幻 の 名 盤 vol.8
PLENTY OF HORN / TED CURSON
OLD TOWN OT LP 2003
TED CURSON (tp) BILL BARRON (ts) *ERIC DOLPHY (fl) KENNY DREW
(p) JIMMY GARRISON (b)
ROY HAYNES *DANNY RICHMOND *PETE LA POCCA (ds)
1961. 4
カーソンの初リーダー作にして「幻の名盤」に選出された本作のオリジナル盤はそこそこ高価で、Goldmineでは、NM盤で$200。では、内容はどうか?となると「うぅーん、そうかなぁ」と思うのは、決して僕だけではないようです。
まぁ、カーソンのような実力の割に表に出てこないタイプのミュージシャンには、自然と応援したくなるものですが、どうも、この盤の紹介の際、たった2曲しか参加せず、それもソロらしきものさえ聴こえないドルフィーを必ず持ち出す評、コメントを目にすると応援の声も萎んでくる。
僕が持っている国内盤ライナー・ノーツでは堂々と「テッドカーソン・ウィズ・エリック・ドルフィー」と表記さている。よくある事で別に目くじらを立てる必要はないけれど、必ずしも+になっているとは思えませんね。
それはそれとして、聴いてみましょうか。いきなり、威勢の良い‘Caravan’からスタートします。カーソンの高域まで切れのあるtpが聴きものです。でも、そのあまりのスムーズさが気のなったら、カヴァを見直すとイイ。実はカーソンが吹くtpは4つのバブルを持つピッコロ・tp。つまり、上下・ワンオクターブ広く出せるものなんです。
一通り、ザッと聴いてみた感想は、初リーダー作に賭ける意気込みと言うか覇気のあるカーソンのプレイは、タイトル通りで及第点としても、発展途上と言えば聞こえは良いが、コルトレーン病に侵されたバロンのtsが足を引っ張っている。更に、三人のドラマーが入れ替わる点も、一本筋が通っていない印象を与えますね。そうした、ウイーク・ポイントを隠すためには、やはり、ドルフィーが全曲参加し、ソロを取るべきだったのではないでしょうか。今となっては、無いものねだり、とでも言うのでしょう。
ここが、本作への評価、注目度が出来よりも‘OLD TOWN’という希少レーベルを超せない理由ではないでしょうか。
それはともかく、僕はこのカヴァが妙に気に入っている。タイトルの書体、コミカルな4バブル ピッコロ、カーソンのツイード・ジャケット、そして、右下のレーベル・ロゴ、イャー、モノトーンでレトロな雰囲気をイッパイ放出してますよね。
このレコードは聴くより、持つことに価値あり、とはチト言い過ぎでしょうか。もっとも、オリちゃんの事ですが。
(2009. 6. 10)
SAVOY MG 12048
Al Cohn (ts) George Wallington (p) Tommy Potter (b) Tiny Kahn (d)
Nick Travis (tp) Al Cohn (ts) Horace Silver (p) Curly Russell (b) Max Roach (d)
本作が「幻の名盤読本」にリストアップされた時は、プログレッシブ盤のカヴァで掲載され、Progressive PLP 3002とSAVOY MG 12048が併記されている。コーンの初リーダー・セッション(1950年)であるPLP 3002(10inch)は、実はトライアンフに吹き込まれ、リリースされた?ものをプログレッシブが再発し、更に、プログレッシブに録音した二度目のセッツション(1953年)はPLP 3004(10inch)としてリリースされている。
そして、その二枚をカップリングしてSAVOYから発売されたものが本作。この辺りの詳しい経緯は「Swing Journal ジャズ・ レコード・マニア(1991年)に載っているので、お持ちの方はご参照下さい。
なお、このプログレッシブ盤のカヴァは‘progressive plp3002’で検索すると出てきます。イャー、ほんと便利な時代になったものです。
これだけの経緯があれば、もう「幻の名盤」としての資格は充分ですね。因みに、Goldmineによると、このプログレッシブ盤、2枚はNMで$300と高値と付け、SAVOY盤は、当然ながら$80とガクッと下がっています。
で、初期のコーンの他、本盤を更に貴重にしているのが、二人のピアニストであることは衆目の一致するところです。特に1950年セッションでの伝説のピアニスト、ウォリントンではないでしょうか。彼の‘at Cafe Bohemia’(Progressive LP 1001’(Prestige LP 7820で 再発)は「超幻の名盤」として有名です。
