困った迷盤、苦手な名盤・人気盤 vol.1


BRILLIANT CORNERS / THELONIOUS MONK

RIVERSIDE RLP 12-226

Ernie Henry  (as)  Sonny Rollins (ts)  Theronious Monk (p、celeste)
Oscar Pettiford (b)  Max Roach (ds) 

1956

ャズ史上、燦然と輝く名盤、不滅の名演、がこのレコードに与えられた称号。その昔、1970年前後、当時、リバーサイドは廃盤状態だった時、ドイツabcからアメリカ産の再発盤がリリースされた。確か赤と黒を使った最低のジャケットで、タイトルも‘Mighty Monk’に変更されていた。意気込んで聴いてみたところ、なんか変、タイトル曲では、抑圧された、窮屈な演奏に感じた。その後、廃盤屋でオリジナルジャケット(2ndプレス盤)も買って何度もトライしたが、結局、同じ。

ところが、90年、故、油井氏の「ジャズ名盤物語」の中で、
同曲が25回もテイクを重ね、最後は、テープ編集された、という「いきさつ」が紹介され‘やっぱり’と思った。そうまでして作られた「このレコード」は、それでも名盤中の「名盤」なんでしょうか?今でも「屈指の名盤」の評価は雑誌、評論家の間で変わっていません。それに、この「いきさつ」について、その後、誰も触れようとしない。

僕の知る限りでは、モンクは、オフィシャル・レコードで、二度とこの曲を演奏していないと思います。それが、
モンクのミュージシャンとして「良心」からくるものとすれば、こんな罪なことはない。なにも難解な曲を作ったり、小細工ぜずとも「トリオ(Prestege)」のようにシンプルに演奏するだけで聞き手を黙らす力をモンクは具えるているはず。
でも、きっと、僕の耳がタコなんでしょう。


OUR MAN IN PARIS / DEXTER GORDON
BLUE NOTE   4146
DEXTER GORDON (ts)  BUD POWELL (p)  PIERRE MICHELOT (b)
KENNY CLARKE (ds)

名盤中の名盤、と言われるこのゴードンのレコードは、苦手だ。tsのワンホーン・カルテット、B・パウエル、K・クラークからなるリズム・セクション、そしてお馴染みのスタンダードナンバー、と聞けばもうそれだけで7〜8割がた名盤の資格、充分。パリの自由な空の下、tsはブローし、pはスイング、bはビートを弾ませ、dsはドライヴする、演奏内容も申し分ない。しかし、名盤にケチを付けるつもりはないが、聴くにつれ、何故か、もうイイヤと針を上げてしまう。

何かが足りない、スパイシーが足りないのだ。隠し味といってもいい。スパイシーって何だ、と言われそうだが、つまり、
4人の名手達の演奏から期待する創造的スリル、というか、Somethig Newが希薄なのだ。
このレコードのファンの方、ごめんなさい。
1年後、同じパリで吹き込んだ「One Flight Up」は、メンツは格下にもかかわらず、Somethig New,楽想が高い。

余分な事を考えずに素直にこの「名盤」を堪能できる人が羨ましい。


IN THE WORLD / CLIFFORD JORDAN

STRATA−EAST SES 1972-1

CLIFFORD JORDAN (ts)  JULIAN PREISTER (tb)  DON CHERRY * (tp)WYNTON KELLY(p)  WILBER WARE ( b)  RICHARD DAVIS ( b)
AL HEATH * (ds) 
side2
KENNY DORHAM (tp)  ROY HAYNES  (ds)  ED BLAKWELL ( ds)

ジャズ喫茶の人気盤」と、ある人はしつこく、このレコードを吹聴する。だが、当時、僕はジャズ喫茶で一度も聴いた記憶がない。ある特定地区の現象だったのだろうか?それともたまたま、だったのだろうか? いずれにしても、このレコードがCD化されにくい状況であれば、殊更、もの書きしたくなる気持も解らないわけではないが。

それはともかく、ジャズ喫茶の薄暗い空間、ジャケットの薄気味悪さ、そして出だしの日本人好みのマイナーな曲調、これだけ揃えば人気盤必定。おまけに
メンバーが一昔前?の「つわもの達」となれば、なおさら。自然と応援したくなる。だが、このレコードを捜している人には申し訳ないが、内容は、残念ながら、意外に平凡です。故・油井氏が「長すぎる」というのも当っているのではないか。それに噛みつく行為は、まぁ、確信犯かな?

