呟 き

(11) 命を懸けたラスト・アルバム ‘TROMPETA TOCCATA’

BLUE NOTE  BLP 4181

TROMPETA TOCCATA / KENNY DORHAM

KENNY DORHAM (tp)  JOEHENDERSON (ts)  TOMMY FLANAGAN (p)
RICHARD DAVIS (b)  AL HEATH (ds)

1964

1972年12月5日、腎臓病を患っていたドーハムは騒がれることなく48才の短い生涯を終えた。口の悪い連中から「長持ちドーハム」と揶揄された割には早死にであった。だが、、本作を録音した64年、40才にしてドーハムは既にジャズ・ミュージシャンとしての生命に終止符を打っていたと言っても過言ではない。ええっ、と思うかもしれないが間違いなく本作がドーハムのリーダー作のラスト・アルバムである。残りの8年間はプレスティージ、ストラタ・イーストへ数本、サイドマンとして参加しているにすぎない。

このマイルスの僅か2才、年上のビ・バップからの名トランペッターが何故、本作以後、突然こうした状況に陥らなければならなかったのか定かではないが、それなりの理由が有ったのだろう。しかし、少なくともジャズシーンの急激な変化に彼が置いてきぼりにされたという憶測は当たっていない。何故ならば、本作のドーハムの演奏からは、時代に乗り遅れ、立ちつくしている様子は微塵も感じられないからです。

ドーハムと言えば‘Quiet Kenny’が定盤であるが、僕はそれほど買っていない。確かにドーハムは曲想を大事に、1曲1曲、そつなく演じている。ドライブ感溢れる「蓮の花」を始め、ある時はブルース・フィーリングに満ち、ある時は切々とバラードを歌い上げ、聴き所は少なくない。しかし、聴き終わった後、心に残るかと聞かれれば、首をタテに振ることはない。
マイルスに後塵を拝したと雖も、歴代の内、輝かしい樂歴を持つこの屈指のモダン・トランペッターの代表作に‘Quiet Kenny’を挙げるのは、ドーハムを軽く見縊っているのではないでしょうか。tpワンホーンと言うフォーマットの希少性、そして耳あたりの良さが過小評価の代表的存在のドーハムへの同情票となっているならば、尚更残念。

こんなことを言うと笑われるかも知れないが、この‘TROMPETA TOCCATA’はドーハムの約20年に亘るバップ・トランペッターとして最後の力を振り絞った命懸けの作品であったのではないかと思います。勿論、後付け論法ですが、この後の8年間のドーハムの姿を見るとそう思わざるを得ない。

前作「ウナ・マス」はかなりの好評を得ているがハッピーさだけが出すぎている感がする。その点、本作は全4曲、名演、しかも名曲揃いです。リーダーだけでなくサイドメンも素晴らしいプレイを聴かせ、タイトル曲でのトミフラは聴き手の予測を超えるミステリアスなソロを展開し、聴きものです。
しかし、何といってもラストナンバーの‘The Fox’がハイライト。ここでの
ドーハムはまるでこれがリーダー作として最後のプレイと予知していたかの如き美しくも激しく燃え尽きる
恩人とも言えるドーハムの心情を察知したのか、ジョー・ヘンダーソンがこれまた畢生の名ソロを展開する。聴き終えた後、なんだか目頭が熱くなってきます。
あまり話題に上ることのない本作はトランペッター・ドーハムの真髄を見事に凝縮している。

ps 僕が聴いている本盤はたぶんオリジナル盤のモノ。ずっしり重くよく言われる「耳マーク」が入っている。「音」がまるで違う。不思議なのはステレオ盤より断然モノ盤の方がエネルギッシュでそれぞれの楽器の音の粒立ちがイイ。ドーハムのtpがビシビシ鼓膜に突き刺さってきます。ドーハムの特徴と言われるあのくすんだ音色はウソとさえ思えるほどです。ヤッパー、BNのモノは人気があるのも当然。こりゃ全く別物だ。


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(2004/2/23)

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