隠れた名盤・好盤  Vol.12









AN EVENING WITH JOE HENDERSON, CHARLIE HADEN, AL FOSTER






RED RR215




JOE HENDERSON (ts) CHARLIE HADEN (b) AL FOSTER (ds)



AT GENOVA JAZZ FESTIVAL JULY 1987




1963年、BNからレコーディング・デヴューし、それ以来「モダン ジャズ・シ−ン」で活躍してきたジョー・ヘンは1975年4月の‘BLACK MARCISSUS’(Milestone)のセッションを最後に不遇という長いトンネルに入り、1985年、新生BNからVillage Vangurdでのライヴものを2枚発表し、再びジャズ・シーンの表舞台に舞い戻った、というが通説?となっている。
確かに、70年代初め、人気ブラスロック・グループ、BS&Tに参加した事も、決してプラスになっていないようだ。


でも、その間にENJA、COTEMPORARY、MPSから散発ながらリーダー作をリリースし、多くはないけれどサイドマンとしても参加している。



本当の不遇時代は、むしろ、Village Vangurdでのライヴものの後、1992年にVERVEから新作‘LUSH LIFE’をリリースまでの7年間ではないでしょうか。

その不遇時代に手を差し伸べたのが、イタリアのRED。本作の他、1991年3月、NYまで出向き、‘THE STANDARD JOE’を録音する。この出来が認められ、VERVEに迎え入れられたようです。


で、7年間の不遇の切っ掛けとなったのは、実は皮肉にもVillage Vangurdのライブものだったのではないでしょうか? 我が国では、後期ジョー・ヘンの代表作と事あるごとに持ち上げられているけれど、ハッキリ言って、それほどの出来ではないと思う。そして持ち上げられたこと自体が不運だった。



その証拠と言えるアルバムが本作。こちらの方が数段いい。Village Vangurdのライブものの出来に納得できず、暫くしてリリースされた本作を聴き、やっと腑に落ちました。
ただ、イタリア盤なので、一部のファンを除き、なかなか入手できず、広く知られなかった事が真に惜しい。



メンバーはR・カーターの代わりにC・ヘイデンとなっている。ジェノバの夏の夜空の下、ジョー・ヘン、会心のプレイを聴くことができます。

収録曲はお馴染みの4曲。モンクの‘Ask Me Now’、オリジナルの‘Serenity’、S・リバースの‘Beatrice’、そしてジョー・ヘン、18番の‘Invitation’。
中でも‘Serenity’における一気に畳み掛けるようで、見事にコントロールされたソロ・ワークは圧巻! お得意の‘Invitation’では余裕あるアドリブを披露してくれます。

それにしても、この日のジョー・ヘン、余程、調子がよかったのでしょう、肩の力が抜け、自由自在にtsを鳴らし切っています。




本盤を更に価値あるものにしているのが録音の良さ。ライブというハンディをまったく感じさせず、スタジオ録音か?と錯覚させるほど緻密な「音作り」がされている。一応、ステレオ録音とクレジットされているが、ほぼモノラルに聴こえ三者が一丸となっている点がイイ。また、バランスも良い。少しパワーを入れると、臨場感がスゴイです。



兎に角、ジョー ヘンダーソンの底力をまざまざと見せつけられた一枚!モダン ジャズのtsはこうでなくちゃ!

間違いなく「モダン ジャズ」の醍醐味を味わえる作品ですね。








2001年6月30日、肺気腫のため死去、享年64歳。もう少し長生きしてほしかったなぁ〜




(2013. 3.10)







KATANGA ! / CURTIS AMY & DUPREE BOLTON






PACIFIC JAZZ PJ 70


DUPREE BOLTON (tp) CURTIS AMY (ts,ss) JACK WILSON (p) RAY CRAWFORD (g) VIC GASKIN (b) DOUG SIDES (ds)


1963.3





ジャズ演奏で主に使われる楽器の中で花形といえば、tp。そして、昔から「ジャズの歴史」はトランペッターによって切り開かれてきた、ともよく言われる。つまり、サッチモ、ガレスピー、マイルス・・・・・・・ですね。

何故か?と言うと人間の持つ「喜・怒・哀・楽」といった感情を一番ストレートに表現できる楽器なのだろう。また、例えば、進軍ラッパ、ファンファーレのメイン等、人々の気分を鼓舞したり、高揚させる時に使われるのもtpだ。


ところが、わが国ではジャズtpに対し随分偏った聴き方をするファンが少なくないようだ。乱暴に言えば、「八分目で渋く」吹くタイプに対しては「ポジティブ」に、「目一杯、全力で」吹くタイプには「ネガティブ」ではないでしょうか。恐らく数あるバラードの名演がそうした聴き方のベースになっているのだろう。
それはそれで、好みのレベルであり、別に問題はないが、「目一杯、全力で」吹くタイプに対し「やかましい」とか「うるさい」と誹謗するのは如何なものだろう。自ら「偏った聴き方しかできない」を露呈しているばかりか、それに気が付かない所がなんとも滑稽ですね。ジャズ・ミュージシャンは、何とか自分のオリジナリティを出そうと一生懸命、戦っているのに。



で、今回の主人公はH・ランドの‘THE FOX’でデビューしたデュプリー・ボルトン。この2枚しかレコードが残されていなく、しかも経歴等の資料もほとんどなく「謎のトランペッター」と言われる。分かる範囲では、1929年3月3日、オクラホマシティ生まれ、1993年6月5日、カルフォルニアで死去、享年64歳。


