(9) 知 ら れ ざ る 名 曲
DESMOND BLUE / PAUL DESMOND
RCA VICTOR LPM 2438
LATE LAMENT (Paul Desmond)
デスモンドのRCA第一作目はカルテットにプラス ストリングスという豪華盤。ジュリアード音楽院出身のB・プリンスによるアレンジはBGM風ストリングスとは違う次元で至って濃い口。デスモンドのasが負けてしまっている、と批判する向きもあったようですが、今日の耳で聴くとこの後のややマンネリ化する諸作と比べ、やはりプリンスの手腕を認めざるを得ないのではないでしょうか。
硬派の方々には、甘口に聴こえるかもしれませんが、DB誌の人気投票でパーカーを破り第一位になったのは、マクリーンでも、ペッパーでもなくこのデスモンド。さすが、ツボを押さえています。‘My Funny
Valentine'、‘I Should Care'、‘Body And Soul’等の名曲揃いの中、デスモンドのオリジナル‘LATE LAMENT’の比類無き美しいメロディには言葉を失う。あまりの美しさ故かどうか解りませんが、僕の知る限り、彼自身、本作の他は録音していないと思います。
PAUL DESMONND (as) JIM HALL (g) GENE CHERICO、MILT HINTON (b)
OCNNIE KAY、ROBERT THOMAS、OSIE JOHNSON (ds)
& BOB PRINCE orchestra
1961、1962
この知られざる名曲を取り上げたのは、キース。さすが目の付け所が違います。
85年2月、トリオ/スタンダーズを率いて来日したキースは東京厚生年金会館のライヴにこの曲を披露した。前曲の‘If I Should Lose You’から続けてインし、美しいメロディを静かに情感を溜めて弾いたキースはアドリブに入るやまるで自己陶酔に陥ったかのように独創的なフレーズを次々に重ねていき、b、dsとのインタープレイの極地を聴かせる。
時々体を震わせ、弾き終えた際、息をふーと吐き出すキースの姿はこの‘Late Lament’の持つ無限の美しさに感極まったかのようで、感動的です。
左のレーザー・ディスクはそんなステージを見事に捉えています。
東京公演から約1年半後の86年7月、キースは再び‘Late Lament’を同じくライヴで取り上げた。しかし、残念ながら今度は凡演に終わっている。ピーコックのbをフーチュアーし、キースはほとんどテーマを美しく弾くだけで東京のような閃きは消えている。
なぜだろう。あまりにも美しいメロディを持つこの曲は、テーマを弾くだけで、何も付け加えない方がいいと考えたのかもしれない。しかし、、この日、キースには‘Late Lament’を弾くに値するインスピレーションが湧かなかったのではないかとも考えられる。
いずれにしても、これ以後、キースもこの曲を録音してはいないと思いますが、どうでしょうか。
作曲者のデスモンド自身、ただの一度しか、そして稀代のメロディスト、キースでさえ、2度とは敵わないほど美しいメロディを持つこの‘Late Lament’に挑戦する次のミュージシャンは一体、誰だろう。
(2003/11/26)