1953年セッションのシルバーも、既に存在感、十分で、後年の大活躍が約束された感じです。また、曲によってビ・バップの面影を留めるNickの熱いtpもなかなかです。
白人テーナーの隠れ名手、コーンの男ぽくて、スィンギーなソロ・ワークはもう既に完成の域に近づいていますね。
なかでも、コーンのオリジナル・バラード‘AH-MOOR’のダンディなプレイが印象的です。
でも、一番の聴きものは、A-2、こちらもオリジナルの‘JANE STREET’だと思います。コーンはこの仄かに哀愁を感じさせるメロディが余程、気に入っていたのでしょうか、Nickの後、通常はシルバーの出番のハズなのに、再び、コーンがソロを取ります。これがとてもいいんだなぁ。それに、Nickの情感が籠ったtpもイイ。
ところで、この‘JANE STREET’は、ズートの「デュクレテ・トムソン」に入っているトップの‘CAPTAIN JETTER’と曲調が酷似していて、タコ耳にはソックリに聴こえる程です。
なお、Progressiive PLP 3002では、6曲が収録されていますが、本盤では2曲がカットされています。
それはそれてして、このモノトーンのカヴァ、なかなかGooです。ジャズマンとういうより学者か大学教授がtsを吹いている風情ですね。
(2011.6.16)
CONTEMPORARY S 7619
DUPREE BOLTON (tp) HAROLD LAND (ts) ELMO HOPE (p) HERBIE LEWIS (b) FRANK BUTLER (ds)
1959. 8. 1
本作の原盤は、ご存知、‘HIFI jazz’レーベルの612。オリジナル・カヴァはこちらです。1969年にコンテポラリーがリ・マスターして再リリースしている。
このオリジナル盤は、インパクトあるカヴァ・デザインと録音の良さもあって、コレクター達の間ではかなり人気があり、マスト・アイテム的な一枚ですね。
そして「幻の名盤読本」には、モチ、このオリジナル・カヴァで掲載されている。
この作品の存在を知ったのは、何故か「幻の名盤読本」(1974年4月発刊)で紹介されるより早く、手持ちのコンポラ盤は、同じ事情のE・ホープの‘TRIO’(S 7620)と共に既に入手していた。
ランドは、あのブラウン=ローチ・クィンテットでロリンズの前任者としてのプレイが殊の外、好評で、ネーム・バリューはそれほど大きく無いけれど、意外に支持するファンが多く、この作品は、「幻の名盤読本」に掲載された事も有り、彼の代表作として広く認知されている。
ロス・アンゼルスで録音されたにもかかわらず、当時のイースト・コースト・ジャズに対抗して、アップ・テンポでスリリングなハード・バップ演奏が展開されているのも魅力ですね。
ただ、、意地悪な聴き方かもしれませんが、本作の良い緊張感は、リーダーのランドではなく、「謎のトランペッター」と謂われるD・ボルトンの若々しいなプレイとバトラーのキビキビしたドラミングに負う所が多いのではないでしょうか。
テクニックは未熟ながら能力の限界に挑戦するが如きホットなボルトンのソロ・ワークは、荒削りで聴き手に「おいおい、大丈夫かな?」と思わせるものの、妙に爽快感を与え、時にはローチもどきに、時にはフィリーばりにグループ全体を鼓舞し続けるバトラーなくして、この緊張感は生まれなかったのでは。
で、肝心のランドといえば、ランド・ファンに喧嘩を売るつもりはないけれど、可もなし不可もなし、といったレベルと思う。アドリブの展開が割と平凡な上、ソロの出だしがワン・パターン、というランドのウイーク・ポイントが残念ながら垣間見える。
それとは別に、6曲中、4曲を提供している実質的にコ・リーダー的存在のホープのpに関しても、ややネガティブな印象を受けます。ホ−プは通好みというか、玄人好みでそれなりの高評価を受けていますが、少なくとも本作でのクセのある、しかも曲によって弱弱しいタッチは、他のメンバーとベクトルが少し異なる方向に向いているように思われますが・・・・
今まで、何度もオリジナル盤に出会っていますが、買い換える勇気がなかったのは、こうした印象が頭のどこかにあったのでしょう。
アルバム全体の出来としては、世評通り、ランドの代表作に挙げることにやぶさかではありませんが、ただ、ランドのベスト・プレイ作か?と言うと、些か疑問を感じます。
因みに、ランドの作品でUPしている‘JAZZ IMPRESSIONS OF FOLK MUSIC’でのプレイの方が数段、優れている。
ま、オリジナル盤を所有して初めて「幻の名盤」と気付くかもしれません。
(2012. 12. 3)