この作品はアミーとボルトンのダブル・ネームになっていますが、アミーの影は薄く(決して悪くないのだけれど)、ボルトンのHOTなtpは勿論、モーダルなウィルソンのp、グルーヴィーなクロフォードのgに耳が行っていまう。味のあるメンバー構成ですね。60年代をしっかり表現している。
 

まず、TOPのボルトンのオリジナル‘KATANGA’、ボルトンとカタンガ(コンゴ動乱、独立運動)との結びつきはよく知りませんが、まぁ、正に「火の玉」ペット!そして「型破り」であり、「完璧」ですね。脳天をぶち抜かれる。渋いペット好みの方にはショッキングなペットだろうなぁ。この一発で、勝負アリ。
3曲目、ワルツ・ビートに乗った‘Native Land’のエキゾチック・ムードの中、ボルトンのtpが鮮やかに舞う!10分を超す長尺だが、長さを全く感じさせない。
 

B面に入り、ウィルソンのオリジナル‘Amyable’では、サイズのリム・ショットをバックに各ソロイストが見事なプレイを聴かせます。また、唯一のスタンダード曲、‘You Don't Know What Is Love’ではボルトンの哀感漂うソロが聴きものです。ほとんど独学で習得したというテクニックは、天才ものですね。


カヴァの不気味さ、メンバーのネーム・バリューの低さからなかなか触手が伸びませんが、決してマニア向きの作品ではなく、ハード・バップをベースにアルバム全体の出来は上々と思います。



14歳で家出し、64歳で亡くなるまでの50年間の内、ほとんどを刑務所・更生施設(麻薬等)で暮らしたボルトンは、確かに根っからの無法者かもしれない。でも、「喜怒哀楽」の感情は人一倍、持っていたのではないでしょうか。
 


黙って、ボルトン「渾身」のアウト・ロー・ペットを聴け!緩んだ鼓膜にカァ〜ツ!



(2013.7.27)






THE SHARP EDGE / HOWARD McGHEE




           


BLACK LION BL 305                            BLP 60110


HOWARD McGHEE (tp) GEORGE COLEMAN (ts) JUNIOR MANCE (p) GEORGE TUCKER (b) JIMMY COBB (ds)


1961.12. 8 NY



左がオリジナル・カヴァ(但し、国内盤)、右は1988年、西ドイツ(当時)で再発されたカヴァです。オリジナルはパッとみた感じはマイルスに見間違えてしまうほどそっくりです。それに比べ、再発盤のマギーは彼の裏人生が皺と共にそのまま刻み込まれたヤクザっぽい顔で映っている。
 
 
この2枚を載せた理由は、再発に当って全8曲中、4曲がオルタネイティヴ・トラックに差し替えられ、その内のA−1(The Sharp Edge)とB-1(Arbee)の曲名が入れ替えられている。しかも、ワケは定かでありませんが、ライナー・ノーツでも変更されており、単なるミスではない。

その4曲の違いは、ザクッと言うと、マスター・テイクはコントロールを利かせた完成度重視の演奏で、それに対し、オルタネイティヴ・トラックは自由奔放さと躍動感が強く出ている。優劣の差は全く無く、好みで言えば、オルタネイティヴ・トラックの方を取りたい。

H・マギーはバップ・トランペッターの系譜上ではガレスピーに続く2で、1949年にはDB誌の人気投票でポール・ウィナーを、メトロノーム誌でも47〜51年にかけて常に4位以内にいた実力者で、しかも、F・ナバロに大きな影響を与えた「大物」です。
ただ、彼も「ヤク」という悪習から逃れ切れず、その才能を充分に開花させれなかったのは、真に惜しい。


マギーがモダン期に入って、散発的にリリースした作品は、どれもかっての「大物」の面影と、当時の「苦悩、もどかしさ」がシンクロナイズされ、翳りを漂わせた「マギーの世界」を愛するファンは少なくない。


コールマン、マンスをはじめとするモダン派を引き連れた本作は、そうした諸作の中で、マギーの大物ぶりの片鱗を最もストレートに聴かせる快作!
 

特に、曲名を入れ替えられたA面、B面のTOP2曲でのマギーのHOTなプレイと全員が一丸となるノリの良さは格別です。‘Shades Ob Blue’での渋いミュートも聴きもの。バラード曲、‘The Day After’、‘Ill Wind’の深みある表現力、小粋なラテン・タッチ曲‘Topside’等々、プログラミングもなかなかのもの。
 
 
そんな中、思わぬ掘り出し物が、ラスト・ナンバー‘My Delight’。ダメロンの名作‘Our Delight’と間違いそうなフリーマン・リーというtp奏者の作品。マンス、マギー、タッカー、コールマンとミディアム・テンポでソロをつなぐ流れが絶品!手足の揺れだけでなく、最後は口笛まで吹いてしまう心地よさです。特に、タッカーのbソロは特筆もの!S・ラファロを連想させる豊かな音量、そしてbも立派なソロ楽器になると思わせるプレイはどうでしょう!
それに、ダウン・ツー・アースでありながら泥臭さを少しも感じさせない小洒落たマンスのpもGoo!また、コールマンも上々です。


ただ、両盤ともに、「音」がいまいち、国内盤はカッティング・レベルが低く、tpとtsがやや奥に引っ込んでおり、再発盤は音をいじっていて、ややダンゴ気味なのが残念。「音」がもう少しましならば、もっと注目されたでしょう。ボリュームをやや上げて聴くのがコツ。オリジナル盤はどうなのか、気になります。


1987年7月17日、NYで死去、享年69歳。味のある名トランペッターでした。



(2013.12.14)


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