独 り 言 

今、市場に出回っているCDのライナーノートで、この作品の発表時期が、‘コルトレーンの死後、10、又は、15年程、経ってから’と、書かれているものがあるようですが、それは、間違いです。日本では、1970年、直輸入盤として発売されている(本国では1969年?)。つまり、死後、2、3年で、既に発表されています。もし、書かれている事が事実ならば、いい加減なライナーノートを書くもの書き屋には困ったものだが、チェックしないで鵜呑みにする発売会社も呆れたものです。
最近、某氏の「ジャズを聴くバカ、聴かぬバカ」といった三流週刊誌、顔負けのタイトルの本の中で、この国の「ジャズ業界」の内幕が暴露されています。上述の例を挙げるまでなく、本当のことであろう。興味のある方は、まぁ、買うまでもなく、立ち読みで充分ですので、どうぞ一読を。ただし、「これを読むバカ」と某氏の笑っている顔が浮かぶかもしれない。でも、この業界の実態を垣間見るのもまんざら、ムダで無いのでは。

さて、マイルスとコルトレーンを食いものにしているこの国のジャズ業界にとって、この作品は、チョット頭の痛い存在ではないでしょうか? 本作をお聴きになっている方は、既にお気づきになっていると思いますが、内容は、最高傑作といわれる‘至上の愛’に勝るとも劣らない、いや、遥かに凌駕する出来映えなんです。
しかし、この業界は、これを黙殺しているフシがあります。業界にとってみれば、今まで通り‘至上の愛’が一番のままの方が、都合がいいのです。今更、‘トランジション’のほうが、イイです、と評価を見直しても、何の得にもならないからです。
そして「未発表作」扱いにして、時々、「裏名盤」としてお茶を濁しておけば片棒を担いだ諸先生方の面目をも潰さずに済むからです。
ところが
4年?前、某専門雑誌が‘21世紀に残す名盤’という企画を打ち出し、墓穴を掘ってしまった。「ts」篇では、当たり前のように「至上の愛」が最高点を得て、1位になったが、お抱え?評論家達、誰一人、1点も‘トランジション’に入れていなかったのです。見事なチームワークです。でも、これで、‘トランジション’潰しが意図的であることが判明したわけです。しかし、その矛盾に気が付いたリスナーも少なかったのでは。

(2) 「TRANSITION」の謎

TRANSITION / JHON COLTRANE 

IMPULSE AS 9195

26/05、10/06/1965

「至上の愛」の半年後、「アセンション」のわずか18日前に録音された‘トランジション’(DEAR  LORD除く)は、「調性の世界」の最後の作品にもかかわらず、所謂「お蔵入り」された演奏。しかし、通常の「お蔵入り」とはワケが違い、本作の場合、コルトレーン自身が、妻、アリスに「自分が生きている間は、決して発表してはならない」と言い聞かせたもの。このあたりが「謎」であるが、それに言及された話を、僕は耳にしていないが、どうなんでしょう。想像するしかないが、コルトレーン自身、‘最高の出来’と確信していたのでは? これを発表すれば、どういう事態になるか予測していたのではないでしょうか。
それと、名プロデューサー「ボブ・シ−ル」がインパルスをはなれ、1969年に「フライイング・ダッチマン」を設立した事と関係があるかもしれない。設立と発表時期が妙にマッチしている。
ひよっとして密約が有ったのではないでしょうか?彼が、コルトレーンについて、あまり多くを語ろうとしないのも少々気になるところ。
同時にそれが、本作の素晴らしさと悲運を語っているのかもしれない。 今となっては、神のみぞ知るところでしようか。

チョット、熱くなるのも、「至上の愛」アレルギー症候群が相変わらず発症したり、ベスト作特集の乱発による「BALLADS」のまるで最高傑作であるかの如き最近の人気ぶりは、「コルトレーン」というミュージシャンが本当に理解されていないような気がするのです。この‘トランジション’をもっと多くの人達に聴いてほしい。そうすれば、「アセンション」以降の‘アヴァンギャルド・トレーン’も少しも難解ではなくなり、「モダンジャズ界の黒い牽引車」と言われたコルトレーンの実像をもっと知ることが出来るのではないでしょうか。

ps 「BALLADS」は、通説?では、マウスピース調子が悪く、仕方なく出来た作品のように言われてますが、「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」がDB誌で2.5星と酷評され、慌てたB・シールがこれを企画した、というのが本当?らしい。マウスピースの話が一人歩きしたようです。余分な事を言いました。すいません。でも、さすが、トレーン、いい作品です。


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(24/04/’03)

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