この人のこの一枚、この一曲 VOL.10






MARION BROWN QUARTET



ESP 1022

MARION BROWN (as) ALAN SHORTER (tp) BENNY MAUPIN (ts) RONNIE BOYKINS (b) REGGIE JOHNSON (b) RASHIED ALI (ds)

NYC NOVEMBER 1965


このマリオンの初リーダー作は、60年代後半、我が国で紹介された時、A面全体に収録された‘Capricorn Moon’がえらく評判良く、それ以来、「カプリコーン ムーン」で通っている。ESP=FREE JAZZが一般認識ですが、そうした固定観念を解き放すマリオンのナチュラルなプレイが聴きものでした。

まずは、ベースとドラムスのミステリアスなイントロに導かれた後の牧歌的なテーマが始まると、リア・カヴァに記載されている‘YOU NEVER HEARD SUCH SOUNDS IN YOUR LIFE’って、何ぞや?と、ESPレーベルに対するイメージとのギャップが殊の外、聴き手を踊らす。多くの方が「これが、フリー・ジャズ?」と訝っても不思議ではない。



マリオンについて「アルト・サックスの詩人」とか「リリシズム」と言うフレーズがよく使われ、フリー派の中でも特異な存在ですが、64年のジャズ10月革命に参加、レコード・デビューは65年のファイヤー・ミュージック/A・シェップ、またアセンション/コルトレーンにも参加した筋金入りですよね。

で、この初リーダー作はどうか?と言えば、マリオンのまだテクニックに未熟な点やレコードという商品媒体として、果たしてどうか?と思える曲の演奏時間の長短、そして、単純な演奏表現等の難があるものの、妙にねちっこい?マリオンのasに耳が奪われる。

それも、このザックリとした「音」と無関係ではなさそうです。このESPをはじめ、インディペンデント・レーベルは録音にコストをあまり掛けられない宿命から満足な録音ができないケースが多いようですが、本作は飾りっ気のない素朴な「音録り」が逆に魅力的ですね。
 
出来自体はESP第2作目の‘WHY NOT’、そして最高作と言われる‘PORTO NOVO’と比べるとかなり劣るけれど、もし、レコード数を最小限に整理し、マリオンを2枚に絞るとしたならば、ESPの2枚を残すだろう。

本作にはマリオンの原点と60年代半ばのジャズ・シーンの原風景の残像が宿っているからでしょう。



(2009.8.12)



THINGS ARE GETTING BETTER / CANNONBALL ADDERLEY



    



RIVERSIDE RLP 12-286

JULIAN ‘CANNONBALL’ ADDERLEY (as) MILT JACKSON (vib) WYTNTON KELLY (p)  PERCY HEATH (b) ART BLAKEY (ds)

1958.1128

ちょうどお盆の時期なので、今回は2枚をupします(まったく無関係ですが、笑)。と、いうより、実はbassclefさんのブログで、本作が話題の中心になっていて、僕もコメントを入れているので、補足を兼ねて取り上げてみました。もともと、bassclefさんのオリジナル・テーマはRIVERSIDEの二人のレコーディング・エンジニア、JACK HIGGINSとRAY FOWLERの「音の違い」(のはず?)でしたが、HIGGINSが録音したこのアダレイの作品の「音」が一つの焦点になっている。どうやら、STEREO盤とMONO盤では「音の差」が大きいようですが、両方をお持ちの方が居ないのが幸いしてか、いろいろな情報が提供され、大変、参考になります。
よほど気に入ったレコードでなければ、両方を持つことはなかなか現実的ではありませんからね。因みに、所有する盤は、MONO・青大ラベルで溝なし(3rd?)です。


本盤の「音」について、「○、それも◎に近く、個性張出」とコメント入れしていますが、この個性張出について、もう少し説明すると、僕は初めてレコードに針を落とす時、オーディオ的にはどうかと思いますが、STEREO盤もMONO盤もSTEREO針で聴くのが常なんです。2台ある内、手元に近いターンテーブルにSTEREO針が装着されている、といういい加減さも有りますが、まずSTEREO針でOKならば、MONO盤も○といった経験則がありました。
で、STEREO針で聴いた本盤の「音」はヤケに自己主張が強く、asとvibがややヒステリック気味に前面へ出て、リズム・セクションなんか、どうでもイイや、てな感じで、実は△でしたね。乱暴な言い方をすれば、「うるさい音」とでもいいましょうか。
 
 
ところが、後日、MONO針で聴き直してみると、これが不思議、メタリックでハイ上がりながら、エネルギー感十分で、しかもas、vibの独特の「響き」がポジテイヴな方向へ増しているではありませんか!。ヤッパー、反則行為(笑)は、アカンと思いました。


たまたま、僕の場合、評価が好転した事例ですが、この録音(MONO)は確かに際どいです。言ってみれば、「分水嶺」のようなもので、再生装置のキャラクターによってどちらに転んでもおかしくない可能性を秘めています。ここが個性張出と感じたワケですね。なお、STEREO録音は未聴ですが、大変、Gooのようです。



