この人のこの一枚、この一曲 VOL.10








MOTION / LEE KONITZ








VERVE  V6−8399


LEE KONITZ (as) SONNY DALLAS (b) ELVIN JONES (ds)

1961. 8. 29




コニッツが1995年に録音した「ブラジリアン・ラプソディ」を時々引張り出し、聴いている。当時、コニッツに対するのイメージとボサ・ノバの結びつきに意表を突かれた感じがしないワケではなかったが、「インプロヴィゼーションの鬼」と言われたコニッツのDNAが濃厚とは言わないまでも、しっかりと組み込まれ、「さすが」と言わしめる出来に仕上がっている。


コニッツはこれまでに多くのリーダー作を録音しているももの、乱暴な言い方をすれば、60年代以降の作品について、それほど関心を持たれていない、と言っても差し支えないだろう。


以前、ある円盤屋のマスターから「コニッツは一般ジャズ・ファンには人気がないけれど、ミュージシャン達には随分、人気がある」と聴いた事がある。
もっと正確に言えば「研究対象として評価が高い」であった。

やや閉鎖的なイメージが付き纏う「トリスターノ一派」、そして、「インプロヴィゼーションに対する孤高の探求者」といった褒め言葉の反動?からくるものだろう。

だが、50年代後半のVERVE時代は、その「クール」さとは対極的な今で言うところの「癒し系」とも言える作品を吹き込んでいて、そうした方向転換は必ずしもポジティヴに受け入れられなかったのも事実でした。
 
 
それを察したかのように、60年代に入ってコニッツが放った勝負球が、この‘MOTION’。全編、「インプロヴィゼーション一本槍」だ。しかも、素材はお馴染みのスタンダード・ナンバー、5曲。頬っぺたを一杯に膨らませた赤ら顔のコニッツがこのセッションの全てを物語っている。


で、本作に対する世評はどうか?と言えば、概ね「異色作にして名盤、傑作」として高得点を得ている一方、「単なる練習を録音したものに過ぎない」とネガテイヴに聴いているジャズ・ファンの存在も否定できない。また、態度を決めかねている中間層もかなりいるかもしれない。


ある意味で、この作品は、聴く側のジャズ観に対するリトマス試験紙とも言えのではないでしょうか?


例えば、‘You'd Be So Nice To Come Home To’、ペッパー、メリル/ブラウンの不滅の名演で知られるこの一曲をコニッツはテーマをぶっ飛ばし、いきなりアドリブから入り、テーマらしきメロディはほんのチョット顔を出すぐらいにズタズタに解体している。
だから「入門書、名盤本」漬けになっている人が期待して聴くと「なんだこれは、ふざけるな!カネ返せ!」と罵声を浴びせることは充分に予測される。


しかしながら、数学の公式のように、テーマから入り、途中にアドリブ、そしてテーマで終わるパターンが「ジャズ」の決まり事ではないことからすれば、このスタイルもありの話。



本作のキー・ポイントは定型外のスタイルで敢てスタンダード・ナンバーばかり選んだコニッツの「動機」である。ここを見落とす、見落とさない、では自ずと着地点が異なる。


つまり、ジャズの本質的核心は「誰が何と言おうともインプロビゼーションだ」、というコニッツ流哲学の吐露であり、野心でもある。


初めて聴いた時の違和感がすぐ感動に変わるのは、コニッツのジャズに対する真摯な姿勢と知的に燃え上がる熱意、そして冷静でありながらギラギラした野心。


野心あるジャズほど経年劣化しないものと、つくづく思う。




なお、本作はステレオ盤とモノラル盤では楽器のバランスが異なり、モノラルではジョーンズのdsがかなり全面で出ているようです。そのジョーンズが後年、本作を聴いて「dsは誰?」と問い、別のドラマーの名を挙げたそうです。恐らくステレオ盤を聴いたのでしょう。確かに、一聴しただけでは、エルビンと確信を持てませんね。
でも、そんなことってアリかな〜、まぁ、それだけ尋常ではないセッションだったことなんでしょう。

