独  り  言






(17)   幻の一枚  BACK TO THE TRACKS / TINA BROOKS






BLUE NOTE  BST 84052

BLUE MITCHELL (tp) JACKIE McLEAN (as) TINA BROOKS (ts) KENNY DREW (p) PAUL CHAMBERS (b) ART TAYLOR (ds)

1960. 9. 1

BLUE MITCHELL (tp) TINA BROOKS (ts) KENNY DREW (p) PAUL CHAMBERS (b) ART TAYLOR (ds)

1960. 10. 20





世間では本作を「幻の名盤」と呼んでいますが、僕はチョット躊躇します。なぜならば、この音源自体は85年にモザイクからBOX仕様で発表されているものの、当初、予定されていたオリジナル・フォーマットで世に出たのは、30年後の90年が最初で、それも特典品(非売品)としてである。その後、暫くしてCD、LPのEMI-CAPITOL盤(輸入盤)として初めて市販されている。だから、「幻の名盤」と言うより「幻の一枚」の方が適切のような気がしますが、如何でしょうか?

本作が リアル・タイムでリリースされなかった辺りのエピソードは耳タコ、目タコで食傷気味ですが、弊サイトの‘STREET SINGER’で既に触れている通り、このオリジナル・カヴァとされるフロントとバックでのパーソネルのクレジットの違いについて、不思議なことに誰も触れられていません。マクリーンの参加(一曲)については*印等での明(別)記があって然るべきではないでしょうか。この点に言及されないのは、業界及び関係者間のタブーなのか、それともファンの無関心さ、からなのでしょうか?
まぁ、そんな重箱の隅を突っつくようなことは・・・・・・・・と、言われれば返す言葉もありませんが(笑)


それはそれとして、では、本作がリリース直前になって突如、中止されたという有名な話はそのエピソード通りに、果たして受け取っていいのだろうか?拡大解釈していると言われればそれまでですが、フロント・カヴァはともかく、僕はバック・カヴァは未完成のままだったと思います。


又も重箱の隅を突っつくやも知れませんが、この所をもう少し検証してみましょう。

まず、一つに上述のようにバック・カヴァのパーソネル・クレジットの瑕疵が校正(修正)されていないままである。

二つ目に、曲の掲載部分で文字の書体というか大きさ(太さ?)が当時の他のアルバムと比較して微妙に細く、また、作曲者のクレジットは未だされていないはずです。もし、するにしても、この表示の仕方ではありません。つまり、特典品として出す際に初めて打ったのか、或いは打ち直したか、どちからである。それと、インスツルメントの表示でalto saxophone、tenor saxophoneと打ち込まれていますが、alto sax、tenor saxの表示がその当時のBNの通例ではないでしょうか。要するに、リアル・タイムものではない?と考えられます。

三つ目、ここが大きなポイント。ライナー・ノーツである。M・カスクーナが書いていますが、リアル・タイムで彼が書くのは限りなく不可能であり、内容を読めば、後年(モザイクBOX時?)、或いはこの特典盤の際に書かれたことは一読瞭然である。
本来は誰が書く予定だったのだろう? うぅん、書いて有ったけれど、ひょっとしてカスクーナに差し替えたのだろうか?とすれば、これぞ「幻のライナー・ノーツ」ですね(汗)。


いずれにしても、バック・カヴァに関しては謎が多く、完成されていなかった可能性が極めて高いと思われます。

なお、特典盤、CD(所有している24bit by RVG)、EMI-CAPITOL盤の三枚、特典盤の‘not for sale’の記載を除き、共にカヴァ・デザインは、フロント・バック、全く同一である。但し、かなり後になって発売されたクラッシック・レコードものについては未確認です。




で、中身と言えば、今までに多くの方々がコメントを書かれていますので、改めてする必要もありませんが、敢えてコメントを入れるとすれば、本作は薄幸のテナー奏者、ブルックスの「哀愁のリリシズム」が全篇に横溢した好作品と言えます。また、共演者の好演も言うまでもありません。


中でも、マクリーンが唯一、参加している‘Street Singer’は白眉の出来と思います。
特に素晴らしいのが、ミッチェルのtpソロ。街角でしか歌えないストリート・シンガーの悲哀を見事に歌い切っています。ソロの途中で、パラパラと流れ落ちるストリート・シンガーの悲涙を、細かな音で綴りながら描写するミッチェルに心が揺さぶられる。正に「悲しき街角」ですね。ミッチェル、屈指の名演と言えるでしょう。




(2008.1.28)


  BACK       TOP      NEXT