWIN' THE BLUES AWAY’と同じ
PAULA DONAHUEです。ちょっと驚きですよね。まるで正反対のようなアルバムなのに、ビシッと決めている。

また、本レコードはステレオ盤ではなくモノラル盤。しかし、これが良いんです。二人が寄り添うようなステレオと異なり、エヴァンスとホールが主体と影に入れ替わりながら真正面から湧き上がってくるような音場が気に入っている。だから、穴あき盤だが手放せない。

そして、
アルバムの最後を飾る曲が、この‘All Across The City’。エヴァンスの瞑想的なピアノと寂寥感湛えるホールのギターが聴きもの。


(2006.10.18)

1ST BASSMAN / PAUL CHAMBERS

VEE JAY LP 3012

TOMMY TURRENTINE (tp) YUSEF LATEEF (ts、fl) CURTIS FULLER (tb)
WYNTON KELLY (p) PAUL CHAMBERS (b) LEX HUMPHRIS (ds)

1960

1969年1月4日、チェンバースは僅か33歳の若さでひっそりとこの世を去った
死因は肺結核という。治療をきちんと受けていたならば恐らく治ったはずだが、彼はそうしなかったのだろう。憶測でものを言ってはいけないが、最早、自分の生きる場所を見い出せなかったのではないか。それほど、ジャズを取り巻く環境は大きく変わっていたのだ。つまり、彼は「ハードパップ」のためだけにこの世に生まれてきたと言ってもいいのではないでしょうか。
タイトルが示すように録音当時、人気、実力共にNo.1のベーシストで、無数のセッションに顔を出している。


本作は、彼の絶頂期に吹き込まれたVEE JAY、第二作目でリーダー作としては最後となる。第一作目の‘GO’はメンバーの知名度もあり、人気を博しているが、本作はやや渋めの陣容のせいか、あまり話題に登ることはない。しかし、チェンバースのbの魅力を直に触れるにはひょっとしたら‘GO’やあの有名盤‘BASS ON TOP’より本作の方が適してるかもしれません。

で、チェンバースの魅力ってなんなんだろう? その秘密を解く鍵が本作。演奏内容は平均的なハード・バップ作品で、全曲、ラテーフが提供している。これといったキャッチーな曲もない代わり、個性的な「音」造りが聴き所である。本レコードは70年台初めに再発された黒ラベル輸入盤なので、録音というよりカッティングの際にややハイ上がり気味の音質になったものと考えられますが、思わぬ副産物を生み出している。チェンバースのベース・ワークをより鮮明に浮き出し、ピーンと張った弦から弾き出される天才的な「ハード・バップ」的ノリを肌で感じ取れるんです。
これが本作最大にして唯一?の聴きもの。「音」の良さや大きさ、或いは革新性は他のベーシストに譲るとしてもこのノリだけは誰も真似の出来ぬ天性のもの。其れが故に60年代後半になるとめっきり出番が少なくなり、‘PORTRAIT OF SONNY CRISS’(1967年)あたりが晩年の作品として思い出される位です。


(2006.11.19)

この作品は、荒っぽく言えば「路傍の石」みたいな存在で、今となっては誰も振り向こうとはしないだろう。けれど、ふと拾い上げ、そっと埃を取ってやればハード・バップの確かな鼓動が今でも聴こえ、稀代の名ベーシストの在りし日を偲ぶのもまんざら無意味ではない、と思う。

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