ただし、「名盤」ではなく、三位が渾然一体として当時のジャズ喫茶の「人気盤」となった事は、事実だろう。それと同時に、このレコードが、ジャズ・ジャーナリズムとジャズ・ファンとの間で徐々に吹き始めたすきま風の動かぬ証拠にもなった。

1963

1969

SUPER NOVA / WAYNE SHORTER

BLUE NOTE  BST 84332

不思議なことに、ショーターほど批評家からジャズ・ファンまで、こんなに「ウケ」のよいミュージシャンは、あまりいない。だが、本音のところは、どうなのかな、と考えていたところ、某氏の「ジャズ名盤を聴け!」と、なんともアジテイトな本に、ボロクソに書かれていた。やはり、そう、思っている人もいるのだなぁ、と思いました。

僕が本作を、輸入中古レコードで、手に入れたところ、ジャケットの中に前の所有者のと思うが、SJ誌のディスク・レヴューの切り取りが、直輸入盤として初めて発売された時(70年)のものとそれから後年の再発時のもの(二人)が、二枚とも入っていました。どちらも(三人の評論家とも)、「恐れ入りました」マークが付いています。その根拠は、異口同音に「新しいジャズ」の方向性を示しているから、です。が、さぁ、本当にそう、なっていったのだろうか?評論家の宿命と言えば、それまでだが、
答えは、前の所有者が、二枚のレヴューを切り取りまでして聴き込んだレコードを手放した事実が物語っているのではないでしょうか

ps もう一つ不思議に思う事は、ショーターは、いつも、だれかの(ブレイキー、マイルス)の傘の下とか、ウエザーレポートや、ナシメントなど、他の力を借りてばかりで、どうして自分の力だけでグイグイとジャズを引っ張って行かないのだろう。みんな、それを期待していたのに。いつのまにそんな処世術を身に付けたのだろう。彼のそうしたスタンスが 「黒魔術」からきているとしたら、もったいない話だ。
もっと自信を持って演って欲しい、と思うのですが。ショーターが嫌いではないので、誤解の無きよう、念のため。


WAYNE SHORTER (ss)  JOHN MCLAUGHIN、SONNY SHARROCK、
WALTER BOOKER (g)  MIROSLAV YITOUS (b)  JACK DEJOHNETTE (ds)
CHICK COREA (ds、vib)  AIRTO MOREIRA (perc)  MARIA BOOKER (vo) 

1969

*あくまでも、個人的、私見です。

ps テープ編集は最終的に25テイクの中から3つのテイクを繋ぎ合わせそうです。
   
   なお、‘Brilliant Corners’は‘MONK'S BLUES’(1968)で再演されていました。失礼しました。

DOWN HOME / ZOOT SIMS

BETHLEHEM  BCP 6051

ZOOT SIMS (ts)  DAVE McKENNA (p)  GEORGE TUCKER (b)
DANNIE RICHMOND (ds)

1960

本作は「名盤」との評価の高いレコードですが、僕は苦手と言うより、その良さが判りません。ややアップ・テンポの曲をただスイングさせているだけに聴こえてなりません。楽しいだけならごまんとある、とまでは言いませんが、もう少しアイディアというか「一捻り」が欲しいですね。ズートの野暮ったさがモロに出てしまった感がします。
それに加えて、
マッケ(ン)ナの安っぽいヘラヘラピアノ、何とかの一つ覚え(失礼)みたいなリッチモンドの鈍重なdsとくれば、いくらタイトルが「ダウンホーム」と言えども勘弁してほしい。タッカーが一人で頑張っても多勢に無勢、討死している。

考えてみると1960年といえば、ジャズが大きな転換期を迎えていた頃です。
全く時代性が感じられないのも不思議と言うか、その能天気さに驚かずにはいられない。
ズートの良さは時代性を超えた所にある、と言うならば、例えば、ブルーノートの
ユタ・ヒップ盤での深遠なプレイとか、豪快にして珍しくもあか抜けたパフォーマンスを聴かせるフォンタナの「クッキン」の方が出来は遥かに上と思います。

ズートの本当の力量はこの「ダウン・ホーム」如きではないはず。

‘the great’とは、チト、大げさすぎやしませんか?もっとも当人がリクエストしたわけではありませんが。 


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さて、本作をじっくり聴いてみると、ショーターのssは、アクセントやテンポを変えたり、リズムに変化をつけているものの意外に単調で、同じようなフレーズを吹いているのが判ります。まだ、ssを充分、ものにしていないようです。ただ、当時のジャズの閉塞感を打ち破った演奏には、違いないかも。
チョット、ストイックな考えかもしれないが、もし、ショーターが世評?で言う、真に先進性に富んだ、創造的なミュージシャンなら、「VSOP」には、参加していなかったのでは。そんなことまで考えさせる
不思議な「名盤」です。

本作品は未CD化のみならず、されにくい状況のため、ちょっとしたコレクターズ・アイテムの一枚になっており、円盤屋での人気が高い。
但し、レーベル
全体が白(左)が1stプレスで、白黒は2ndプレスとの情報を得ていますので、ご参考に。