独り言 (21)  WAYNE SHORTER 「真」の最高傑作








ETCETERA / WAYNE SHORTER





BLUE NOTE LT1056


WAYNE SHORTER (ts) HERBIE HANCOCK (p) CECIL McBee (b) JOE CHEMBERS (ds)

1965. 6. 14




‘ The Collector’一曲のみ、McBeeに代わりREGGIE WORKMANが入った日本制作盤。






70年代半ば(77年?)と思いますが、SJ誌で「スパー・ノバ」の再発レビューが掲載され、担当したK氏はこうコメントしている。「ウェイン・ショーターがテナー奏者としてA級かと訊ねらると、僕は首を縦にふりかねる。ただし、一歩前進的音楽概念をもったミュージシャンとしては、A級と断言でき、楽器奏者としてソプラノ・プレイヤーとしてのほうが、はるかに秀でている。」と。

口では何とでも言えるが、記録に残るレビューで「A級ではない」と言うのはかなり勇気が要ります。それなりに確信を持っているからでしょう。
ま、K氏以外で、「過大評価」も含めてそう思っている方も多いのではないでしょうか。また、「一歩前進的音楽概念」というよりむしろ「立ち回りが上手い」イメージが強いし、ssに関してもそれほどとは思えない。

ただ、tsの実力は一級品なのに、素直に「A級」と認められない何かがあるとすれば、多分、「オカルティズム」、「ブラック・マジック」等々余分な要素が入り込み、tsを半身で吹いているイメージが付き纏う。



本作はリアルタイムではリリースされず、1980年に発掘シリーズの一枚で初めて日の目を見たアルバム。一方、日本盤は翌年に録音した‘Adam's Apple’のセッションから一曲編入し、「世界初登場」と銘打って一足先にリリースしている。

オリジナル米国盤はカヴァが冴えないし、日本盤はセッションを差し替えたため、寄せ集めのイメージが付きピントがボケてしまっている。、タイトルまで変えた「意図」が解りません。これは「勇み足」ですね。

しかも、日本盤のライナー・ノーツでは内容については何も触れず、ショーターの経歴と録音データーのみ。いくら「大御所」と言われた方でも、これはないと思います。聴かないで書いた事が○分かり、依頼したレコード会社も「NO!」と言うべき。

また、ジャズ批評別冊「完全ブルーノート・ブック」でもたった3行で片付けている。

つまり、当初から我が国では「無視」されているのが現状です。所詮「お蔵入り作品」と甘く見たのでしょう。



ところが、発掘したM・カスクーナは本作の「お蔵入り」を「最高傑作の一枚で大いなる謎」とコメントしている。また、フランシス・ディビスは「ショーターで一枚身銭を切るなら『ETCETERA』だ」と断言している。
この日米の格差はどう解釈したらいいのでしょう。我が国のジャズ・ジャーナリズム、ジャーナリストの実態が露呈されている。



無駄口が長くなりました。本題へ。


結論を先に言うと、ショーターの最高傑作はこれ、「エトセトラ」。日本盤「ザ・コレクター」ではありません。


ショーターが妙な色付けをせず、tsと正対してA級テナーとしての「凄み」を感じさせます。上述のK氏のコメント時では、本作はまだ発掘されていなく、もし、リアル・タイムでリリースされていれば、そのコメントは無かったかも。


とにかく、B面の2曲、G・エヴァンス作‘Barracudas’とショーター作‘Indian Song’が素晴らしい。‘Barracudas’では、まるでシロッコのようなショーターの熱風とその後、徐々に吹き荒ぶ砂嵐が如きハンコックのp、背後からこれでもか、とばかりカウンター・パンチを繰り出し、ここ一番で、バシッとキメを入れるチェンバースのドラミングに鳥肌が立つ思いです。

コルトレーンの‘オレオ’に似た曲想を持つ‘Indian Song’、マクビーが弾き出す粘りあるベース・ラインに乗ってショーターが内に蓄積したエネルギーをエモーショナルに炸裂させ、思索的なプレイに徹するハンコックも素晴らしい。更に、チェンバースが出色のプレイでフロントをプッシュする、まさに恐るべし。他の作品にないテンションの高さにただただ驚かされる。

また、A面の‘TOY TUNE’、ショーターが珍しいほど4ビートに乗ってスムーズにtsを鳴らし、ハンコックのちょっぴりファンキーさを湛えたソロ等、その心地よさに知らず知らず手足がスイングする。日本盤はショーターらしくない、と判断して‘The Collector’と差し替えたのだろうか。余計な事をするもんだ。差し替えるなら、他作でもよく似た演奏がある2曲目の‘Penelope’の方が良かったのでは。


リーダーとしての資質にやや難が有るショーターがBNの諸作に比べ、自分のキャラを押さえ気味にtsを正攻法で攻めた結果、グループ・エクスプレッションが格段にUPしている。‘SPEAK NO EVIL’を除いて、今一つショーターと波長が合わないけれど本作は別格です。



ショーターのテナー奏者としてA級を記録したこの最高傑作は、我が国ではこれからも埋もれたままなのでしょうか。


くどいようですが、「ショーターで一枚身銭を切るなら『ETCETERA』だ。」




(2015. 10. 13)



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