ところで、RIVERSIDEと言えば、ブルーノート、プレステージと共にジャズ3大レーベルの一つとして人気がありますよね。その人気の一つが、実はHIGGINSとFOWLERによるな音なんです。つまり、他の二つと違って、ゲルダーの手に染まっていない、ここがいいんだなぁ。厄介ですけれども(笑)

そして、その「音」を追及していくと、やがてHIGGINSとFOWLERの「違い」に耳を向けるのも必定かな。そして楽しい泥沼?に嵌るのです(笑)。その泥沼に挑戦し、問題提起されたbassclefさんは勇気ありますよね。でも、本当の狙い、目的は隠れた情報の掘り起しと共有でしょう。×とした2枚を明記したことが能弁に語っています。だから、皆、真剣にコメントを入れるワケですよ。ご同慶の至り論ではまず出てきませんからね。僕も、情報提供されたある一枚の「音」に愕然としました。それはいずれ取り上げたいと思います。


そこで、僕はHIGGINSとFOWLERをどう思っているか、言うと、ザックリと大まかに言えば、HIGGINSはフロントのソロイストにエネルギーを集中させ浮き出させる手法、それに対し、FOWLERは全体のバランスを考えながら、贅肉を落としてタイトでありながら、ソロイストに輝き、華やぎを加味させる手法と感じ、最大公約数的にHIGGINS=MONO、FOWLER=STEREOといった僕なりの独断めいたイメージを持っています。この点、bassclefさんとかなり似ていますかね?


 

では、HIGGINSとFOWLERとどちらが上かって?真実はあるかもしれないけれど、聴いた人が感じた個々の事実は、人の数だけあり、それでいいんじゃないかな。真実が分かった(分からないと思いますが)ところで、どうなるものでもないし、その必要もないと思います。真実と事実とは必ずしも一致しませんから。



ここに一枚のレコードがあります。BILLEVANSの代表作‘PORTRAIT IN JAZZ’、HIGGINSがMONO、FOWLERがSTEREO ? を担当している。ここにふたりの「音」の違いを解くカギが隠されているやもしれませんが、・・・・・・・・・・・・・・・・・。 続きはこちらで

おっと、中身について忘れていました。A-3、B・ションソン作のバラード‘Seves Me Right’、何度聴いても、アダレィの啜り上げるようなasにタコ耳まで痺れます。アダレィってバラードの「隠れ名手」ですね。



(2009.8.12)


  

NOW IS THE TIME / IDREES SULIEMAN

  

 

SteepleChase RJ 7130 (SCS 1052)

IDREES SULIEMAN (tp, flh) CEDAR WALTON (p) SAM JONES (b) BILL HIGGINS (ds)

1976. 2. 16 & 17

 
 

1950年代後半、特に57年辺り、本作の主人公、スリーマンは売れっ子であちこちのセッションに引張り凧であった。ブラウニーの急逝といった裏事情があったやもしれませんが、特にPRESTIGEでは常連の一人として良く知られ、名作と言われる作品にも名を列ねている。この点、D・バードと良く似ている。しかしながら、その器用さ?、重宝さ?が災いしたのか、バードと違って積極的にスリーマンを聴きたい、という声は残念ながら上がらず、リーダー作に恵まれなかった。勉強不足で間違っているかもしれないが、60年代以降、その名を見たことも聴いたこともありませんでした。

そのスリーマンが凡そ20年後の1976年に単独リーダーとしてリリースされたのが本作。初リーダー作?と思いきや、どうやら、そうでもなさそうです。英文ライナー・ノーツにも‘at last!’とコメントされたいるだけで、どこにも‘first'’と書いてありません。この国内盤ライナーによると、60年代初期ヨーロッパで一枚リーダー作を吹き込んだ記録があるが、内容不詳と説明されている。まぁ、実質的には遅れ馳せながらの「お初」といってイイでしょう。


ところで、もし本作がエサ箱に置かれていたとしたら、貴方ならどうしますか???

チラっと見ただけで、そのままスルーしますか? 一応、パーソネルを見て「おっ、tpカルテットかぁ」と思いつつ、「ま、スルーマンだからなぁ〜」と元へ戻すか、それとも「当たるも八卦、当たらぬも八卦」とレジへ運ぶか、なんせ、数少ないtpカルテットですからね。うぅ〜ん、興味深いですね〜

さぁ、蛮勇を奮って(スリーマンさん、ゴメン!)レジへ運んだ貴方、大正解!です。恐る恐る(笑)針を下し、一曲目、スリーマンのオリジナル‘Mirror Lake’が流れる。呆気にとられ口をポカーンとしている姿が目に浮かびます。このカヴァから想像するスリーマンのペットとは180度違う明るく、ハツラツと、しかも淀みのないソロに驚きを隠せません。これが、あのスリーマン?と必ずカヴァを見直しますよね。