また、本セッションンの前にN・スタビュラスをdsに起用したセッションが録音されましたが、コニッツの意向でボツになり、M・ローチの名が挙がりましたが、スケジュールが合わず?契約上の問題?で、エルビンに落ち着いたようです。
もし、ローチとのセッションが実現していたならば、堅物と堅物との火花、一体、どんな演奏になったか、興味が湧きますよね。もっとも、この定型外のスタイルに、ローチが気乗りしなかったのが真相かもしれません(笑)。






(2012. 10.1)





SPANISH STEPS / HAMPTON HAWES





 

POLYDOOR 2460 122 (BLACK LION BLP 30111)


HAMPTON HAWES (p) JIMMY WOODE (b) ARTHUR TAYLOR (ds)

1968.3.10



1967年、療養生活から再び復帰したホーズは9月、ロス・アンゼルスから約9ヶ月に亘る世界一周の旅に出た。各地でレコーディングを行い、ヨーロッパ〜中近東〜インド、タイ、香港〜日本〜ハワイの途中、日本でも68年に2枚のアルバムを残している。


その世界周遊の最初の作品は、‘HAMP'S PIANO’(MPS)、そして、ヨーロッパを離れる少し前にレコーディングされた作品がこの‘SPANISH STEPS’。


以前より、‘HAMP'S PIANO’と並んで彼の代表作との呼び声が高い一枚ですが、MPS盤の「枯葉」の決定的名演と「録音の良さ」という二つの「決め球」の影に隠れ、一部のファンを除き、それほど話題に上らなかった。

かく言う自分も、長年、スルーばかりでごく最近、入手した次第です。ま、イージーなこのワン・パターンのカヴァが購買意欲を削ぎ、まずいですね(笑)。



で、やっと聴いた本作、確かにイイです!‘HAMP'S PIANO’と同レベルの好内容ですが、趣が180°まるで違う。

一言でいえば、‘HAMP'S PIANO’が「静・端正」とすれば、本作は「動・エモーショナル」と言えるでしょう。




ホーズのオリジナルとスタンダードを上手く配し、エバンスにも通ずるリリシズムを感じさせる‘HAMP'S PIANO’に対し、この‘SPANISH STEPS’はラストの‘My Romance’を除き、すべてホーズのオリジナルで固め、特長でもある「ブルース魂」を強く押し出している。リズム・セクションの違いからくるものかもしれないし、録音も重心が下がり、エネルギー感に溢れている。


ところで、本作には奇妙な点がある。

まず、両作に収録されている‘Sonora’はまったく異なる曲なんです。
しかも、‘HAMP'S PIANO’ではボサ・ノバに対し、‘SPANISH STEPS’ではワルツです。でも、どちらもいい演奏なんだなぁ、これが。

三曲目の‘Black Forest’は‘HAMP'S PIANO’の‘Hamp's Blues’と同曲、そして、似たようなタイトルの異曲‘Black Frorest Blues’が‘HAMP'S PIANO’に収録されている。
また、TOPの‘Blues Enough’は‘HAMP'S PIANO’の‘‘Rhythm’と酷似している。大変、紛らわしいです。

この辺り、本作が内容の割に、世評受けしない要因かもしれない。


他に、本作が‘HAMP'S PIANO’と甲乙付け難い好内容にもかかわらず、人気、評価の点で大きく水を開けられている理由があるとすれば、ラストの9分弱にも及ぶ‘My Romance’の存在ではないでしょうか?演奏自体に問題があるわけではありませんが、全体の流れからすれば、全てオリjナル曲で構成した方がベターと思います。


果たして適切な表現かどうか分かりませんが、譬えるならば、ゴルフで優勝争いの最終18番ロング・ホール、充分、ツーオン出来る距離なのに、安全策で刻み、結局、優勝を逃してしまうケースにどこか似ている。この日のホーズだったら、間違いなくイーグルを狙えたのに。

とは言え、優れた作品であることには、紛れも有りませんね。


因みに、ホーズ自身、こう語っている。‘This was the best record I made in Europe’


なお、天邪鬼な僕のフェイバリット・チューンは、名曲名演の‘Sonora’ではなく、スリリングなその名も‘Dangerous’。


1977年5月22日、脳出血でこの世を去っている。享年、わずか48歳。若すぎる!惜しい!




