独 り 言

(9) 「大衆」という名のエゴに裏切られた?MOBLEY


POPPIN’ / HANK MOBLEY

BLUE NOTE  GXF 3066

ART ARMER (tp)  HANK MOBLEY (ts)  PEPPER ADAMS (bs)
SONNY CLARK (p)  PAUL CHAMBERS (b)  PHILLY JOE JONES (ds)

モブレーのLPをコメントすると、憂鬱になる。これまで二枚レヴュー・コメントしているが何故かよく解らない。tsのミドル級チャンピオンとして語り継がれるモブレーを「ハード・バップ」というフィールドでしか語れないもどかしさから来るものかもしれない。
ジャズ・メッセンジャーズ、H・シルバー・クインテット、M・ディビス・クインテットという輝かしい楽歴は誰にも劣るものではない彼が60年後半、アッと言う間にその存在感を失った元と言えば「大衆の心変わり」ではなかっただろうか? 

「大衆」なんてこれほどいい加減なものはない。が、怖いものでもある。心の中ではハード・バップが本当は好きなのに、識者達が「これが新しいジャズだ」と言うと、電車に乗り遅れまいと先陣争いをする筋が必ず現れる。いつの世のそうなのである。それに引っ張られてしまうのが「大衆」であり、リバイバルなんて言葉は「大衆のエゴ」そのものである。
しかし、モブレーはついにカムバックしなかった。「大衆のエゴ」に無縁なほど骨の髄までハード・バップだったのだ。だから一流の人気を手にしたのである。

1957

本作は、80年、世界初登場シリーズでリリースされたもの。最近、このシリーズが円盤屋で値を上げているという噂を耳、否、目にし、思い出したレコードである。2ヶ月前に吹き込んだドーハムとのセッションもお蔵にされている。1560、1568、とこの年4作も録音したためか、後半の2作がボツの憂き目に会った。
どちらもピアノはクラークが弾いている。そのクラークのpが絶好調である。3ヶ月前に初リーダー作を吹き込んだ後だけに、さすがに指さばきが闊達である。pを弾くことが楽しくて仕方が無いとでも言いたげで、スタート曲でも意表をついて、いきなりトップ・バッターでいいソロをとる。もう一人、絶好調の人がいる。ファーマーだ。tpの音のエッジが立っている。マイルスの‘Tune Up’では、マイルスだけがトランペッターじゃ、ないぞ、と言わんばかりに気合の入ったロング・ソロを吹く。珍しく「音」を一発、大きく外しているものの気迫で押し込んでしまうほどだ。

さて、リーダーのモブレーはどうか、と言うとこれが実に肩の力が抜けたプレイを演っている。アダムスの油虫の・・・・・とまで揶揄されるbsに押されたわけでもなく、いつになくイイ感じなのである。なかでもラストの自作曲
‘East Of Brooklyn’でのソロは極上。数ある名ソロのなかでも最上位にランクされるのではないでしょうか。
では、何故、お蔵にされたのだろう、と疑問が湧くが、ファーマーのミス・トーンだけとは考えられない。独断ですが、ひょっとしたらジョーンズのプレイかもしれない。いつものジョーンズのキレ味がなく、タイム・キーパーのようなドラミングに終始しているのは気のせいなのか。もっフロント陣をプッシュすれが良かったのに。まぁ、いずれにしてもソロ・チームは立派です。

86年5月、フィラデルフィアで病死。享年55才。モブレーはついにカムバックしなかった。否、「大衆」と言う名のエゴのためにカムバックする必要はなかったのである。70年代初頭、第一線から40才の若さで引き下がらなければならなかったモブレーの胸の内に去来したものはなんだったのだろう。
頑なにハード・バップを貫いた男しか解らぬ風景だったかもしれない。そんな風景がこのレコードにはあるような気がしてならない。
モブレー・ファンなら一度ははこの‘East Of Brooklyn’の風景を聴いてほしい


(2004.5.11)

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