で、次のD・ジョーダンの‘Misty Thursday’、このバラードがまたイイんだなぁ。G・ショーの「掠れる」ような音出しとH・マギーの「翳」をミックスした感じのプレイに「おい、おい」と、つい膝を乗り出してしまいます。ここまでくると、もう、スリーマンのペースに完全に嵌っていますね。

3曲目の‘Saturday Afternoon At Four’、これもスリーマンのオリジナルですが、シンプルなリフ・ナンバーで軽快な曲調なのに妙に味が有り、スリーマンのソロも弾け、とってもGooです。本作の中で一番好きです。

A面ラストの‘A Theme For Ahmad’、ホレス・パーランの洒落たボサロックも小粋ですね。


B面に移り、タイトル曲のバップ・ナンバー‘Now’s The Time’他、スリーマンのオリジナルが2曲続く。‘The Best I Could Dream’なんかもイイなぁ。



どの曲も懐かしの「どハード・バップ」ではなく、70年代モデルで吹いている所が聴きものです。それにしても、スリーマンってイイ曲を書きますよね。


俗に「tpカルテット」はトランペッターの力量以上にアシストするメンバー、特にpが重要とされ作品数が限られている中、本作が成功した主因はスリーマンはもとより、曲の良さとそのプログラミング以上に、やはりウォルトンのピアノではないでしょうか。イイ仕事してますよ。ウォルトン・ファンにも、聴き逃せない一作ですね。


本作は「名盤」といった類の作品ではありませんが、決してエサ箱に埋もれたままの作品ではありません。名声、人気とは「無縁」のトランペッター、スリーマンの実力を知るには最適な一枚と思いますし、自分にとっても思い込み、決め付けを反省させられた「知られざる好盤」です。



(2010. 11. 1)




ONCE UPON A SUMMERTIME / CHET BAKER

 


ARTISTS HOUSE AH 9411


CHET BAKER (tp) GREGORY HERBERT (ts) HAROLD DANGO (p) RON CARTER (b) MEL LEWIS (ds)

1977. 2. 20 NY



大好きな映画の一つに、もう、かれこれ20数年前に公開された‘ONCE UPON A TIME IN AMERICA’があります。主演はロバート・デ・ニーロ、監督は、あのセルジオ・レオーネ、そして遺作でもある。この作品は、日本では当時、単なるギャング映画として紹介され、しかも、上映時間が短く編集されていたためか、それほど評判にならなかった。確かに、自分も初めて観た時、途中で解らなくなるシーンも少なからず有ったし、やや難解な面も。それでも、本作でレオーネ監督が描こうとした複雑な人間模様を核として壮大にしてノスタジックな世界はミステリー・タッチも手伝い感動的ですらありました。なお、後年、完全版が出され、高い評価が得られるようになった。


このベイカーの作品は、似通ったタイトルのせいだけではなく、「栄光(成功)と挫折」といったベイカー自身の軌跡の一つとして、自分の頭に中では映画と妙に符丁が合う。カヴァの写真も、デ・ニーロがラスト・シーンで見せた意味深な笑顔と何故かダブってくる。




チェット・ベイカー、かって、あのマイルスでさえ足元にも及ばなかった大スターである。因みに、ダウンビート誌の1954年のtp部門・人気投票を見ると、第1位がベイカー(882)、以下、ガレスピー(661)、H・ジェームス(449)と続き、9位にマイルス(126)、11位にブラウン(89)となっている。

ゲートホールドの内カヴァには、ベイカーのヒストリーが貴重な写真と共に掲載されていて、ディスコグラフィーのリーフレットと合わせベイカー・ファンには見逃せないものですね。



さて、本作の最大にして唯一の聴きものは、ラストにセットされたルグランの‘Once Upon A Summertime’と言っても過言ではありません。ダンゴのイントロに続いて、ベイカーのミュートが呟くようにテーマーをなぞる。初めのワンフレーズを聴いただけで、そのハーマンの音色に魅了されるでしょう。マイルスと異なり、響きに俗っぽく言うと、「色気」がある。
このアーティスト・ハウス盤は総じて好録音で、テクニカル・データも詳細にクレジットされていますが、この一曲は抜群に「音」がイイ。

録音から三年経った1980年、ラジオのジャズ番組の新譜紹介?で同曲が流れ、急いでレコード店に走った記憶があります。

この頃、ベイカーは既にビックリするほどシワ顔になっていたが、この‘Once Upon A Summertime’で聴かせるハーマン・ミュートには一筋のシワもない!!! まるで全盛期を彷彿させるようだ。


そして、誰しも心の奥底にそっと仕舞い込んでいる「ある夏の日の想い出」を、ベイカーは鮮やかに蘇らす。
11:20、これはミラクルなのか、それともミステリーなのか?



(2010. 12. 6)


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