(2012. 11. 11)




 

WARNE MARSH QUARTET / WARNE MARSH



 




MODE 125


WARNE MARSH (ts) RONNIE BALL (p) RED MITCHELL (b) STAN LEVEY (ds)


SEPTEMBER 1957 HOLLYWOOD



プライベート・レーベル、及びそれに準ずる形や、後年にレコード(CD)化された作品、新録されたクリスクロス盤等を除き、一般的に知られているマーシュの作品はリーダー作として、インペリアル盤、アトランティック盤、そしてこのモード盤の3枚と、サイドとしてT・ブラウンの‘FREEWHEELIING’(ヴァンガード)、コニッツの‘WITH WARNE MARSH’(アトランティック)、J ・ALBANYの‘RIGHT COMBINATION’(リバーサイド)の3枚、計6枚が挙げられる。

いずれも1950年代に録音され、その内、4枚も「幻の名盤読本」に掲載された。喜んでいいのか、どうかは兎も角、高打率には違いありません。つまり、マーシュがジャズの表舞台で活躍した時期は、残念にも50年代に絞られ、しかも「通好み、隠れ名手」の代表格と言えます。


で、リーダー作、3枚の中で僅かな差かもしれませんが、最も人気があるのは、意外?にも「幻の名盤読本」に載らなかった本作ではないでしょうか。

その理由はtsのワン・ホーン・カルテットとスタンダード・ナンバーを4曲を採り上げている点でしょう。所謂、鉄板スタイルですね。

収録されたスタンダード・ナンバーは‘You Are Too Beautiful’、‘Autumn In New york’、‘Everything Happeans To Me’、‘It's All Right With Me’とお馴染みのナンバーばかりです。


まず、一曲目の‘You Are Too Beautiful’、ちょっぴり塩っぱさを含んだ独特の音色で、ミディアム・テンポに乗り、スィンギーにtsを鳴らすマーシュ、いゃ〜、良いですね。‘Autumn In New york’の抒情性、情緒纏綿に綴る‘Everything Happeans To Me’も負けず劣らず好演を聴かせます。


残りの2曲、マーシュのオリジナル‘Playa Del Ray’ではスタンダードのリラックスしたプレイと異なり、アップテンポで本来のシビアなプレイを披露し、トリスターノ色に溢れたボールの‘Ad Libidoでは、趣味の良いボールのソロの後、寛ぎ中にも、まるで「居合の達人」を連想させるマーシュのプレイに本領が垣間見える。



ただ、個人的に残念に思うのは、このユニークなアルバム・カヴァ。いかにも「緩い」。確かにマーシュにしては「甘い」レベルだが、果たしてその好内容を充分にプレゼンしているか、どうか疑問が残ります。もう少し練られたカヴァならば、マニアの他にもっと聴かれたのではないでしょうか?それと、ラスト・ナンバー、‘It's All Right With Me’はなぜか肩に力が入り過ぎている。
アトランティック盤でも同曲を採り上げており、マーシュのお気に入りの曲かもしれませんが、ポーターの曲ならば、‘Night And Day’とか‘I Concentrate On You’の方が、アルバム全体の流れに合っている気がします。


いずれにしても、ちょっとオーバーな表現かもしれませんが、「孤高の名手」マーシュが当時、世俗に一番近付いた瞬間を捉えた作品として、聴くべき価値は充分あります。



なお、余談ながら、手持ちのレコードはクリスクロスから再発されたもので、bとdsがやや後方に引っ込んでいますが、オーディオ的なシビアさを追いかけなければ、問題ありません。


(2013.10.8)


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